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【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し  作者: 有栖 多于佳


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第23話 アプスブルゴ家の四姉妹

マリアンナのデビュタントも無事に終わり、各国王族も帰国の途に就き、貴族の面々も各々領地へと戻った頃、王城の奥にある後宮の奥の奥、高い塀に囲まれた姫の住まう建物の中庭にある秘密の花園と呼ばれる場所のガゼボで、ひっそりとお茶会が開かれた。


今回の主催はマリアンナで、と言うのもこの姫の建物に住まう未婚の姫君がマリアンナしか居ないからなのだが、そのマリアンナがデビュタントのお礼という名目で、姉たち3人を招待したのだった。


長姉エリザヴェータは、ハデス王国の女王である。現在は5才になった王子と2才の姫の母でもある。その夫はハデス王国の由緒正しい大貴族であり、現在はハデス王国の王配兼神聖帝国の軍部全体を預かるジェルジ大総統として、王宮に隣接した屋敷に主に住んでいる。普段は妻子と離れて暮らしているので、今回の夜会後の長姉たちの滞在を何かと引き延ばしにかかっている模様。


三姉カロリーナは、リンネ王国の王妃である。現在は3才と2才の王子の母でもある。生涯独身王と嘯いていた大陸一の賢王と名高いフリード王を、儚げな可憐な容姿で翻弄し陥落させたと大陸中の話題をかっ拐ったのは、記憶に新しい。実は夫婦そろって軍事武器オタクでもあり、仲睦まじいのだが。今回は、先に王子たちと里帰りとしてやって来て、帰りもゆっくり帰る予定。あわよくば帰さないようにと父と兄が何かと企みを持っているような。


次姉オフィーリアは、今回7年ぶりに帰郷が許され、夫アルベルトの故郷ヘルメス公国と帝国の国境線の領地を拝領し、帝国貴族の伯爵夫人となった。ソル王国では帝国大使として赴任し、周辺国の王侯貴族と友好親善を目的とした交流を持ってきた。その人脈と情報は兄皇帝も無視できないくらいになっていた。


「さて、今日はお出掛け下さいましてありがとうございます。お姉さま方、お久しぶりでございますね。わたくしも大人になりましたの、どうぞ姉妹の語らいに入れて下さいませ」


にっこりと笑顔を向けてマリアンナが口上を述べた。


「ふふふ、マリーのお茶会に招かれる日が来るとは、わたくしも年を取ったものね。今日はお招きありがとう。久々にみなの顔が見られて嬉しいわ」

そう優しく微笑みかけて返事を返してくれたのは、長姉エリザヴェータであった。


「本当にね。今日というこの日を姉妹で迎えられるとは感慨深いわ。お姉さま方ごきげんよう」

三姉カロリーナがぐるりと顔を見回して口を開くと、次姉オフィーリアの目を見てそう答えた。


「っ、・・・」

次姉オフィーリアはカロリーナの視線に言葉を飲み込むと、深く息を吸いゆっくりと吐き出した。しばらく心を落ち着かせているのか目線も下げて深呼吸を繰り返すと、スッと淑女の顔の仮面を被って顔を上げた。


「マリアンナ王女殿下、お招き頂きましてありがたき幸せにございます。女王陛下、王妃陛下との列席を賜りましたこと、身に余る光栄の極みでございます」

そう挨拶をすると、静かに立ち上がり深く頭を下げた美しいカーテシーをしてみせた。


「まあ、頭を上げて席に着いてくださいな、オフィー姉様。皇帝陛下がお許しになったのですから」

そうマリアンナは声をかけて席に着かせた。


「ええ、そうよ。この度のあなた方夫婦の働きぶりを評価して、ハデス王国への入国禁止も解除したのですもの。長らくよく励みましたね」

長姉エリザヴェータが慈愛に満ちた声でそう告げた。


そう、オフィーリアとアルベルト夫婦は、ソル王国の駐在大使という肩書きで周辺国を歴訪し、その国の状況や景気などを調査していて、言わば諜報部員のような者であった。

ここ数年、あの戦争王が死去し、王太子も続けて事故死した頃からアレス王国の社交界に進出し、アレス国内の状況を何年にも渡って潜入調査していたのだった。


「オフィー姉様と、また呼んでも?」

マリアンナがそう問いかけると、オフィーリアは一瞬驚きの表情を見せたが、それもすぐに淑女の仮面に隠して控え目に答えた。


「恐れ多いことでございます」


そうして、オフィーリアだけ一歩引いた態度をとりつつも、四姉妹のお茶会が始まったのだった。


「では、わたくしもオフィーと。ねえ、オフィーこれまでの貴女のことを教えてくれる?」

長姉エリザヴェータが優しい声で促した。


「・・・っ、つまらないわたくしの身の上話で宜しいのですか?アレス王国のことなどの報告では、」


「オフィー姉様、報告はもう陛下たちになされたのでしょ?そちらは直に耳にするでしょう。でも姉様の身の上話は今聞かないと、もう知ることは出来ないもの」

カロリーナが無表情な顔を向けてオフィーリアに答えた。


(リーナ姉様ったらますます表情が見え無くなって、お兄様にそっくり。全く)

マリアンナが懸念したように、オフィーリアは身を縮ませて恐縮していた。


「リーナ、貴女のその言い方だとオフィーが誤解をするわ。安心してオフィー。リーナは貴女のことを責めているのではないのよ、本当にこれまでの貴女の身に起こったこと、貴女が思ったことを知りたいと思っているだけよ。リーナ、貴女の顔つき話し方、カールにそっくりで驚くわ」

長姉エリザヴェータが取り持ち、オフィーリアの体から力が抜けたのがわかった。


「まあ、わたくしがお兄様に?わたくし、マリーに似ていると言われるのは嬉しいのだけれど、お兄様だとなんでしょう、素直に喜べないわ」

カロリーナが眉間にシワを寄せて呟いた。


「フフフ、リーナ姉様、その眉間のシワの寄せ方までそっくりよ。あはは」

マリアンナが朗らかに歯を見せ声を上げて笑うと、


「本当ね。フフ、良く似ているわ」

エリザヴェータも釣られて笑った。


その様子を見ていたオフィーリアも、今度は淑女の仮面を脱いで柔らかく微笑んだのであった。


その様は、当に花が綻ぶようと形容された麗しい笑顔だった。


「では、少し、わたくしのお話を聞いて頂きましょう」

姿勢をスッと正して、オフィーリアはそう言って静かな口調で話し始めたのであった。


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