第10話:【公式特番】全世界が見守る公開処刑
配信アプリ『Link-V』公式スタジオ。 最新鋭の3Dトラッキング設備に囲まれ、僕はガチガチに緊張していた。 今日は、注目の配信者が一堂に会する特番『次世代スター・インタビュー』の生放送日だ。
「……えー、本日のゲストは、今アプリで最も『色んな意味で』話題の兄妹! SSSランクのるるなさんと、Eランクの悠さんです!」
司会者の紹介とともに、画面には僕たちの3Dアバターが並ぶ。 隣には、完璧なアイドルスマイルを振りまく瑠々(るるな)。 そして、雛壇の少し離れた席には……。
(……紫苑様だ。本物……いや、アバターだけど本物だ……!)
そこには、凛とした佇まいの紫苑様が座っていた。 公式の場でも媚びない彼女の美しさに、僕は自分の出番そっちのけで、スマホ(私用)をポケットの中で握りしめていた。
「さて悠さん。先日の『放送事故』でフォロワーが激増しましたが、今の心境は?」
「あ、はい。……えーと、恐縮です。これからも紫苑様のために精進します」
「……何言ってんのよアンタ。そこは『るるなのために』でしょ」
瑠々がカメラに映らない位置で僕の足を思い切り踏みつける。 コメント欄は『安定のゴミ兄貴w』『妹の目つきがガチで怖い』と大盛り上がりだ。
番組は進み、視聴者からの質問コーナーへ。 「配信中に一番テンションが上がる瞬間は?」という問いに対し、瑠々が「みんなからの愛を感じた時かな♡」と優等生回答をキメる中、僕の順番が来た。
その時、事件は起きた。
(ピコンッ!)
僕のポケットの中で、私用スマホが「推しの配信開始」を知らせる通知音を鳴らしたのだ。 本来、このスタジオ内では全員のスマホが沈黙しているはずだった。 だが、僕はあろうことか、紫苑様がこの番組の「裏」で何か極秘のゲリラ配信(あるいは公式への愚痴)を始めるのではないかと危惧し、紫苑様の通知だけを「緊急警報設定」にしていたのだ。
「……ッ!?」
スタジオに鳴り響く、けたたましいアラート音。 しかも、僕が設定していた通知音は、紫苑様のボイスを切り抜いた『……この、家畜が。早く私の声を聞きなさい』という罵倒ボイスだった。
「……。……」
スタジオが静まり返る。 司会者が固まり、瑠々が顔面蒼白になり、そして――雛壇に座っている本物の紫苑様のアバターが、ゆっくりとこちらを向いた。
「……悠さん? 今の音は……?」
「あ、いや、これは……その、その……」
僕はパニックになり、あろうことかマイクに向かって叫んでしまった。
「紫苑様! 違うんです! これはリスペクトなんです! 貴方の声で目覚めたい、貴方の声に罵倒されたいという、一人のファンの純粋な祈りが形になっただけで――!!」
『放送事故確定www』 『公式で「家畜」ボイス流す奴があるかwww』 『紫苑様の顔が見てられねえwww』 『悠、お前もう引退しろ(褒め言葉)』
コメント欄は、先日の炎上を遥かに凌ぐスピードで加速し、ついに運営のサーバーが一時ダウンした。
番組終了後。 楽屋に戻る通路で、僕は瑠々に胸ぐらを掴み上げられた。
「……アンタ。マジで死ねば? 運営にどれだけ謝れば済むと思ってんのよ……!」
「……ごめん。でも、通知が……」
その時。 背後から、コツ、コツ、とヒールの音が響いた。
「……悠さん。少し、顔を貸して頂戴」
そこに立っていたのは、アバターではなく、私服の上にコートを羽織った「白雪さん」――本物の、紫苑様だった。




