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ダンジョン日常録 ~獣人探索者の裏配信~  作者: 人外主人公大好き
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「ガゥ……」


やあ、俺の名前は神代かみしろ あきら。探索者だ。

え? 探索者って何かって?

説明しよう。


探索者とは、ダンジョンに潜り、モンスターと戦い、ドロップ品や貴重な素材を持ち帰る者のことだ。

さらに最近では、探索の様子を配信して視聴者に娯楽を届ける存在でもある。


突如として日本に現れたダンジョンは、当初は混乱の極みで荒れに荒れていた。

だが、十数年も経てば、ダンジョンは人々の生活の一部となる。

今では、ダンジョン配信は人気の娯楽として定着している。


元々は政府が探索者の安全確保と監視のために始めたものらしいが、

色々な経緯を経て、現在の形に落ち着いたようだ。


ダンジョンは不思議な場所だ。

初めて入ると、スキルと呼ばれる力が与えられる。

個人によって違うが、だいたいは本人の素質に合ったものが付与される。

魔法や剣術、体術などさまざまで、中には呪術や“勇者”と呼ばれる者もいるらしい――あくまで噂だ。


で、俺のスキルはというと、獣化。

自身の体に獣の特徴を発現できる能力だ。

つまりケモ耳が生える!……まあ、世間ではそれほど珍しいものではない。


だが、俺の場合は違う。

完全なる獣化――獣人になれるのだ。


正直に言えば、当時の俺がこういうのを好んでいたのが悪いと後悔している。

悲観しているが、能力としては相当強い。

獣人化すれば身体能力は化け物レベルになる。

あれだ、某呪い合いのフィジカルの強いキャラみたいな感じだ。


ただし条件がある。

少しでも人間の部分が残っていると、身体強化は一切発動しない。

さらに、この状態では声帯も獣化しているため、まともに喋ることはできない。

発せられるのは「ガゥ」とか「ガォー」といった鳴き声だけだ。


さて、何でこんなことを考えているのかって?

簡単さ……暇なんだよ。今ダンジョンに潜って日課の素材集めをしているんだけど、これが本当に暇でね。

今更モンスター相手に激戦とかするわけない。片手で払うだけでバラバラになって消滅するから、本当に暇なんだ。


「ガォ……」

ブォン。

瑛が手を振り、モンスターを粉砕する。


また、本当に暇だ。一応配信でマネージャーが観ているとはいえ、コメントするわけでもない。

コメントしたところで返事できないけどな。

いや、あいつも観てるのかな……。

あいつってのは、俺が所属している会社の社長だ。昔からの馴染みで、この会社ができた時から支えてきたやつ。


今では複数のタレントを抱える大企業になったから、忙しそうだ。

今度、差し入れでも持っていくか。

まあ、部下大好き人間だから楽しそうだがな。


さて、独り言もいいがそろそろ終わりそうだ。

瑛は自らのパンパンになった素材袋を見下ろす。


便利だよな、収納袋って。よく創作で見るけど、実際にあったら社会が変わるもんな。

実際、この収納袋により物流も大きく変化した。


「ガァ……」

あくびをする。


あぁ、眠い。この体は戦闘では苦戦しないけど、本当に眠くなる。

生活リズムが動物寄りなのか、もしくは夜行性なのか……。


スマホで時計を見る。12:35。


うーん、微妙だな。戻ったとしても昼寝には遅いか。

とはいえ、ダンジョン内で寝泊まりは禁止だしな。

いや、分かるけどさ。ある程度強い探索者には許してほしい、自己責任でいいから。


ブツブツと頭の中で考えを巡らせる瑛――その時、

「ファン!」


「ガァ?」


あ? 何だ?


スマホのアラームが鳴る。

会社が作った、緊急用のアラームだ。


……アラーム?

あぁ、そういえばあいつが安全のために作ってたな。


故障か?

俺が危険なわけないし。


周囲を見渡すが、特に変わった様子はない。

魔力の乱れも、モンスターの気配もない。


……わからん。

なんで鳴ってるんだ?


その時――


「聞こえてますか?」


耳につけていたインカムから、声が響いた。


「ガァ!」


びっくりした!

いや、聞き馴染んだ声だから心臓が止まるほどじゃないけど、タイミングが悪い。


「ガゥ」


「……聞こえているものとして話します」


一拍置いて、声のトーンが変わる。

仕事モードだ。


「瑛さん。

 貴方の潜っているダンジョンで、我が社の新人タレントが緊急信号を発しました」


――あ?


空気が、一気に変わった。


「ガゥ?」


新人が危険……か。


インカムからの声が続く。


「場所は、貴方のいる層から上に約15層ほどです。

 配信中に転移トラップを踏み飛ばされたそうです。

 本人の力量を遥かに超えた層ですので……場合によっては1分も持ちません」


「現在、救出チームが向かっていますが、早くても10分はかかります。

 本人もパニック状態ですので、現状を解決できるのは貴方だけです」


――どうすっかな。


事故なら助けてもいいけど……。

配信で見せ場欲しさにトラップを踏んだとかなら助けたくないしな。

それに助けても、他で死にそうだ。

しかも結構離れてるから、間に合うかどうか……。


「……貴方が自らの姿を晒すのが嫌いなのは知っています。ですが…………」


何か勘違いしてて草……。ハァ。


「ガゥ」


「……行ってくれるという解釈でいいですか?」


「ガゥガゥ」


「……感謝します」


ハァ、引き受けちゃったなー。めんど。


瑛は脚に力を集める。

瞬きの間に、瑛は消えていた――その地に、大きなひび割れを残して。

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