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第2話 1度目の世界 マリアンナが死んだのはお姉様のせい  

本日は2話投稿致します。


1度目も2度目の今も、マリアンナは神聖テルス=ハデス帝国の第4王女第5子である。

上から姉兄姉姉の末姫で、上3人は年子であるが、件の次姉オフィーリアと第3王女カロリーナとは4つ離れており、末子マリアンナとカロリーナも4つ離れていた。


オフィーリアとカロリーナの間の王子は死産であったし、カロリーナとマリアンナの間の王子レオポルトは齢1才で夭折しているためであった。


長男カールヨハン1世は既に皇太子として立太子されているが、スペアとして長女のエリザヴェータは18才という結婚適齢期を迎えているが、婚約者のアルベルトとの婚姻の日取りも、その立場も決められていない状態である。


母は、未来の皇帝(女帝)の可能性を考えて、帝王学という厳しい教育を同じように上3人の子供には施したが、長女、長男と次女のオフィーリアの差は歴然としたものがある。オフィーリアはすぐに「出来ない」「わからない」と泣き言を言い騒ぐので、他2人の邪魔になるからとすぐに授業から追い出されていた。


そして母の職務室を訪ねては、お茶を飲んだり話をしたりして過ごした。

母の女帝マリアはオフィーリアが追い出されたなどとは思いもしないし、なんなら優秀だから上2人より早く終わるのだとさえ思った。

時折、オフィーリアにだけ食事やお茶の時間に他国の言語で語りかけたりした。

耳が良いのか言語習得の才能はあったのか、外国語だけはそれなりに出来ていたオフィーリアは母の問いかけにも如実ない返答をしてみせたのだった。


母 女帝マリアは大陸の中心部一帯を治める皇帝の一人娘として生を受けた。

その容姿は天使もかくやと言わんばかりの神々しさであり、機知に富み頭の回転は早く、言語能力も高く、近隣諸国の言葉のみならず、古代語までも修得済みであった。


神聖帝国は神から男が与えられた知と力である。

先帝までは男子一系で継承してきたものであった。


先帝には男児が居なくとも、隣のリンネ王国は弟が治めており、そこにはマリアと年の近い従兄弟が居た。リンネ王国とテルス=ハデス帝国は同族の統治であるし、リンネとテルス両方併せて神聖帝国であるから、セオリー通りであればリンネ王国の王子フリードが継ぐのが妥当であった。


しかし、先帝は愛娘を皇帝にすることを強く願った。

であれば、リンネ国王フリードを王配として帝国に迎えるのが筋であった。


しかし、大陸一の美貌、麗しの姫と詠われたマリアはこの婚姻の話を一方的に拒絶し、幼馴染みであり遠縁のモンテス公国公子であるフランツとの恋を成就させたいと猪突猛進突き進んだ。


フランツのモントス公国はテルス帝国の南、海と南の遊牧騎馬民族オースン王国に挟まれた場所で、政情はいつも不安定であった。


オースンは遊牧民であるから、あるスパンで別の地域から神聖帝国の側へとやってくる。

すると、街を焼き人を拐い財産を奪う蛮行を働くので、その度に帝国は土地と民を守るため、大規模な軍隊を出して防衛戦争をしなければならなかった。


そんな場所なので代々の王族の某が臣籍降下して公爵となり、帝国の盾としての重要拠点ではある。


重要拠点ではあるが、フランツの場合、先々代の王女が嫁いだのが直近の王家との血の繋がりで、男子男系で血を繋いでいるフリードとは正当性が段違いであった。


テルス帝国の北、リンネ王国の右隣に位置し神聖帝国の構成国である、ネプトス王国やクルノス王国は明確に女帝マリアとフランツの婚姻を拒否し、リンネ王国フリードが皇帝に相応しいとその正統性を支持した。


普通ならば、王女の矜持として帝国のためにフランツとの結婚を諦めフリードと結婚して共同統治をするか、いや寧ろ、帝国は男子相続しか認められてないのだから、皇帝を従兄弟のフリードに譲り、愛するフランツのモントス公国に嫁入りして公妃となれば良いではないか。


多くの構成国の王も貴族も、臣下の帝国貴族までもそう思っていた。


しかし、麗しの顔に似合わぬ強欲でマリアは女帝として戴冠した、もちろん愛するフランツと結婚した上で。

これをきっかけに、神聖帝国は北西の神聖リンネ王国並びネプトス=クロノス連合国と、南東のテルス=ハデス帝国+モントス公国に分裂してしまったのだった。


更にこの分裂劇に乗じて自国の領土を拡大したいという野心で、リンネ王国の左隣のアレス王国がマリア女帝を認めず、リンネ王国のフリード国王を支持すると表明してしゃしゃり出てきた。

テルス=ハデス帝国と名を呼ぶが、元々ハデス王国は別の国であったのを2百年前に併合した経緯がある。

ハデス王国は北と南に高い山脈が走り真ん中がほんの少し丘稜地となっていてアレス王国とその部分で国境線を有していた。


この少しの丘稜地を戦場に、この後数年戦うこととなったのである。


女帝マリアは、多くの王族と等しく子供は産むだけで無関心であったが、自分によく似た黄金の髪とエメラルドの瞳を持った美貌の次女オフィーリアにだけ特別目をかけていた。


それ以外の子供たちはマリアの最愛の夫フランツの色味の薄いプラチナブロンドに青い瞳であった。

帝国を半分にするほど大騒がせの末、結婚して子を為したのだから、その子たちも慈しみそうなものであるが、そんな素振りは微塵も無く、ただの帝国運営の駒としてのみ存在していた。


上3人には、帝王学を学ばせたが、下の二人はそれもなく、王女は可愛くあれば良いとマナーや音楽などの淑女の嗜み程度の教育であった。二人は周辺国の言葉さえ学んではいなかったのである。


マリアンナが断頭台に上がることになった原因は、母の女帝マリアがオフィーリアを依怙贔屓した事と下の王女たちへきちんとした教育を行わなかったことがあったと断言できる。


自分以外に存外厳しい女帝マリアは、本来なら優秀なスペアであるエリザヴェータをハデス王国の女王にし、テルス帝国の北東にあるヘルメス公国の第3公子アルベルトを婿に迎えるはずだった。


自分が帝位に就いたことに端を発するアレス王国との紛争地を抱える難しい要所、ハデス王国の舵取りは普通の者には難しい。

しかし、幼い頃より帝王学を厳しく学び、母の職務の補佐も早くからしていた優秀な長女エリザヴェータならば堅実な舵取りをして王国の運営をしたに違いない。


エリザヴェータは、弟で皇太子カールヨハン1世とは幼い時から切磋琢磨し助け合って過ごし、仲の良い姉弟だった。


どこの誰もが、神聖テルス=ハデス帝国の皇帝にカールヨハン1世、ハデス王国女王にエリザヴェータを据え共同で帝国の運営を行うと考えていた。

だがしかし、ここでも女帝マリアは信じられない決断をしたのだった。


『エリザヴェータとアルベルトの婚約を破棄し、オフィーリアと再婚約をさせる』


(不貞アルベルトの呪縛からエリザヴェータお姉さまが解き放たれるのは、別段問題なかったのよね。問題は・・・)


かの紛争地、ハデス国の女王にあの!オフィーリアを任命し、その王配にアルベルトをそのまま据えたのだった。


アルベルトの生家ヘルメス公国は北にウラヌス王国、西にリンネ王国の連合国であるクロノス王国、そしてその東には広大な領土を持つユメテス帝国と国境線を接していた。

ウラヌス王国はユメテス帝国の属州のようなもので、ヘルメス公国もその内に取り込もうとユメテス帝国から度々干渉を受けていた。

それに対抗しようと、テルス帝国からの支援をあてにして三男アルベルトを優秀なエリザヴェータ王女の婚約者にと捩じ込んだ。

入婿のくせに妹王女のオフィーリアと不貞した挙げ句、女王となってエリザヴェータが治めるはずだったハデス王国をもオフィーリアが横からか拐ってしまった。


これには帝国の多くの貴族や、皇太子のカールヨハンも王配である父のフランツも、フランツの生家モントス公国からも、多くの批判の声が不貞者たちと女帝マリアに上がった。


その批判の声に対し女帝マリアは悠然と微笑みながら、こう宣った。


『オフィーリアは非常に自分に似ているのだ優秀に決まっているではないか。何の心配にも及ばない。幼き頃よりエリザヴェータやカールヨハンと同等に帝王学も学ばせてあり出来が良いのだ、全く問題ない』と。


(大問題よ!これから先、ハデス王国とテルス帝国の連携が取れなくなっていくのよ。

しかも、しかも!与えていたもの全てを取り上げられ、自分に価値が無かったと感じたエリザヴェータ姉様は、この時、帝都の端に修道院を建てさっさと出家してしまうのよ!)


革命時、マリアンナは家族と一緒に生家のテルス帝国へと亡命を求めて、ハデス王国に向かい、入国する直前、厄介ごとに巻き込まれるのは迷惑と、次姉オフィーリアとアルベルトに拒否され、逆に革命軍に引き渡されてしまったのだった。


(わたくしが断頭台で死んだの、このせいよね!)


許された者だけが立ち入ることが出来る秘密の花園。

その東屋の中、末の妹王女が居るお茶の席で、恥ずかし気もなくテーブルの下でそっと手を握りあい、見つめあう不貞者たちに冷ややかな視線を送りながら、マリアンナはもう何度目かもわからない1度目の世界で起きた記憶の反芻をするのだった。





お読み下さいましてありがとうございました。

本日17時に次話投稿致します。

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