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『妹はミュート。推しは爆音。』  作者: 沼口ちるの


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第1話:格差社会の頂点と底辺

世界一距離が近い配信アプリ『Link-V』。 ここは、選ばれた少数精鋭のVLiverたちが、SSSからGまでの「ランク」という名の階級社会で殴り合う戦場だ。


トップのSSSランクともなれば、運営からの時給だけで月100万円。 対して、Dランク以下は「お小遣い」程度の時給3万円が限界。 ギフト(投げ銭)の取り分は、どれだけ稼いでも運営に7割持っていかれる……。


そんな弱肉強食のセカイで、僕の妹は「捕食者」側にいた。


「おっはよー! みんなの妹、るるなだよっ♡ 今日も一番近くに置いてくれるかな?」


隣の部屋から聞こえる、脳を溶かすような甘い声。 佐藤 瑠々(さとう るる)。 VLiver名「るるな」。 ランクは最高位のSSS。 今この瞬間も、彼女のアバターには数えきれないほどのギフトが飛び交い、その30%が彼女の懐を潤している。


一方、その実の兄である僕――佐藤さとう 悠真ゆうまは。


「……あ、えーと。悠です。……はい、今日もまったり、やってます……」


僕のランクは、時給すら出ないEランク。 スマホの画面に表示されている同接は、安定の「3人」。 ギフトの通知なんて、一週間に一度あれば奇跡。 これが、同じ屋根の下に住む人間の格差だ。


(……はぁ。やっぱり、僕には向いてないのかな……)


心が折れそうになるのを必死に堪えながら、僕はもう一台のスマホを見る。 そこには、僕がこの過酷なアプリを続けている「唯一の理由」が映っていた。


「……また貴方なの? 暇なら、私の声でも聴いていればいいわ」


僕の推し、紫苑しおん様。 ランクはAランク。 実力はあるのに、媚びない性格のせいでトップには届かない。だが、その冷徹な美しさに、僕はバイト代のすべて(と、なけなしの時給)をギフトとして注ぎ込んでいる。


(……紫苑様、今日も尊い。あぁ、月100万稼いでるアイツの10%でも僕にあれば、もっと赤スパ投げれるのに……)


その時、僕の部屋のドアが勢いよく開いた。


「……ちょっと、アンタ。音量絞りなさいよ」


現れたのは、配信を休憩に入れたらしい瑠々だ。 カメラの死角で、彼女は僕を「道端のゴミ」を見るような目で見下ろした。


「配信中に隣からその不愛想な女の声が聞こえたら、ファンの夢が壊れるでしょ。SSSのるるな様の邪魔をして、Eランクのアンタに何のメリットがあるわけ?」


「……。わかってるよ、音量は下げる。でも、紫苑様を不愛想って言うのはやめろ」


「はぁ? 事実でしょ。このアプリは『距離の近さ』が売りなの。あんな氷みたいな態度、リスナーを財布だと思ってなきゃできないわよ。……ほら、お茶。温かいやつ。喉死んだ」


「……自分で淹れろよ。SSS様なら、自動ティーサーバーくらい買えるだろ」


「は? アンタみたいなEランクは、一生私のパシリをして、私の出したゴミを捨てることくらいしか社会貢献できないんだから、黙って従いなさいよ。死ねば?」


瑠々は鼻で笑うと、僕のスマホを奪い取って勝手に音量を最小にした。 そして、颯爽と自室へ戻っていく。


数秒後、壁の向こうから「天使」の声が響く。


「お待たせー! ちょっと喉を潤してきたよっ。みんな、るるながいない間、他の子の配信とか見て浮気してなかった? ……もー、お仕置きだよっ♡」


僕は無言で自分の「同接3」の画面を見つめた。 推しは遠く、妹は(性格的に)もっと遠い。


これが、格差社会の底辺を這いずる僕の、情けなくて「爆音」な日常だ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


某配信アプリをモチーフにしてみました。


次回からもよろしくお願いします。

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