第46話 革命の余波
アレス王国に吹き荒れた革命の嵐が、国王シャルルの処刑で一旦幕を閉じた。
これに際して、アレス王国の元王太子の息子である、シャルルフリッツ王子とオーギュスト王子、そして二人の母であるネプトス王国の先王の王女マリージョセフ元王太子妃が、神聖帝国に亡命中であることが公表された。
特にマリージョセフ元王太子妃は、夫である王太子の死後、入っていた修道院に火を着けられたこと、息子たちも留学先のソル王国から帰国途中に馬車を襲われたこと、自分達を殺して王位簒奪を企てた者がいたことを大々的に訴えたのだった。
それを受けて、アレス王国内は動揺が走った。王太子の殺人や王子たちの殺人未遂、放火の罪で取り調べしようにも、もうその簒奪者は処刑してしまったのだから。
その上、国王シャルルの退陣を求めて纏まっていた革命軍は、現在、統治の仕方でひどく揉めていた。
アレス王国軍のトップであるラファイエット侯爵を中心とした穏健派、啓蒙主義を掲げるロラン内務大臣を中心とした中道派、そして平民の弁護士ロドリゲス中心の急進派に分かれていた。
そこに、政治犯収容所の中荒くれ者を纏めたジャックエネや義勇兵を纏めたユベールなどの過激派も居て、内乱は一旦収まってはいるが、何かのきっかけでまた始まってしまうような、危うさが漂っていた。
そんな混乱の最中に、旧の王家の正統な後継者の生存が確認され、しかも神聖帝国の庇護下にいるという。
ある者は、御旗として担ぐには丁度良いと喜び、ある者は、帝国の干渉が強くなり属国化されかねないと懸念し、ある者は王族など関係ない人間は平等だと叫び入国を拒否しようと声を上げた。
そんな不安定な状況が長く続くはずもなく、過激派と一緒になった急進派が旧体制を支持する貴族たちを武力を以て追い詰め、捕まえて投獄するようになった。
その中には穏健派としてラファイエット侯爵と共に活動してきたミラボー侯爵がおり、彼は暴動で受けた傷が元で牢獄で亡くなってしまった。
これに怒ったラファイエット侯爵が、アレス王国軍に過激派の殲滅を指揮して、内乱が激化していった。
内乱の中ではあるが、新アレス王国の統治は粛々と進められた。
憲法を制定し法に基づく国家運営を目指し、議会が中心となって国の運営をしようと穏健派と中道派が決めたが、それでは政治の中心は元の貴族中心であることは変わり無いと、平民中心の過激派からの賛同は得られず決裂、結局、内乱はさらに拡がって過激になった。
身の危険を感じたラファイエットとロラン大臣はそれぞれ、ウエス共和国へと国外逃亡をしてしまい、指揮官を失った穏健派と中道派の一部を飲み込むことで急進派のロドリゲスがアレス王国を掌握した。
彼はアレス王国軍と義勇兵を使って国内の不穏分子の洗い出しを行い、怪しい者を次々に処刑するようになった。
中央広場に設置された大きなギロチン台。
そこに次々に運ばれて来る人を、裁判とは名ばかりに、流れ作業のように次々と処刑した。
過激派のジャックエペもユベールも処刑し、仲間であり急進派の中心人物であった同郷の弁護士ダルトンさえも処刑してしまったのである。
こうして処刑を重ね死体を山と積み、ロドリゲスに物を申す者が一人も居なくなったある日、やっとゆっくり風呂に入れると寛ぐロドリゲスの首を、ある洗濯メイドが牛刀で斬り裂いたのだった。
彼女は、ユベールに心酔していた女傭兵であった。
血で血を洗う内乱がロドリゲスの死でやっと終わった。
処刑された人数は2万人とも言われた。
ちなみに彼は革命前は死刑廃止論者の弁護士であったのだが、何が彼を狂気に走らせたのだろうか。
アレス国内には、もう争いは懲り懲りだという空気が充満していた。
国外に逃亡していたラファイエット侯爵とロラン大臣が戻ってくると、散り散りになった穏健派中道派の仲間たちも戻ってきて、やっとこれから落ち着いて国作りについて話し合うことが出来る、そんな空気になったのであった。
一方、帝国の王宮内にいてアレス王国の革命から内乱へと戦火が広がって行く様を見聞きしたマリアンナは、壮絶さに恐れ慄いていた。
自分がギロチンにかけられた1度目の世界でも、その後こんなに争いが連鎖していったのかと想像し、震えが止まらなかった。
それはさておき、マリアンナは、オーギュストと婚姻を結んだ翌年待望の娘を出産した。
娘はシャルロットと名付けた。1度目と同じであった。
髪は夫オーギュストとは似ず、彼以外のアレス王族の特徴である蜂蜜のような金髪、瞳は夫の紺よりは薄いがマリアンナよりは濃い碧い瞳、会いたかったあの娘であった。
「可愛いわたくしの子、愛しい子」
マリアンナが汗に濡れ虚ろな目で、産婆から渡された我が子を胸に抱いた。
「マリー、ありがとう、ありがとう。君も無事で良かった」
オーギュストは1度目の時と同じように、娘の誕生を喜んでくれた。
何度も感謝を伝え、涙を流してマリアンナと子の無事な姿に安堵していた。
マリアンナが望んだ幸せがここにあったのだ。
婚姻後もマリアンナたちは、神聖帝国の王宮、マリアンナの農村風離宮で暮らしていた。
兄皇帝の強い希望があった、ことも事実であるが、隣国で起こった革命が飛び火することを恐れたオーギュストのたっての希望だった。
「君の身に何かあったら、私は生きていけない。この大陸で一番安全なこの王宮に居て欲しい」
真剣にそう言われると、断る言葉も思い浮かばない。
両親や兄姉たちからも同じようなことを言われ、王宮に住み続けることになったのだ。
オーギュストだけはリンネ王国の王宮にも部屋があり、仕事の関係で行ったり来たりしていた。
娘が生まれてからはできるだけ側に居たいと、鉄道をリンネ王国の王都から帝国の帝都まで引くことを最優先すると言うようになった。
その敷設には多大な資金が必要になるが、神聖帝国はアレス王国の革命の前に構成国、同盟国との連携を密にし、産業革命を早々と迎えることで発展の一途を辿っていた。
特に、シロスク地方は重工業地帯の中心地となっていた。況してや、この地域はリンネ王国と帝国との共同事業という国策事業であるから上がった利益は全て国へと入ってくる。
この資金を更に鉄道事業というインフラ投資に使用して更なる好景気が来ることは確実で、近い将来、確実に神聖帝国は最繁栄期になるだろうと誰しもが思っていた。
繁栄している国に、無法地帯の国が指を咥えて見ているはずもなく、帝国の西の国境線にあるハデス王国にアレス王国軍の残党が大砲を並べ打ち込んで来た。宣戦布告である。
しかし、その砲弾が届く前に、ハデス王国の砦から次々に爆弾が打ち込まれ、並んでいた兵士たちが次々と打ち飛ばされて行った。
「退却、退却」
アレス軍が退却を告げて、逃げ帰る後ろから鋭い銃弾が雨嵐のように射ち込まれた。
結局、たった1日で、ハデス側は一人の怪我人も出さず、アレス王国側は死亡者多数といった圧倒的な戦力さを見せつけて、勝利することになったのである。
「リーナ姉様の考案した銃弾、飛距離が違いますものね。圧倒的な戦力ですわね」
「そうよ、この勝てる武器、欲しいでしょ?でも敵対国には勿論売らないわ。強い国に喧嘩を売る国なぞないでしょ?安全の為の圧倒的な軍事力よ」
この日の為に、何年も準備してきたのだと胸を張る三姉カロリーナ。
攻め行ったアレス王国への戦後賠償をどの程度にするかと、兄皇帝と長姉女王の会談にちゃっかり参加しにやってきたのある。
この賠償の問題を暫定政府と話し合って解決した後、亡命中のアレス王族が帝国とのパイプ役を期待され、アレス王国側から乞われて帰国、帝国との新たな関係作りが始まるのだろう。
マリアンナの1度目の世界とは大きく違えた、2度目の世界、革命の後である。
マリアンナは繋がっている自分の首を撫でながら、大きく深くため息を吐いたのであった。




