第22話:喧騒の予選、静寂の覚悟
『Link-V』のトップ画面は、今や『次世代新人王決定戦』のバナーで埋め尽くされている。 全ジャンルの新人が参加するこの大会だが、最も注目を集めているのは、やはり「歌」を武器にする僕と優美那の直接対決だった。
「……すごいな。予選初日なのに、ギフトの飛び交い方が桁違いだ」
自室でモニターを眺める。 他のブロックでは、ゲーム実況のCランク勢が数千人のリスナーを沸かせ、雑談特化のBランク勢が100万円近いギフトを積み上げている。 アプリ全体がこの「お祭り」で熱狂し、各ランクの「時給最大値」を軽く超えるような経済圏が動いていた。
そんな中、僕のスマホに一通のメッセージが届く。
【白雪:……他人の数字を見て、縮こまっている暇はあるの?】
「……紫苑様」
【白雪:今回の予選、私は一切貴方を助けない。優美那にも同じことを言ったわ。……自力で上がってきなさい。本物の「実力」を、このお祭りの中心で証明して見せなさい】
厳しくも、真っ直ぐな言葉。 白雪さんはAランク(月収20万)のプライドとして、そして僕たちの師として、公平な審判でいるつもりなのだ。
「……分かってます。紫苑様。……行ってきます」
僕は配信開始ボタンを叩く。 今夜はただの歌枠じゃない。リスナーからの「リクエスト即興歌唱」と、それに合わせた「全レス雑談」。 僕が持つ全てのスキル――放送事故から学んだ対応力、紫苑様に鍛えられた喉、そして妹に鍛えられたメンタル――その全てを注ぎ込む。
コメント欄には、優美那のファンや、僕を売名扱いするアンチも混じっている。 だが、そんな混濁とした熱気こそが、僕をさらに熱くさせた。
「……いらっしゃい。……今日は、僕がCランクの『壁』だということを、皆さんに分かってもらおうと思います」
静かに、だが熱く宣言する。 同接は一気に1万2,000人を突破。 『Link-V』の「おすすめ」のトップに、僕のアバターが躍り出た。
その頃、佐藤家のリビングでは。
「……ふーん。いい顔して歌うじゃない、お兄ちゃん」
SSSランクの瑠々が、画面を見つめながら小さく呟く。 彼女は知っている。ここからが、ギフトという名の「弾丸」が飛び交う、本当の戦場になることを。
予選突破まで、あと三日。 僕と優美那のスコアは、コンマ一秒ごとに順位を入れ替えながら、決勝の舞台へと加速していく。




