第16話:Dランクの産声と、禁断の約束
カチ、カチ、と時計の針が深夜零時を刻む。 一ヶ月に一度、アプリ『Link-V』が全配信者の運命を裁く、ランク集計の瞬間だ。
リビングでは、瑠々が「まあ、当然よね」と鼻で笑いながら、自身の【SSSランク継続】の通知を眺めている。彼女にとってはもはや日常の風景だ。
対する僕は、震える指で自分のマイページを更新した。
(――頼む……!)
画面が暗転し、金色のエフェクトが舞う。 【ランクアップ!:E → D 】
「……よしっ! 上がった……!」
たった一文字、アルファベットが変わっただけだ。 けれど、時給が発生し、公式のサポートが受けられるようになる「Dランク」への昇格は、配信者としてのスタートラインに立った証でもある。
コメント欄には、深夜にもかかわらず待機していた数千人のリスナーから祝福が飛び交った。 『悠くん、Dランクおめでとう!』 『「ゴミ」卒業だなww』 『時給発生おめ! もやし卒業か?』
「皆さん、本当にありがとうございます。……でも、今日のお知らせはこれだけじゃないんです」
僕は深呼吸をし、準備していた「告知画像」を画面に表示させた。 それは、月の光に照らされた紫色の薔薇と、無骨な鉄格子のイラスト。
「来月、僕のDランク昇格記念……そして、紫苑様のイベント支援への感謝を込めて。……紫苑様とのデュエット曲『家畜の円舞曲』、歌ってみた動画を投稿します!」
その瞬間、コメント欄が今日一番の速さで加速した。
『は!? 紫苑様とコラボ!?』 『DランクがいきなりAランクと歌うのかよw』 『「家畜の円舞曲」ってタイトル最高にセンスあるww』
すると、その狂乱の中に、紫苑様本人のコメントが静かに、だが圧倒的な存在感で現れた。
紫苑:『……Dランク、おめでとう。せいぜい私の足を引っ張らないように。……皆、楽しみにしておきなさい。この「家畜」が、どれだけ私のために喉を鳴らすのかをね』
『紫苑様キターーー!!』 『公式公認の家畜決定ww』 『これ、来月一気にCかBまで行く流れだろ』
配信を切った後、僕は椅子に深く沈み込んだ。 画面越しには強気なことを言っていた紫苑様(白雪さん)だが、数分後、僕のスマホには一通の短いメッセージが届いた。
【白雪:集計お疲れ様。……約束、守ってくれてありがとう。最高の動画にしましょうね】
「……っ、よし……!」
拳を握りしめる僕の背後から、瑠々がジト目で覗き込んでくる。
「……ふーん。紫苑さんとデュエットねぇ。……あーあ、来月は私の『るるなチャンネル』の数字、アンタに少し食われちゃうかもね」
そう言いながら、彼女は僕の肩をポンと叩いた。 それは、兄をライバルとして認めた、彼女なりの祝福だった。




