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【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し  作者: 有栖 多于佳


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第41話 母に聞かせる1度目の世界線

マリアンナは今日も快晴の中、薬草畑で作業をしていた。

公国の離宮で両親と過ごして、もうすぐ1年となる。

1度目の世界を含め、こんなに両親と寄り添って暮らしたのは生まれて初めてだった。

素顔の母は貞淑な貴婦人であり、子を思う賢母でもあった。


公国を訪れた初日、父フランツがマリアンナに見せたかった本来の母マリアの姿は、無理やり見なくとも一緒に暮らしていけば自然に知ることが出来たのだった。

ちなみに、翌日の茶会で父が茶も飲まず話しもせずだったのは、母娘の語らいを邪魔しないようにという側近の総意で、もし約束を破ったら母は今後夫婦の寝室を使用せず、夫人の間で寝起きすることになっていたらしい。

いつまでも新婚のように寄り添って暮らしたい父は、約束を死守したとなぜか胸を張って語っていた。


さて、帝国の後宮は徹底した警護体制を取っており、招待無く肉親以外の異性が立ち寄ることは出来ない。

では公国の離宮なら手薄なのではないかと浅はかな考えで突撃してくる愚か者たちが随分と現れた。


しかし、そこに待ち受けるは父フランツと、少数精鋭の護衛たち。


マリアンナに求婚しにやって来る不埒な者共をバッタバッタと一刀両断、の気合いで端から追い返していった。


「フランツ、マリーはもう17才になるのに、婚約者も決まっていない。貴方やカールに任せていたらきっと行き遅れになってしまうわ。そんなことになったら、貴方マリーが不憫じゃないの?」


釣書すら受け取らずつっ返す夫の姿に、長女の婚約解消に至った経緯から反省して、ついぞ子供たちの婚姻に一切口を出さなかった母でさえ、見るに見かねて、そう苦言を呈したほど。


悪夢の話を知らぬ長くマリアンナに侍る侍女たちやメイドたちが、カールや父フランツの為さり様が、適齢期の王女に対して異常横暴と思える事態だと呆れと恐れをなしていて、これを機会にと、母のマリアに忠告を入れたことが後押しになっていた。


「恐れながら、申し上げます。このままでは、マリアンナ様の美しい時期が誰にも知られず過ぎてしまいます。常々陛下は王宮にて、マリアンナ様に奥で暮らしていれば良いと仰い、マリアンナ様は素直にそれに従っておいでです。然もすれば、いずれ王子の邪魔になるようなら修道院を建てて神の御手伝いとして過ごしたい等とも。どうかマリア様のお力添えを願いたく存じます」


侍女のメリーを筆頭にマリアンナと長く寝食を共にしてきた者たちの悲痛な訴えに、

「まあ、なんてことでしょう。なぜマリアンナがそんな目に!」

と、母が重い腰を上げて、マリアンナの婚姻問題に対峙することになったのだった。


ある日の晩餐後、夫人の間にお茶に呼ばれた父娘。

「お母様、何かございましたの?」

「マリア、また私が何かしただろうか」


初めて入室を許された、母の私室の壁際にズラリと並ぶ、マリア付きの使用人たち。

その威圧的な雰囲気に、父もマリアンナも本能的な危険を感じた。


「ねえ、メリー。なぜあなた方がそちら側に居るのかしら?」

マリアは母の後ろに控えている侍女のメリーたちにそう問いかけた。


しかし返事も無く、沈黙が続く。

3人の前に置かれた食後のお茶を母が口につけると、そっと目線を父へとやった。


「フランツ。わたくしは貴方がカールと連絡を取り合って某かの動きをしているのは知っていました。それは王女たちの、主にカロリーナとマリアンナの為を思っての動きだと口出しは控えていました。

しかし、離宮での貴方の為さりよう、そしてマリアンナ付きの者たちからの訴えを聞くに、貴方、いえ、貴方とカールはカロリーナとマリアンナを結婚もさせず、生涯後宮の奥に閉じ込めておくつもりなの?

貴方たちが下の王女たちの幸せを奪う理由を聞かせて頂戴。

もしやカロリーナが、出奔のようにリンネ王国へ行ったのも、行った先であんな父親と同じ年の爺と無理やり婚姻を結んだのも、貴方たちの酷い仕打ちから逃れる為だったのなら、わたくし、命に代えても奪還に赴かないと為りますまい。

マリアンナ、恐れることはありません。この離宮からフランツを追い出し、ここで母があなたを守りましょう。カールなんぞ、何も恐れることなど無いのです。母に真実を聞かせて頂戴」


母はジロリと強い目を父に向け、慈しむ目をマリアンナへと向けた。

マリアンナは、咄嗟には母の言葉が理解出来なかったが、母の誤解で状況が悪いことは感じた。


「何を言ってるんだ、マリア!私が子供たちの幸せを願って居ない訳ないだろう」

先に口火を切ったのは父であった。その悲壮感溢れる声を、

「じゃあなぜ、年頃の娘の婚約者も探さず釣書すら受け取ら無いのかしら?」

情け容赦無い声で、母がピシャリと切り捨てた。


「それは、」

父が言葉に詰まってしまった。

「ほら、貴方たちが娘を妹を、自分の目の前に置いておきたい欲の為じゃない」


「違いますわ、お母様。全てわたくしがお願いしたことです」

マリアンナが父を庇ってそう口を挟めば、

「メリー、それは本当?」

後ろのマリアンナ付きの筆頭侍女に振り向きもせずに問いかけた。


「はい、マリアンナ様は昔からそう言っておられました」


「そうとは?」


「結婚せずにずっと奥に隠っていたい、と。それが無理なら修道院を建てて神の手伝いをして過ごしたい、と」

メリーがハッキリキッパリと言い切った。


「それは子供時分の話でしょうに。子供が『大きくなったらお父様と結婚する』なんて言うのは良くあること。そんな話を真に受けて」

母は眉間に深い深い皺を寄せて、忌々しげに言い捨てた。


(不味いですわね、どうやらわたくしの使用人たちがお母様に告げ口したようで、お父様とお兄様が悪者にされてしまっておりますわ)


「マリア、そんなんじゃない。私もカールもカロリーナとマリアンナの幸せを願っているよ、わかってくれるだろう。マリアンナは特に婚姻を望んで無いんだ。慎ましく暮らして生きたいと言う願いを叶えても良いだろう?」

父は蒼白な顔で母に訴えた。


「…。ほう…。なぜ、そんなに婚姻を拒否するのかしら、マリアンナ」

すると、ストレートな質問がマリアンナに飛んだ。

その母の目は、悲しげに揺れていた。


(あー、お母様、オフィー姉様の件とか思い出してご自分を責めてるのかしら)

母から急に覇気が消え、意気消沈した様子から察したマリアンナは、腹を括り決意を口にした。


「お母様お話ししますわ、何もかも」


「マリアンナ、」

父が大きな声で制したが、

「いいえお父様。もう良い時期ではありませんか。人払いをお願いしますわ、お母様」


使用人も護衛も退出し、固くドアは閉じられた。


そうして、マリアンナは、両親へ自らの口で1度目の世界の話、悪夢の予知夢と呼ばれている話を語って聞かせたのだった。




長い長い話を終えて、目の前に姿勢良く座る母を見た。

表情の無い仮面のような白い顔。

泣いては居なかった。

さすが元皇帝、感情を悟らせない様子でそこにいた。


しかし今のマリアンナには、酷く傷ついて悲しんでいる母の心が手に取るようにわかっていた。


「マリア、夢の中の話だ。子供が怖い夢を見た、そういう話だ。でも私もカールもその話を信じて、娘が夢のような不幸に見舞われ無いように少し気にして動いていた、そういう話だ。現実の君が何をした訳じゃない。未だ来ぬ世界の話だ、気を病むんじゃない」

父は席を立ち、母の目の前に膝を突き肩に手を置いて、至近距離で放心している母にそう声をかけた。


「そうですわ、お母様。夢とは違い、兄はアンナルイーゼ義姉様と婚姻しエリー姉様はハデス女王になり、あろうことか、リーナ姉様はフリード王のお妃様になった。神聖帝国は再統一を果たし、久々の戦争がない時代の到来です。お母様、わたくしの予知夢は外れ悪夢は過ぎ去った、そうではないですか」


マリアンナが母にそう言ったが、

「そうだな、確かにマリアンナの悪夢は予知夢であったのだろう、確かにアレス王国から帝国の王女を嫁に娶りたいという話はあった。先代国王の愛人との会談の席であった。しかし、彼の者が病で急死してその話は立ち消えになった。悪夢の世界を辿る道は存在していたのだ。わたくしが長く女帝にあったなら」

そう、消え入りそうな声で答えたのだった。


「マリア、私たちは先を見る目が無い者だと、いつも嘆いていただろう。しかし、私たちの子供たちはみな親を越えて優秀だ。優秀な子を誇ろう、悪夢の世界を辿る道を回避した優秀な子を褒めよう。今、ここに居ることこそが、現実だ」

父は力強く母の手を握りしめ、そう言って聞かせた。

「私は今日こうして君に打ち明けられたことで、1つも秘密が無くなった。君を悲しませ無いようにと黙っていたが、やはり夫婦の間に秘密は無いに限るな。マリア、愚かな私を許しておくれ」


「そう…。ねえ、フランツ。ではマリアンナに見合い相手を選ばせても良いわね。もう悪夢に怯える心配は無いのでしょう?ねえ、マリアンナ。釣書を集めるから一緒に良い相手を選びましょう、メリーたちの意見も聞きながら」

母の頬に赤みが少し戻り、楽しげな笑いを含んだ声で答えた。


「マリアンナ、貴女の誕生日の祝いの席を設けましょう。そこに貴女の良かれと思う方をご招待なさい。婚姻をしないのも修道院に行くのも良いでしょう。そこに誰かと添い遂げるかもしれない未来も選択肢に入れて、貴女の幸せの為に選んでみなさい」


こうして、なぜか元気を取り戻した母に押し切られて、急に集められた釣書から誕生日に招く人を選ぶことになったのでした。




さて、マリアンナのお見合い大作戦に侍女たちは大いに張り切り、父は心配でうろうろとマリアンナにまとわりつき、離宮が珍しく浮わついた雰囲気に包まれる中、母マリアは独り厳しい顔で私室の奥の隠し部屋で探し物をしていた。


「おかしい、おかしいわ」

手には古ぼけた古文書を持ち、あちこちとひっくり返して回っていたのだが、結局肝心の物は見つからなかった。

しょうがないと諦めて、古文書に目を向けるのであった。








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