表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

彼女は“理想”を壊してくる

 次の日、俺は“振られたはず”の女の子と、並んでパンを買っていた。


「ねえヒロ、今日、焼きそばパン売り切れてたよ。どうする?」


「……なんで一緒にいるんだよ、お前」


「昨日さ、私が“理想の彼氏じゃなかった”って言ったでしょ? でも逆に言えば、“ちょっと違った”だけで、惜しかったの。だから再検証」


 こいつはさっきから何言ってんだ。


「人の気持ちを逆撫でしといて、よく言えたな」


 それでも俺は、列を抜けずにその場に立っていた。

パンを取る葵の横顔が、なんか悔しいくらい綺麗で、腹立たしいくらい普通に楽しそうで。


「それにさ、ヒロ、私のことまだ好きでしょ?」


 パンを手渡しながらそう言われた。

 俺は、心臓を殴られたように言葉が出なかった。


「……お前、そういうとこだよ」


「どのとこ?」


「ズケズケ言うくせに、それが全部当たってるとこ……」


 葵は「えへへ」と笑って、教室に向かって歩き出す。

 再び一緒に歩くこの状況が、まるで昨日の地獄がなかったかのように錯覚させるのが、逆に恐ろしかった。

 


 放課後、屋上に呼び出された。


「ねぇヒロ。ぶっちゃけ、まだ私のこと“本気で好き”なんでしょ?」


「お前はさっきから何が言いたいんだよ」


「試したいだけだって言ったよね。でも──もしかしてヒロが“私を変えてくれるかも”って、ちょっと思っちゃってさ」


 葵はフェンスに手をかけて、風を受けながらそう言った。


「私さ、今まで何人も試したけど、“好き”って感情がうまくわかんないんだよね。

ちゃんと人を好きになったことが、ないの。たぶん。」


「……だから何? 俺を“実験台”にしたいってか」


「うん。でも、ただの実験台だったら、また他の人選んでるよ。

ヒロだけは、なんか違った。失ってみたら、ちょっと焦ったんだよね。……あたし、初めて。」


 その目は真剣だった。ふざけてない、珍しく。


 でも、だからこそ俺は言う。


「……ふざけんなよ、葵。俺を“希望”にしようとすんなよ。

勝手に地獄に落としておいて、今さら手ぇ伸ばされても、信じられるわけないだろ」


 沈黙。


 葵は少しうつむいて、ぽつりと呟いた。


「そっか。……でも、それでも、もう一回だけ付き合ってみない? 試しにさ」


 俺は、笑った。


「やっぱお前、クソだな」


「でしょ。でも──クソな私でも、“理想の彼女”になれるかもしれないって、思ってほしいんだよ」


 こいつは、平気で人の心を引っかき回してくる。


 でもたぶん、俺はその引っかき傷に、まだ熱がある。


「……次やったらマジでぶっ壊すからな」


「わー、怖い。でも、ありがとう、ヒロ」


 そして、二度目の交際が、なぜか始まってしまった。


 俺の理性は悲鳴を上げてる。

 でも心は、少しだけ笑ってる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ