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『妹はミュート。推しは爆音。』  作者: 沼口ちるの


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第13話:佐藤家、崩壊の危機(物理)

「……本当に行くの? 私は止めたわよ、白雪さん」


我が家の玄関先。 不機嫌そうな瑠々の後ろに立っていたのは、いつもの眼鏡姿の白雪さん(紫苑様)。 そして、彼女の後ろでモジモジと震えている、小柄な美少女だった。


「ご、ご招待……ありがとうございます……っ。あ、あの、Bランクの……結城ゆうき 優美那ゆみなです……」


「……あ、あああ、あわわわ!!」


僕は玄関で土下座せんばかりの勢いで二人を迎えた。 結城 優美那。 配信名は「こぐま」だが、紫苑様(白雪さん)と親友で、人見知り全開の癒やし系実力派VLiver。 Bランクという上位ランカーが、我が家という名の「聖域」に二人も……!


「悠。頭を上げなさい。……家畜の分際で、主人を玄関で待たせるつもり?」


「はい! 紫苑様! すぐに中へ! もやしパーティーですが!!」


「もやしって何よ! 私がちゃんとお肉買ってきたわよ!」


瑠々が僕の脇腹を蹴り上げ、一同はリビングへ。 SSSランクの瑠々、Aランクの紫苑(白雪)、Bランクの優美那、そしてEランクの僕。 狭いリビングの密度が、アプリのランキング画面より濃い。


「……ここが、るるなちゃんの……お家。……わ、すごい。配信機材が、私のより高い……」


優美那ちゃんが、瑠々の専用ブースを見て目を丸くする。 一方で、白雪さんは僕の「同接3人」の質素なデスクをじっと見つめていた。


「……貴方、あんな無茶をして。アカウントが消えたら、どうするつもりだったの?」


「……。紫苑様が笑えない世界なら、僕にアカウントなんて必要ありませんから」


「……。……馬鹿ね」


白雪さんはふいっと顔を逸らしたが、その耳は真っ赤だった。 それを見ていた瑠々が、ニヤニヤしながらコーラをグラスに注ぐ。


「ねえ、紫苑さん。こいつ、配信では『家畜』とか言ってるけど、家では私のパシリなんだから。今もほら、お肉焼く準備、全部やらせてるし」


「……ふふ。そう。じゃあ、今日は私も『パシリ』にさせてもらおうかしら。……悠。飲み物が足りないわ」


「はい! 紫苑様! すぐに汲んできます!」


「あ、あの……悠さん、私も、オレンジジュース……お願いします……」


優美那ちゃんまで便乗し、僕は幸せな絶望感の中でキッチンとリビングを往復した。 配信では絶対に絡まないランクの違う四人が、一つのテーブルで肉を突く。


だが、話題は自然と「今後のこと」へ。


「悠。今回の件で、貴方の注目度はMAXよ」と、瑠々が真面目な顔で肉を口に運ぶ。 「次のランク集計、楽しみね。……もしアンタがDランクにすら上がれなかったら、今回のバズりはただの『一発屋の事故』で終わるわ」


「……分かってる。次は数字だけじゃなく、ちゃんと『ファン』を増やさないと」


僕が頷くと、白雪さんがそっと僕のグラスに自分のグラスを合わせた。


「……期待、してるわよ。私の、筆頭家畜さん」


カチン、と小さな音が響く。 それは、底辺配信者が本当の意味で「頂点」を目指し始める、号砲のようだった。

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