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第7話 1度目の世界 カロリーナの婚姻

降臨祭から数日後、早々と次姉オフィーリアは晴れて婚約者となったアルベルトと共に、婚約発表後の顔見せとして、先ずはアルベルトの故郷であるヘルメス公国へと旅立った。


長姉との婚約が為されてから、長くの歳月を甘く過ごしていた不貞な二人は、不思議なことに発表後はどこかよそよそしい素振りが見てとれた。


早朝の出発であったが、母の女帝マリア以外の家族が見送りに出ていた。


ノロノロと馬車に乗り込んだオフィーリアに、父フランツが声をかけた。

「滅多にない、血の契約を乗り越えて結ばれたのだ。もっとにこやかな顔を見せておくれ、オフィー。父が君の顔を見る最後かもしれないのだから。いつものように満開の花のように微笑んで。体に気を付けて帝国の未来のために、よくよく励めよ」


その言葉を聞いたオフィーリアは、馬車の窓を開け大粒の涙を溢しながら父を見た。

「お父様」


しかし、それに父は応えることはしなかった。


すぐに出発の合図がなされ、馬車が動き出した。

帝国の姫の外交団とは思えぬ簡素な隊列だったので、あっという間に王城の外へと消えていった。



いつもの日常に戻った。


長姉は父フランツと共に、次の婚約者候補を決めるため、降臨祭のため城に留まっているハデス王国の高位貴族たちと会合を持つという。


カロリーナは、デビュタントを控え、長女長男に課せられたような帝王学の講義へと忙しい。


1度目の世界では、カロリーナとマリアンナは、マナーとピアノやバレエといった習い事しか教育をされておらず、にも拘らず混乱の中にある王国に嫁がされ、その激流に翻弄された挙げ句命儚くなった。


優秀な長姉エリザヴェータが、母女帝マリアに、帝国に、見切りをつけてあっという間に出家してしまうと、残った未婚の王女たちが政治の駒として使われた。


たいした教育もなされず、ぬるま湯のような王宮の奥でのんびりと暮らしていた王女たちに何ができようか。

マリアンナは革命の潮流に飲み込まれ断頭台へと送られ、歴史的悪役王妃なる不名誉な二つ名で呼ばれたのだが、カロリーナもまた苦しい結婚生活を送らされた。


女帝マリアが長姉エリザヴェータを送って何とかしようとしていた、南の半島にある北ウエス王国。


この南の半島は、地方ごとの豪族がまだ力を持っていてなかなか半島統一の王国になれずにいた。

ここ2百年ほどは、北部をまとめた北ウエス王国と半島の先端の南部をまとめた南ウエス王国、そして未だ大きくまとまれず豪族が割拠している中央部分の連合体として存在し、対外的にはウエス共和国を名のっていた。


ハデス王国の西南に位置する半島は海外貿易で栄える港町をいくつも抱えている富の源泉、帝国に組み入れたいと歴代の皇帝も永く手を入れしっぺ返しを食らってきた因縁の地域であった。


そんな所に、非力な王女一人を送ったところで何が出来るでもなく、戦争王と揶揄されるアレス国王の王国拡大政策のもと、半島の北側にあるアレス王国がちょっかいをかけてきたのを防ぐためにだけ、帝国の軍事力だけ求められた政略結婚だった。


北ウエス王国の国王には長く連れ添った王妃も愛妾もいて、その子供たちも数多くいた。

嫡男の王妃の子が王太子となっており、彼の子もまた既に生まれていた。


しかし、王妃が病死したのをきっかけに、父より年上の国王自ら、帝国の王女との婚姻を求めてきた。

どう考えても上手く行くはずのない婚姻である。

なんなら、母女帝マリアとの方が年的にもお似合いだ。

長姉ですら、親子ほど年が離れているところに、更に年若いカロリーナを嫁がせた。


結局、願った軍事力は展開されず、カロリーナは離宮へと追いやられ不遇の生活を強いられた。

しかも革命の火が半島へと飛び火してくると、悪役王妃の姉が王妃では外聞が悪いと、国王自らカロリーナに折檻をし投獄してしまう。


助命の手紙を兄皇帝カールヨハン1世へと何度も送っていたが、それがプツリと来なくなり、密偵を放って探らせた時には、地下牢の中骨と皮だけになって事切れていた。

その報を受けて、皇帝自ら軍を率いて北ウエス王国国境線まで進軍。

密偵が持ち出した、悲惨なカロリーナの亡骸と対面することになったのだった。


皇帝は帝国軍に対して『蛮族の法則を取って良い』と勅命を出した。

勅命は、帝国軍だけへではなく、ウエス共和国として連帯しているはずの、中央部分の豪族や南ウエス王国へも素早くもたらされた。


蛮族の法則とは、かつて帝国のある大陸までを制圧した東の大陸にあった騎馬民族の王朝が取っていた戦略で、交戦する都市は一般市民も含めて殺害しその財産を強奪することを許可するというもので、神の名を冠に掲げる帝国が行うことは無い蛮行であった、いや同じ神を信奉する周辺国でも未だ嘗て取られた事も無かった。


その勅命を受けて先ず動いたのは中央部分の豪族たちで、次いで南ウエス王国が攻め入った。


北ウエス王国との国境線に帝国軍は陣を張っただけで、あっという間に北ウエス王国の王都は地獄絵図となった。


北ウエス王国は皇帝に謝罪と無抵抗開城の申し入れを行った。

これを以て、皇帝は勅命の停止を発令し、北ウエス王国へと進軍、北ウエス王国の王族は国王、側妃、王太子だけでなく、王女も子供も赤子もそれに連なる王族の血が流れている者全てに処刑を命じた。

その命はウエス共和国へと出され、その代表者が執行した。


混乱の最中、帝国軍を連れて、皇帝は帰路へと就いたので、その後この場所を巡って共和国内で内乱がほどなくして始まり、戦乱がこれ以降長く続くことになった。


半島の統一どころか戦乱のきっかけとなったカロリーナはというと、2度目の世界では長女長男と同じく厳しい教育を受け、為政者と成るべく日々励んでいた。

長姉を尊敬しているカロリーナは嬉々として勉学に励んでおり、聡明な淑女へと変貌を遂げた。


「やあ、マリアンナ。時間はあるかい?」

皇太子としていつも忙しいはずの兄が、先ぶれも無くマリアンナの自室へとやってきた。


「まあカール兄様、どうなさったの?」


「少し私と兄妹の語らいをしないかい?」

兄はいつもの抑揚の声でそう言ってきた。


マリアンナは驚いて間抜けにも口を開いてしまった。


今まで一度も兄が自室を訪ねてくることなど無かった、いや1度目の世界を含めても、兄と二人きりで話したことすら無かったのである。


「マリアンナ。口が開いている、その間抜け顔は王女がしていい顔ではない」


「あら、失礼致しました。勿論、素敵なご提案を頂きまして、とても光栄ですわ」

マリアンナは姿勢を正して、にこやかにそう答えたのだった。



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