第15話:数千人の「ガチ」と、黄金の旋律
「えー……こんばんは、悠です。……今日も、来てくれてありがとうございます」
スマホの画面、同接カウンターの数字は『4,200』。 一時期の5万人超えに比べれば10分の1以下だが、コメント欄の質は劇的に変わっていた。
『悠くん、こんばんは!』 『野次馬いなくなって、話しやすくなったねw』 『今日のバイトの話の続き聞かせてー』
流れるコメントの一つひとつが、ちゃんと僕の言葉を拾っている。 画面下部には100ptや500ptの、少額ながらも温かい「応援」としてのギフトが絶え間なく飛び交うようになった。
「……あ、ギフトありがとうございます。……なんか、同接は減ったのに、昨日より皆との距離が近く感じますね。……今日は、ちょっとだけ『歌』をやってみようと思います」
『え、マジ!?』 『あの放送事故兄貴が歌うのかよw』 『耳栓用意したわww』
僕は、先日白雪さんに「練習しておきなさい」と言われた課題曲を流し、マイクを握った。
(――吸って、吐いて。お腹に力を……!)
「――♪」
第一声が響いた瞬間、コメント欄の速度が落ちた。 マイクを通した僕の声は、程よくリバーブがかかり、聴く者の耳にスッと馴染む透明感を持っていた。毎晩のように紫苑様の完璧な発声を爆音で聴き込んでいた影響か、無意識に「耳の良さ」が歌唱に反映されていた。
サビに入る頃には、同接の数字がジワジワと再浮上し始めた。 4,200……5,500……7,000。
「――♪」
歌い終えると、そこには見たこともない光景が広がっていた。
(ピコンッ、ピコンッ、ピコンッ!) 画面を埋め尽くす、ギフトのエフェクト。 『!? なんだ今の声』 『え、普通にうまいんだが……』 『鳥肌たった。家畜とか言ってごめん、推せるわ』
野次馬たちが「ファン」に変わった瞬間だった。 気がつけば、ランクスコアがかつてない勢いで積み上がっている。
その時、画面の隅に一通のギフト通知が届いた。
【Aランク「紫苑」が「薔薇(500pt)」を贈りました】 紫苑:『……ピッチが数ミリ甘いわね。例の「参考書」、明日までに読み込んでおくこと。いいわね?』
リスナーたちは『紫苑様からのダメ出し助かるw』『参考書ってなんだよw』と笑っているが、僕には分かっていた。 それは、「明日のバイトのシフト後、また歌の指導をしてあげる」という、僕たちにしか分からない合言葉だ。
「……はいっ!! 完璧に読み込んでおきます、紫苑様!!」
僕の絶叫と共に、配信は過去最高の満足度で幕を閉じた。 ふとリビングへ行くと、瑠々が複雑そうな顔で壁に寄りかかっていた。
「……アンタ、あんな声出るのね。……ま、Dランクくらいには上がれるんじゃない? 良かったわね、ゴミ脱出で」
「……ああ。ありがとな、瑠々」
今月の集計日まで、あとわずか。 僕の止まっていた時間が、一気に動き出そうとしていた。




