夏祭りの幻影
夏祭りが開催されている。
開催する事が告知されてから、コミュニティーの皆が首を長くして待っていた夏祭り。
皆、家族や友人と一緒に夏祭りが開催されている会場にやって来た。
ピ〜ヒャラピ〜ヒャラドンドコドンドン
ピ〜ヒャラピ〜ヒャラドンドコドンドン
ピ〜ヒャラピ〜ヒャラドンドコドンドン
笛や太鼓の音が鳴り響く会場で、皆が綿飴やイカ焼きにお好み焼きなどの屋台に涎を流し、色とりどりの浴衣を着た女性や渋い色の浴衣を着た男性に目を奪われる。
片手に綿飴やりんご飴の串を握り締めた幼い子供たちやお面を被り走り回る少年たち、浴衣を着た笑顔の老若男女が両側に屋台が並ぶ参道をそぞろ歩く。
夜の帳が下りた会場の空に大輪の花が咲く。
ドーン! パチパチパチ…………
ドーン! パチパチパチ…………
ドーン! パチパチパチ…………
打ち上げられた花火の音に皆が度肝を抜かれ、夜空いっぱいに咲く花火の大きさに目を見張る。
ピ〜ヒャラピ〜ヒャラドンドコドンドン
ドーン! パチパチパチ…………
ピ〜ヒャラピ〜ヒャラドンドコドンドン
ドーン! パチパチパチ…………
ピ〜ヒャラピ〜ヒャラドンドコドンドン
花火の合間に聞こえる笛や太鼓の音、綺麗な浴衣を着てはしゃぐ若い女の子。
スクリーンに映される夏祭りの映像を見ながら、スピーカーから流れる音を聞きながら、コミュニティーの皆が涎を流し目を見張り度肝を抜かれる。
此処、地下数百メートルにあるコミュニティーで暮らす者たち皆が憧れる地上は、放射能で汚染された雪と氷に閉ざされ空は放射能で真っ黒に染まる分厚い雲が覆っていた。
コミュニティーの皆は地上から滲み込んでくる放射能に被爆して、スクリーンに映る老若男女と同じ人間とは思えないほど奇形化が進み、1人として同じ姿形の者はいない。
魑魅魍魎の集団は、遥か昔に地上で行われていた夏祭りの映像に見入り続けていた。