出会い①
親友《葵》が死んだ。
なんでも茜をいじめていた子達と争論になり、その時に故意ではなかったが、建物の上から落ちてしまったらしい。
そう告げられた時、茜の中での芽生えかけた確かな光が、唯一の希望が途切れた気がした。
普段からあまり人と話すのが得意じゃなかった茜だったが、葵だけは気さくに話しかけてくれた。
茜がクラスのリーダーに目をつけられてイジメが始まって、茜が苦しい時も葵だけは変わらず接してくれたし、なんなら庇ってくれたりもした。
時には、いじめに耐えきれず自殺しようかなんて考えた茜を必死に留めてくれて、茜はなんとか思いとどまることができた。
茜にとって葵は唯一の親友あり、大袈裟でもなんでもなく生きる希望そのものだった。
事故の原因になったクラスのリーダーたちは警察の取り調べなんかを受けていて、相当反省しているようだったが、茜は心底どうでもいいと思った。
葵の葬式は死んですぐに行われた。
葵の両親は泣き叫び、「どうして…こんなことに…」なんてずっと言っている。
死ぬ前の争論ではどうやら私のことについて言い争っていたらしい。
だから両親に多少恨みを買ってもおかしく無かったのだが茜と話すときも、驚いたような困ったような複雑な顔をしていたが特に怒る様子もなかった。
いい人なのが伝わってきた。
茜は さすがは葵の両親だな。なんて思ったりもした。
しばらくすると学校は始まり、茜へのいじめは無くなったが、茜の中ではそれ以上に大切なものを失っている感覚がして、空っぽのまま悶々と日々を過ごしていた。
それはなんとも言えぬほど辛い日々で一ヶ月もしないうちに茜に限界が来た。
「もう…いいよね…」
茜はそう言って屋上から下を見る。
もう終わりなんだと改めて心の中で確認しても、特に何も思わない。
きっと葵が死んだ時から私も死んでいたんだろうな
そんなことを茜は思う。
「まぁ…どーでもいい」
足場のない空中に一歩踏み出そうと右足を上げる。次の瞬間、
「ちょぉぉぉとまぁぁぁぁたぁぁぁ!」
叫び声が聞こえると共に茜の体は横に吹っ飛ばされる。
何かと思ってみると茜の腰あたりに女の子が一人抱きつくようしていた。
彼女はばっと顔を上げると茜の顔を見て叫ぶ。
「なにを!しようとしたんですか?!」
茜はそう言われた途端少し驚いたが、すぐに冷静になる。
「なにって見ればわかるでしょ…自殺…だけど…?」
そう真顔で答えた茜に彼女は心底驚いたような顔をして反論する。
「なんで自殺しようとしたなんて軽々しく言えるんですか⁈」
そう言った彼女は少し涙ぐんでいるように見える。
「どうだっていいでしょ…」
茜は腰にまとわりついた手を無理やり引き剥がして飛び降りようと元の場所に走る。
しかしそこに行くまでに彼女に捕まる。
「なんでよ!死なせてよ!」
茜は人生で初めてと言っていいほどこれまでにないほど大きな声で叫んだ。
「ダメです!命は大事なんです!
命を粗末にしないでください!」
そう叫んだ彼女の声に茜は声を失う。
前、一度自殺しそうになった時に葵がかけてくれた言葉を思い出したのだ。
『茜は今苦しいかもしれない!でも!命を粗末にしちゃいけないよ!』
その言葉を思い出した時には茜の足は止まっていた。
「ごめん…」
そう告げた茜に彼女は少し微笑んで提案をする。
「少し…話しませんか…」
二人は屋上の端に並んで座った。
「ねぇ…名前…なんていうの?」
茜は随分と久しぶりに人と話したので言葉に迷いながら尋ねる。
「私は紺!日野 紺っす!一年何で先輩の一つ年下っすね!」
「なんで私のことを知ってるの?」
「え!?あぁーいやぁ 前二年生の教室のところで見たことあったんすよ!」
「そう…」
沈黙が流れる。
「えっ!先輩の名前教えてくれないんすか?!」
「私?私は…永井 茜」
「茜先輩かぁー」
名前を聞くと紺は嬉しそうに首を横に軽く振っていた。
(似てる…)
そんな彼女のことを見て茜はどこか今はもういない葵に似た何かを感じていた。
「先輩…そんなジロジロ見られても…」
不思議と目が吸い寄せられるように茜が紺を見ていると紺が恥ずかしそうに訴える。
「あっ…ごめん…」
茜が俯くと紺は一瞬うーんと唸るようにしてすぐに何かを思いついたようで顔を茜の方へ向ける。
「茜先輩!これからデートしません?!」
「…ふぇ?」
あまりにも唐突な誘いに茜は一瞬固まった後、素っ頓狂な声を出してしまった。