第2話:SSSランクの「お祭り」
「――それじゃあ、今月のラストスパート……いくよっ! みんな、るるなに最高の景色、見せてくれるよね?」
スマホの画面内。 ピンクのフリルが躍るアバターが、愛らしくウインクを決める。 配信アプリ『Link-V』の月末、最終日。 それは、配信者たちの血と涙と「ギフト」が飛び交う、狂乱の一夜だ。
このアプリは、精密な3Dトラッキングが売りな分、激しい動きが必要なゲーム配信には向かない。その代わり、雑談、歌、そして独自の「占い」や「ASMR」といった、リスナーとの「一対一の距離感」を極めたコンテンツが主流だ。
そして、SSSランクのるるなは、その「距離感」を支配する天才だった。
「わあぁ! 『星降る大聖堂』ギフト、10連発!? お兄ちゃん、凄すぎるよぉ……。るるな、感動して声が出なくなっちゃう……っ」
画面を埋め尽くす豪華なエフェクト。一つ数万円はする最高級ギフトだ。 るるなは潤んだ瞳でスマホを覗き込む。 リスナーは、自分の名前が呼ばれるためだけに、あるいは「るるなのランクを維持させる」という使命感のためだけに、給料を、ボーナスを、生活費を叩き込む。
『るるなを1位から落とすな!』 『SSSの座は、俺たちが守る!』 『今月も100万ポイント達成おめでとう!』
コメント欄は秒速で流れ、もはや視認すら困難だ。 月末のイベントは、一ヶ月間のランキングの総決算。 ここでの順位が、来月の時給と、そして「配信者のプライド」を決定する。
るるなは、巧みに歌枠を挟んでリスナーの情緒を揺さぶり、合間の雑談で「今日、ちょっとだけ嫌なことがあったんだ……でも、みんなの顔を見たら元気になっちゃった」と、適度な弱音を吐いて保護欲を煽る。
すべては計算。 すべては、時給100万という座を守るための「営業」だ。
「……えへへ、ラスト5分だね。みんな、最後はあの曲、一緒に歌ってくれるかな?」
彼女の十八番である、甘ったるいラブソングが流れる。 この時、彼女の頭にあるのは、リスナーへの愛などではない。
(……よし、2位とは300万ポイント差。今月の時給100万は確定ね。……あー、早く終わってコーラ飲みたい。あいつに肉焼かせなきゃ)
カメラの向こう側、漆黒の瞳には、冷徹な数字の計算だけが浮かんでいた。 だが、画面に映る「るるな」は、世界で一番幸せそうに微笑んでいる。
『Link-V』の月末祭りが終わりを告げるまで、あと少し。 欲望と羨望が渦巻くこの戦場で、彼女は今夜も、圧倒的な勝者として君臨し続ける。
はい、妹さんの華々しいイベント最終日です。




