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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

朝の満員電車ほど辛いものは無い。

今日も昨日と同じ、定年まで同じ1日の繰り返しで生きていく。


サラリーマンの私は、惰性で生きていく日々にうんざりする中、仕事帰りに1日の締めとして1本分ホラーやスプラッタジャンルの映画を鑑賞するのにハマった。


各シーンで驚き恐怖し、その刺激がなかなかに新鮮なものとして捉えていた。


しかし、当然朝は来る。

駅員に詰め込まれ、息のやり場が無いほどの隙間に追いやられる。

仕事中は上司に無理難題を押し付けられ、同期が仕事の成果をあげる度、焦りに歯を食いしばっていた。


そんな日々の夜、残業で遅くなった終電間近のホーム。


がらんとしたホームには、酔いつぶれベンチでぐったりしている人や自分と同じように残業していたのであろうスーツに身を包んだ人がぽつりぽつりと見えた。


【間もなく1番線に電車が参ります。黄色の線の内側まで下がってお待ちください。】


そんな放送とともに視界の右側から電車の眩いライトが近づく。

(今日も疲れた…映画はパスして早めに寝よう…)

疲労感の所為か、頭がいつもより重くずっしりと感じた。


タタッタタッタタッ…


自らの気だるく重い体と反した、軽い足音。

一定のリズムで跳ねるようなその足音は、背後からなんの躊躇いもなく線路に飛び込んだ。


パーーーーーーー!!!!!


けたたましく鳴る電車のホーンの音が響いたのも束の間に、


どばん!!!!


衝撃音、破裂音、そしてブレーキの甲高い音がホーム中に鳴り響いた。

現状に驚きつつも、唐突な惨状を恐る恐る覗こうと体を前に前にと1歩ずつ震えながらも進めた。

本来ある筈の上半身がなく、代わりに臓物が飛び出ている下半身が落ちていた。

それが元々は人間の女の子であったことは、スカートやローファーが目に入った瞬間に想像がついた。

線路には下半身、電車の運転席には運転手であろう制服を着た人物が1人、そうやって視線を動かすと車輪部分に人の残骸を見つけた。


その車輪には頭部があり、頭部から下には上半身であっただろう肉塊が渦をまくように車輪に絡みついていた。

その顔を認識した私はすぐに目を背けた。


リフジンアゲル…


元あった視界の場所からかすかに聞こえる声に驚き視線を戻すと、あの頭部がこちらを向いて、へばりつくような気味の悪い笑顔を浮かべた。


恐怖や、驚愕した人間は時間をゆっくりに感じることがあることを聞いたが、こんな形で経験するとは思わなかった。

その恐怖を恐怖として認識した直後に、駅員が駆けつけ現場の処理や警察への通報を手際良く始めた。

警察が到着し、目の前で見た私に警察が調書を取る。

私は未だにあの光景、あの声、あの笑顔を信じられずにぼーっと聞かれることに答えた。

あんな事故が起こったから電車は一時運転見合わせ。

仕方なく、タクシーで帰ることにした。


帰宅後私は、光景が脳裏から離れずにいた。

(人が死んで、その人が喋って、そしたら顔が動いて…)

考えれば考えるほど理解できず、恐怖が後についてきた。

スプラッタとかにハマらなければ興味に駆られて覗くこともなかったと後悔しながら、ベッドに横たわった。


翌朝、いつも通りのアラームがいつも通りの時間に鳴る。

いつも通り朝食を摂り、いつも通りスーツを着て、いつも通り出勤する。

家から出てあのホームに向かおうとしたが、いかんせん嫌な記憶がある。

暫く、あのホームは行かずに車で出勤することにした。

車に乗りこみ、ペダルを踏み込む。

住宅街を抜け、オフィスが立ち並ぶ大きな道路に出た。

信号待ちをしていた私の目の前には、小学生たちが登校している。

小学生たちが笑いながら楽しそうに会話している。

(電車通勤だからこんなのも久しぶりに見るなぁ…)

頬が微かに緩む。

そうしていると歩行者用信号の青が点滅する。

小学生たちが焦り走っていく中、1人だけ立ち止まった。

すーっと顔をこちらに向け、口角を異常なほど釣り上げ笑顔を見せた。

私は、昨日の人身事故したあの女の笑顔を思い出し、全身から汗が吹き出した。


リフジンアゲル…


微かな声が聞こえた瞬間、トラックがその小学生に突っ込んだ。

その小学生は大きな衝撃とともに車体の下に潜り混むような形で轢かれ、タイヤに巻き込まれた。

タイヤに渦を描く形で巻き込まれ、頭だけがこちらを見ている。

あの笑顔のまま、また人が死んだ。


私は、恐怖に支配され叫んだ。


そうして警察車両や救急車両が到着し、また話を聞かれた。

ひと通り話をした私は会社に連絡し、今日明日と休みをとった。

1日まともに動けず、ご飯も受付けなかった。

次の日になってようやくご飯を食べる気力がでてきた。

無理やりにでも気分転換しに行こうと、外出した。

昨日とは違い、なにか気分が晴れやかで、笑顔が浮かんだ。しかし、おかしい。

歩く先々で他の人達がこちらを見てくる。

大きな横断歩道まで来た私はついにこちらを見てくる人達に対して、怒りを覚えた。

ムカついた私は、不思議とこんな言葉を叫んでしまった。


みんな理不尽あげる!!!!!!!!


その瞬間、大型のトレーラーが横断歩道に突っ込んだ。

事故にあった人の半分は大型トレーラーのタイヤ部分に巻き込まれ、渦を描いていたという。


あれ?私って死んでるんだ。

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