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第2話 気づかなかった、眼鏡の盲点

 

「……うん、キラメが眼鏡キャラ好きなのは分かった。

 だけど、結局キラメはそういう眼鏡キャラに、どうあってほしいんだい?」


 今日は休日。

 私は知人の各務(かがみ)ヒカルに、いつも通り眼鏡キャラの愚痴をこぼしていた。


 ヒカルは私と同年代の、漫画アニメゲーム大好き社会人男子。

 アニメイベントで知り合って意気投合し、偶然家が近所だったのも幸いして、休日になると一緒に出かける仲になった。

 ちなみにそのアニメはやっぱり男性向け美少女ハーレムアニメ。ヒカル曰く、男子ばかりのイベントで私みたいな女子が一人でぽつんといたので気になったらしい。

 私の推し眼鏡君のグッズが珍しく売り出されるというから、行っただけなんだけどね。


 ヒカルは一見ぶっきらぼうだけど、いつも真剣に私の話を聞いてくれる。

 残念ながら眼鏡はかけていないけれど、頭もいいし、会社もなかなかイイトコに勤めているらしい。顔は童顔で可愛らしいけど、キリっと決める時の横顔は結構イケメンでかなり私好みでもある――

 残念ながら、眼鏡をかけていないけれど!

 彼氏というにはまだ早く、友達というにはちょっと踏み込み始めている、そんな関係。


 いつも会う時のヒカルは大概、ボサボサ頭とやる気ないファッションが色々と台無しにしている。

 しかし今日の彼は、何故か結構カッコイイスーツ姿だ。会社に用事でもあったんだろうか。

 暑いせいか背広を脱いでネクタイを少々緩めていたが、その仕草が妙に印象に残った。


 ――いや、それはともかく。

 私が眼鏡キャラにどうあってほしいかって? そんなの決まってる。


「そりゃあ、ガンガン前線で戦って、カッコイイところを見せてほしいわけよ。

 イケメンで筋骨隆々なクール系眼鏡男子だったらそーいうキャラがいないこともないけど、私好みの眼鏡君って大概、バトルでは無能扱い、後ろで補佐役なんだもの。

 そういうキャラがなかなかいないから、私好みの眼鏡君は人気が出ないんだと思う!」

「ふーん……」

「前線でバンバン戦う可愛い眼鏡君がいれば、絶対人気も出ると思うんだ。

 なのにさ……あの、私が一番ブチ切れた漫画の話、していい?」

「どうぞ」


 ヒカルがそう言うので、私はついヒートアップしてしまった。


「とある漫画で、超絶私好みの可愛い眼鏡君が主人公のバトルものがあったんだけどね。

 しかも美形がわんさか出てくる、もろ女子向けの漫画。

 高校の夏服姿も可愛かったし、眼鏡も当然チョー!ゼツ!可愛くって。

 しかも妖怪バトルものだと知った時は滅茶苦茶興奮したんだよね。この超キュートな眼鏡っ子が触手やら電撃やら水責めやらであーんなことやこーんなことに!?って」

「……うん、まぁ、分かる」

「ところがね。

 実はその子の眼鏡、能力の暴走を制御する為のもので」

「あぁ、よくあるやつ」

「しかも学校のシーンがあったのは序盤だけで、話が進むと夏休みになって制服脱いじゃって。まず最初の激萎えポイントね」

「あぁ、なんか分かるぅ」

「さらに話が進むと――その子、能力の制御が可能になって。

 眼 鏡 を か け る 必 要 が な く な っ た」

「Oh……」


 私は思わずテーブルを叩いてしまった。ティーカップが揺れるほど。


「眼鏡は本体であり制服は魂でしょうが!

 本体捨てて魂失った貴様に、何の価値があるんじゃい!!

 ……ってなったよね」


 そんな私を見つめながら、ヒカルは少し首を傾げた。


「うーん。

 キラメは、眼鏡を外したそのキャラに魅力を感じられなかったってことか?」

「当たり前だよ!

 バトル全般は他のキャラに任せて守られてばっかりで、自分はほぼチート異能で無敵。

 服ビリも水責めも流血も、全部他のキャラ担当!

 眼鏡と制服で思いっきり騙されたけどアレ、よくあるなろう系主人公と一緒じゃん!!

 私はね! 眼鏡も好きだけど――

 ちゃんと自分の力で努力して、どんなに傷ついても這い上がり、守るべきものを守り、勝ち取るべきものを勝ち取るキャラが好きなの!!

 そーいうキャラが滅多にいないから、眼鏡キャラは人気が出ないんだってば」

「いたとしてもキラメが言ってたとおり、いわゆる筋骨隆々のイケメンマッチョ冷酷腹黒眼鏡だよね」


 何やかんやで、ヒカルは分かってくれる。

 そう感じながら、私はうんうんと思いっきり頷いた。


「はぁ……

 どうして私の好きなタイプの眼鏡君たちは、そういう不遇な扱いばっかりなのかなぁ」


 テーブルにゲンナリと腕を伸ばしながら、私は不平たらたら。

 でもヒカルは、ほんの少し思案に暮れつつ、ふと呟いた。


「だけどさ。

 眼鏡キャラって、必然的にそうなっても仕方がないような気がする」

「へ?」


 ヒカルの言葉がよく分からず、きょとんとしてしまう。

 でも彼は、少々ぼそぼそとながらも話し始めた。


「キラメは、眼鏡をかけたことあるかい?」

「ない」


 即答する私。

 眼鏡キャラは好きだけど、自分が眼鏡をかけたことはまるでない。

 小さい頃、おもちゃのサングラスをちょっとかけてみて、世界が滅茶苦茶うす暗く歪んで見えてすぐ外した。

 私自身の眼鏡体験なんて、そんなもん。


「なら、分からなくても仕方ないかも知れないけど――

 現実的に考えて、眼鏡をかけている時に激しい動きをするのって難しいんだよ。

 ましてや、顔を殴られたり蹴られたりなんてしたら本当に危険なんだ。

 眼鏡が落ちたらぶっ壊れるのは勿論、万一レンズが破損して欠片が目に入ったりしたら、失明の可能性も当然あるからね」

「あ……」


 胸の中心をドスンと刺された感じがして、思わず口ごもる。


 ――盲点。

 完全に盲点だった。

 眼鏡君をどれだけ想っていても、私がそこに気づくことはなかった。

 自分の眼鏡体験が、ほぼゼロに等しかったせいで。


「視力を補う用ではなく伊達眼鏡だったとしても、その危険性は変わらない。

 それに、眼鏡って買い替えも修理もそこそこ手間がかかる。ちゃんと自分の目に合うものを選んで調整してもらうだけでも結構一苦労だ。

 勿論、常日頃の手入れも欠かせない。少しネジが緩んだだけでも店に行って見てもらうことが多いしね。

 眼鏡って、それだけ精密なものなんだ。丁寧に扱わなきゃいけないんだよ」


 ――今まで殆ど考えることがなかった、眼鏡そのもののありよう。

 そして、眼鏡を使わなければならないキャラの事情。


 ヒカルは淡々と語る。


「漫画やアニメでよく眼鏡キャラが殴られるシーン見るけど、あれって眼鏡にとって本気でヤバイと思う。勿論、殴られてるキャラにとっても。

 ――だから、じゃないかな。

 眼鏡キャラがあまりバトルで前面に出ることがないのって」


 ……そうか。

 非常に納得してしまえる説だったけど、同時に私は何も言えなくなってしまった。

 正直、びっくりしていた。ヒカルの言葉の説得力にもだけど――

 眼鏡キャラを愛していると豪語しながら、眼鏡自体の事情を何も考えていなかった、自分の浅はかさに。


「漫画やアニメの制作者って職業柄、眼鏡を使っている人が多いと思う。

 だから必然的に、眼鏡キャラはバトルに向かないと考える制作者も多くなるんじゃないかな」


 そうか。そういうことだったのか!

 普段伊達眼鏡なのに、バトルになると外すタイプもよくいて、しょっちゅう私は怒り狂っていたけど――

 多分アレは、バトルで眼鏡が壊れると危険だからか。


「ファンタジーであれば、そのへんの眼鏡事情は多少何とかなるかも知れないけど。

 俺はよく感じるんだ。やっぱり眼鏡をかけたまま激しい肉弾戦とかするのは、単純に危ないって。

 だからじゃないかな。眼鏡かけたまま勇ましくバトルするキャラが、やたら知略に長けたり狡猾だったり、はたまた筋骨隆々だったりするのって。

 そのキャラが激しい戦いに身を投じなければいけない事情があるなら、眼鏡というウィークポイントの分、他でカバーする必要があるんだよ」


 眼鏡がそれほど精密な道具であるなら、確かに私好みの可愛らしい眼鏡男子があまりバトルの最前線に出にくいのも理解出来る。

 それは眼鏡をかけているだけで、破損及び負傷のリスクを負っているから。

 必然的に、眼鏡キャラのカッコイイシーンは描きにくくなるということか。

 どうしても眼鏡キャラにそういうシーンをやらせたいならば、眼鏡自体を『絶対壊れず、人体も傷つけない』とかいういかにもファンタジーな設定にするか、眼鏡をかけていてもそれほど問題なくバトルが出来るほどの能力をそのキャラが持つしかない。


「眼鏡の脆さと精巧さを無視しての眼鏡キャラのバトルシーン、俺は結構気になるんだよね。

 キラメは気にしたことない?」

「うぅ……全くなかった」

「それにキラメが好きなのって、妙にゴテゴテ飾ったり変に色のついていない、ごく普通の眼鏡をかけているキャラだよね? 

 つまり、見た目は普通の眼鏡と変わらないやつ」

「当たり前だよ。花とか星とか蝶とかの形してる派手な眼鏡かけたキャラもたまにいるけど、あれはさすがにちょっと」

「だったらなおのこと、キラメが好きなタイプの眼鏡キャラは制作者も眼鏡の描き方を気にするし、同時にファンの側でも気にする人は多いだろうね」

「ファンも?」

「そう。俺らみたいないわゆるオタ界隈で、眼鏡かけてるヤツは結構多いだろ? そうでなくともコンタクトしてるヤツも多い。

 逆にキラメみたいに、全く眼鏡もコンタクトも経験ないって方が少数派かも」


 なるほどなぁ……

 私は今まで眼鏡キャラがバトルしてても、何も考えずに興奮しながら見ていたけど。

 そういう時の眼鏡は、多少ヒビが入ることはあっても、外れも壊れもしないのが当然だと思ってたけど。

 実際眼鏡を使っている人からそういうシーンを見ると、リアルじゃないと映っても仕方ないのかも。


「あぁ……私……

 眼鏡推しでありながら、眼鏡のことを全く分かったなんて……うぅう」


 すっかりしょげてしまった私を見ながら。

 ヒカルは少し慌てたように、フォローしてくれた。


「ま、これは全部俺の憶測にすぎないさ。

 キラメが好きなタイプの眼鏡君が人気出ない一番大きな理由は、単純に例の某ネコ型ロボアニメのせいかも知れないし」

「……うん。

 友達からもよく言われたよ。キラメの好きなタイプっていわゆる『の〇太』タイプだよねwって」

「実際に眼鏡使ってると、俺よく思うよ。

 毎回毎回眼鏡壊れるまで殴られて、の〇太ってホントに可哀想だって」


 ……ん?


「ヒカル。

 今、何て言った?」

「えっ?

 だから、の〇太って可哀想って……」

「その前!!」

「え?

 ……あっ!!」



 今、言ったよね。私は聞き逃さなかったよ。

『実際に、眼鏡使ってると』って!!


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