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【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し  作者: 有栖 多于佳


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第16話 リンネ国王 フリード1世

エリザヴェータが皇帝の応接室から退席した後、深夜の皇帝の応接室を訪ねる人影があった。


「これはこれは、お義父上。お待ちしておりました」

カールヨハンとリンネ国王フリード1世の深夜の密談の時である。


「この度はおめでとう。貴殿の手腕には脱帽するよ」

大陸一の賢王と名高いフリード王が、宿敵の息子、カールヨハンを珍しく褒めた。


「賢王に褒められるなどなんと名誉なことか。ありがたき幸せ。さあ、どうぞこちらへ」

カールが礼儀正しく返事を返し、席を促した。


「あの欲しがり屋妖怪(女帝マリア)をよくよく退位させられたな。はは、と、これは言い過ぎかな。さて、して、わしに何の内緒話があるのかな」

食えぬ笑顔を向けてそう言うとドカっと乱暴に椅子に座った。


「彼女の皇帝としての正統性は叩いて言ってしまえば私の存在有ってのことですから。私が皇帝に即位するのと彼女の退位をセットで行わなければ辞退するまで。飲むしか選択肢は無かっただけの話ですよ。さて、賢王陛下にぜひ聞いて頂きたい四方山話が一つ二つ」


「・・・ほう、それは何だね。時間も遅い、単刀直入に話してもらおうか」


「では、先ず、女帝との戦争で割譲されたシロスク地方。そこの地下鉱物資源を有効活用する共同事業の提案をさせて頂きたい」

カールは表情の無い冷たい顔をフリード王に向けそう言った。


「どう言うことだ、よもや正当な理由で貰い受けた土地を返せと言うのでは有るまいな」

フリード王が低い声で答えた。


「勿論、土地の領有はリンネ王国で相違無い。そこの鉱物を利用する事業を両国共同で行いたい。あそこで採れる鉄鉱石、つまり鉄製品の生産の、もっと叩いて言ってしまえば、鉄を使った近代兵器の。兵器王の二つ名を持つ賢王陛下のこと。きっとまだどこの国でも使用されていない兵器の製造に着手されるのでしょう。ぜひその近代兵器をわがテルス帝国内にも配備したい。われわれ神聖帝国として、共同で防衛戦線を張りたいのです」

カールヨハンは抑揚の無い冷たい声色でそう答えた。


「・・・両国和平が整った今、お主、何から防衛する気だ」

フリード王は内心を探ろうという訝しげな目を向けて再度問うた。


「大陸に、今後起こる革命の波への防衛線だ」

カールヨハンがいつもの感情の見えない声で答えた。


「は?革命だと?何を言っている、どこにそんな兆候があるのだ。寝言は寝て言え」

フリード王は気色ばむと大きな声で反論し、嘲笑した。


「寝言では無い。革命の波は、アレス王国から始まり、そのうち大陸中を蹂躙する。勿論今すぐという訳ではなく、だいたい後15年ほど先か。だが、その兆候はもうすぐ陛下も見られるだろう。来年、アレス王国の問題の戦争王が崩御する。その後、相次いで王太子も謎の死を遂げる。それが革命の始まりだ」

カールヨハンが自信気たっぷりに予言めいた言葉を口にした。


「なんだ、皇帝陛下は占い師にでも傾倒されておられるのか」

フリード王は呆れた顔でそう言った。


「どう思って貰っても構わない。どうせ来年の今頃には戦争王が亡くなったという訃報が聞けるのだから。それを聞いてから判断して貰って構わない」

変わらぬ表情でカールヨハンが答えた。


「おい、それは真か、戦争王が亡くなると?情報の出何処は確かなのか」

フリード王が疑い深気に聞いた。


「私は信憑性が高いと信じている」

カールヨハンは真っ直ぐに目を見てフリード王に答えた。


「お主の話を信じたとして、戦争王に続き王太子もとなると、確かにあの国は不安定化するな。まあ、それは時期が来ればわかる。で、二つ目の願いとやらは何だ」

顎を撫でながら、フリード王が聞いた。


「シロスク地方で採れる燃える石、石炭。その燃える石を利用するための研究を共同でしたいのだ。しばらくすると、ロンド王国で石炭を利用して機械を動かす何かが発明される。すると、その燃える石は黒いダイヤとして取引されるようになるだろう。その発明の恩恵を受けて、ロンド王国が経済の手綱を握るようになる。投機と化した石炭の山を勝手に民間人が、他国の商人が採掘して富が流出するのも防ぎたい。いや、その石炭を利用した何かの開発を神聖帝国で行いたいとさえ思っている。みすみす幸運を見逃す手は無かろう」

カールヨハンは明日の天気を告げるような気の抜けた雰囲気で語った。


「おい、お主、なんだその話は、また予言か何かか。どうなってるんだ、神託でも降りたとか言う気か?

いやいや、しかし、シロスク地方で燃える石が採れることなど、女帝マリア(お前んとこのばあさん)は知らんだろう、ではなぜお主が知っている?薪も買えない貧民が暖をとる為に細々使ってるだけの燃える石を使って機械を動かす?なんて狡猾無形な話だ。と言うか、なぜわしが兵器の開発をしていると知っている、間諜でもあるまい、その話はわしの頭の中にしかまだ無い構想だぞ!」

フリード王が息を呑み、驚きの目を向けた。


「賢王よ。そんな優秀な間諜が居ないのは貴方の方が良くご存じだろう。女帝時代の帝国軍は口だけ立派なお飾りが指揮するはりぼてだったのだから。神託とはいい得て妙だ。天啓だと思って貰ってもいい。ロンド王国に先んじて、帝国内で発明されたならば、その恩恵は計り知れない。それには広い見識が必要である。その為には、ぜひとも賢王フリード王と和解を行い共同で事業に当たりたいのだ」

夢物語のような話なのだが、カールヨハンの目に疑いはなく、その内容には、揺るがぬ自信のようなものが見てとれた。


「その、画期的なものとは何だ。それはわからぬのか」

フリード王が真剣に問いかけた。


「うーむ、わかっていることは、燃える石の熱を使って蒸気を上げた鉄の馬車が走る、と。その蒸気を利用した機械で物を作るのだとか。まあ、鉄の馬車などは比喩か何かだと思うのだが、私にはとんと理解が追い付かない。しかし、ロンド王国の者が後10年ほどでそれを造るのだ」

今まで自信に溢れていたカールヨハンがこの時ばかりは目を伏せて答えた。


「なるほど。お主は天啓を受けたに違いない。では、一連のテルス帝国の行動はその天啓に沿っているのだな。その天啓にはこれまでハズレが無いのだろう。違うか?では、わしもその天啓に乗ってやろう。燃える石が黒いダイヤになるまで後10年。大陸中の王族を襲う革命の波が押し寄せるのが後15年。そんな激動の時代がすぐそこに迫っているのに、同族で争っている場合では無いからな。よかろう、シロスクの共同運用も含めて皇帝陛下に追随いたそう」


そう豪快に答えると、徐にフリード1世は膝を突き、臣下の礼を執った。


「神聖帝国の繁栄に尽力せよ」

鷹揚にカールヨハンがそう命ずる。


「御意」

ニヤリと笑って大陸一の賢王がそう答えた。


分裂していた神聖帝国がここに再統一を果たしたのだった。



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