第20話:それぞれの矜持と、挑まれる「実力」
Cランクに昇格して初めての集計。 運営から提示された月収の最大目安は、約7万円。 Eランクから這い上がってきた僕にとっては大きな一歩だが、上を見ればBランクは約13万円、Aランクは約20万円、そして妹のSSSランクに至っては約100万円という巨大な壁がそびえ立っている。
だが、僕の推しである白雪さん(紫苑様)は、Aランクという地位にありながら、今も本屋でバイトを続けている。
「……紫苑様。あの、差し支えなければ聞きたいのですが」
バイト終わりのボイトレ中、僕は思い切って尋ねた。 「Aランクなら、配信一本でも生活できるはずです。それなのに、どうしてバイトを?」
白雪さんは楽譜から目を離し、穏やかだが芯のある声で答えた。
「……差別化しているだけよ。配信での収益は、リスナーが『紫苑』に期待してくれた対価。それは全額、機材や衣装、歌の勉強に充てるべきものだと思っているわ。対して、ここでのバイト代は『白雪』という一人の学生が、自分の生活と将来の蓄えのために稼ぐもの。……どちらも私にとって等しく大切な『仕事』なの」
彼女はランクの上下で人を判断しない。自分に対しても、配信者としての自分と、一人の人間としての自分を、どちらも疎かにせず誠実に向き合っているだけなのだ。
「納得した? ランクが上がったからといって、浮ついている暇はないわよ。……さあ、次のフレーズ」
「はい……っ!!」
彼女のストイックさに背筋が伸びる。 だが、僕がCランクという「公の舞台」に上がったことで、周囲が放っておかなかった。
公式イベント『次世代新人王決定戦』。 Cランク以上の新人が競い合うこの大会の掲示板では、僕への風当たりが強まっていた。
『悠って奴、紫苑様の七光りだろ?』 『SSSランクの妹に、Aランクの師匠。コネだけで上がってきた癖に』
そんな雑音を振り払うように、一人のBランク配信者が僕にコラボ(という名の果たし状)を突きつけてきた。ケビンの取り巻きだった彼らは、僕の実力を「虚像」だと決めつけている。
「……兄貴、なんかネットで叩かれてるわね」
リビングでタブレットを見ていた瑠々が、ポテトチップスを差し出しながら言った。
「私がSSSランクの権限で黙らせてあげてもいいけど。……あ、でも、アンタはそれを望まないわよね」
「……当たり前だ。紫苑様は、僕がEランクだった時から、ランクなんて関係なく僕に指導してくれた。その彼女の教えが、コネなんかじゃないってことを証明しなきゃいけないんだ」
僕は自室に入り、配信機材の電源を入れる。 アンチも、ライバルも、今は関係ない。
「今夜は、Cランク昇格記念……『魂の100曲耐久歌枠』。……一曲でも手を抜いたら、そこで配信を切ります」
僕は叫んだ。 画面の向こうには、かつての野次馬ではなく、僕の声に期待して残ってくれた7,000人のリスナーがいる。 そして、どこかでこの配信を見守っているはずの、僕の「主人」がいる。
格差を実力で埋めるための、本当の戦いが始まった。




