表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

嫉妬の検証?

金曜日の夜。


 俺のスマホに葵からメッセージが届いた。


『ヒロ、今度の実験なんだけど、ちょっと難しいテーマになりそう』


『何だよ』


『“嫉妬”について』


 俺は、スマホの画面を見つめたまま固まった。


『なんで急にそんな話になるんだよ』


『今日、ヒロが他の女子と話してるの見て、なんだか胸がモヤモヤしたの。これって嫉妬?』


 ……は?


 俺は今日一日を振り返った。確かに昼休みに、委員会の用事で隣のクラスの女子と話したけど、それだけだ。


『委員会の話だっただろ』


『うん、わかってる。でも理屈じゃなくて、感情的にモヤモヤした』


『それって……』


『だから実験してみたいの。私が他の男子と話してる時、ヒロはどう感じるか』


 俺の手が、スマホを握る力を強くした。


『やめとけ』


『なんで?』


『……理由なんてない。やめとけって言ってるんだ』


『でも実験しないと、本当の気持ちがわからないじゃん』


 俺は、ベッドに仰向けになって天井を見上げた。


 葵のその実験的な姿勢が、また俺を苛立たせる。


『お前、また昔みたいなことするつもりか?』


 しばらく返事が来なかった。


『……違うよ。あの時とは違う』


『どう違うんだよ』


『あの時は、恋がどういうものかまったくわからなくて、とにかく何でも試してみたかった。でも今は……』


『今は?』


『今は、ヒロとの関係がどういうものなのか知りたいだけ』


 俺は、スマホを胸の上に置いて目を閉じた。

 葵は変わっていない。


 相変わらず、自分の感情を実験で確認しようとする。


 でも、なんで俺は……。


『明日、会えるか?』


『うん。どうして?』


『話がある』


 ※


 土曜日の午後、いつものカフェ。


 葵は、またあのノートを持参していた。


「今日のテーマは?」俺が聞くと、葵は苦笑いを浮かべた。


「今日は実験じゃないって言ったでしょ?」


「でもノート持ってきてるじゃん」


「これは……安心するから」


 葵がそう言って、ノートを抱きしめる。


「葵」


「何?」


「なんで俺と付き合い直したんだ?」


 葵の手が、ノートの表紙をなぞるように動いた。


「……最初は、ヒロならそう簡単に壊れないし、実験に付き合ってくれると思ったから」


「最初は、って?」


「でも、今は違う理由もある」


「どんな?」


 葵は、俺の目をまっすぐ見た。


「ヒロといると、安心するの。実験とか検証とか関係なく」


「……安心?」


「うん。他の人には見せられない、ダメな部分も含めて受け入れてくれる気がするから」


 俺は、コーヒーのカップを握りしめた。


「お前のダメな部分って何だよ」


「えー、たくさんあるよ。無神経だし、空気読めないし、人の気持ちがわからないし……」


「それ、ダメなことなのか?」


「え?」


「お前がそういう奴だってことは、途中からわかってた。それでも俺は──」


 俺は、言いかけて口を閉じた。


「それでも?」


「……それでも、お前といる方がマシだと思ったから、付き合い直したんだ」


 葵の目が、少し丸くなった。


「マシって……」


「他の奴らと付き合うより、お前のめんどくささの方が俺には合ってるってことだよ」


 その瞬間、葵の頬が真っ赤になった。


「……それって、愛情表現?」


「知らねえよ」


「でも今、すごくドキドキしてる」


 葵が胸に手を当てる。


「これって、もしかして……」


「もしかして何だよ」


「恋してるってことなのかな」


 俺は、葵の顔を見た。


 いつものような実験モードじゃない。


 本当に、自分の気持ちがわからなくて困っているような表情だった。


「……バカ」


「またバカって言った」


「そんなの、お前が一番よくわかってるだろ」


 俺がそう言うと、葵がふっと笑った。


「うん。でも、ヒロに言ってもらえると安心する」


 夕方の日差しがカフェの窓から差し込んで、葵の髪を金色に染めていた。


 俺たちは、まだ答えを探している最中だ。


 でも、こうやって一緒にいるだけで、なんとなく方向性は見えてきている気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ