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言い訳ヒーローだってマン!  作者: 葉加多錬一朗


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だって!だって!だって!

 「だって!だって!だって!」

「こら!なんでそんなだってばっかり言うの!?そんなんじゃあなたは……」

小学生のとき、先生に怒られている間ずっと「だって」とばかり言っていた同級生が居た。そんな彼についたあだ名は、その名も「だってマン」何でもかんでもだってで言い返してくる。先生からすればタチの悪い存在に違いない。先生はいつも面倒臭そうに、

「はいはいはい、もうそんな言い訳はいいから謝りなさい!」

と、鼻息を荒らげ言っていた。僕からしても授業も止まるし先生の怒鳴り声を延々と聴くのもキツいものだった。

それでも彼は言い続けた。だって!だって!だって!と。泣きじゃくる彼と先生の鬼の形相が重なるのを僕はただ眺めるだけだった________


 

「飯田くん、ちょっとこの資料のコピーお願い!」

「飯田くん、急ぎで申し訳ないんだけど…データの入力いいかな?」

「全く、お宅の接客は態度どうなってるんですか!?」

 小学校を卒業しておよそ10年。僕こと飯田直樹は、仕事以外考えられないような日々を送っている。社会人1年目、任された仕事は全力で、目の前の仕事は爆速で、お客様の前でははもっと爆速で全力でが全ての社会人1年目の僕。どんなときも笑顔で、ミスったり上司に怒ろれても笑って誤魔化していた。

「はい!一応両面でコピー取っておきますね!」

「分かりました、11時半までには終わらせておきます!」

「申し訳ございませんでした…お客様の声として真摯に受け止めて参りますので……」

一通りの仕事が終わったとき、僕は上司に呼ばれた。課長席の右側のパイプ椅子、座る準備も心の準備も万端。あとは歯を食いしばって……

「飯田くん!電話だとしてもお客様の前でしょんぼりしすぎるなとこの前言ったばかりじゃないか!お辞儀もまともにできてないし、それに仕事振られたときだって自分がいつに終わらせるんじゃなくていついつまでに終わらせればよろしいですかと聞くもんなんじゃないかなぁ!ねえ!」

僕はこういうと、拳と腹にぐっと力を入れていつもより大きめの声で

「申し訳ございませんでした」

パンクロックのヘドバンのような勢いで頭を下げ、

「以後気をつけるように!」

と言われるまで全力で頭を下げ続ける。

 頭を上げて自分のデスクに戻ると、大体山積みになった書類が城壁のようにそびえていて、今日中に終わるかなと思いながら、はぁ…とため息をする。

 もしこのとき、小学生の彼のように相手が鬼の形相でも、自分が泣きじゃくった表情でも、その一言を言えたなら。

(僕も今だけだってマンになれたら……)

そんなこと考えたって、もう大人なのだし。考えたところで、考えたところで……


 日はどこへ行ったのか、月はどこから出てきたのか。タイムカードを切ってオフィスの外へ出たとき毎度思う。

近くの駅から電車に乗って、しばらくしてから家の近くの駅で降りて、歩いて、家のドア開けて風呂入って寝る。

晩御飯は食う時と食わない時がある。今日は食わずに寝た。

 寝ている時は大体夢を見る。今までは夢なんてたいそう退屈なものだったが、今じゃ現実がクソッタレなので夢はどんなミリオン映画よりも楽しめるようになった。

 今日はどんな夢か……ほう、上司にもお客様にも何でもかんでも「だって!」で反撃する夢か。これはおもしろい、現実じゃ絶対やっちゃいけないことができるのも夢のいいところだ。社会人としての常識だぞと言われてもだってでゴリ押して、クレームもだってで跳ね返して、仕事もだってで放り投げて。だって!だって!だって!

 やっぱり現実でも少しやってみたいと思ってきた。だって、現実で言えたら社会人っていうゴミみたいな縛りから解放されて、自分のありたい姿に1ミリでも近づくことができて、他の人にもそれが伝わればきっと誰かを自由へ導ける。高速で流れる走馬灯のように、だっての一言で救われた人たちの笑顔と僕の笑う姿が映っていく。全てが繊細な映像と音迫力で通り過ぎていく。

「すげえなこりゃまるでヒーローだな、空でも飛べればいいのに」

そう言って、僕は目を覚ました。

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