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ダーク・ブルー  作者: 星乃 蓮
T w i l i g h t
3/3

C h a p t e r 1 - (3)

 眼下に広がっていたフロア3の生活居住区の雑多な街並みをぼんやりと眺めていたのもつかの間、階層をまたぐためにモノレール専用のトンネルのなかに入ってしまって、ガラスの向こうには反射した自分の顔と上機嫌のダッチスの姿が見える。

 フロア4は求められているその役割と性質上、ほかの階層とはすこしかわったつくりをしていて、それもあってかなり広い範囲にわたった階層構造を持っている。それもすこし考えれば当たり前の話しで、セントラルターミナルを利用するのは何もエクスカベータ・マテリアルズのような企業ばかりじゃなくて、他のコロニーからの物資輸送シャトルの定期便や旅客シャトルまでと多岐にわたる。

 特に気を使わなければならないのは旅客機だ。他のコロニーからやってくるようような人間はだいたい金持ちか、あるいはそういう役職の人間がもっぱらで、そういうのは一般的な学と教養があると相場が決まっている。

 ダッチスやオレのような労働者階級(ワーキング・クラス)なんかはまず来ることはないのだから、セントラルターミナルには旅客機専用のターミナルが設定されているし、もちろんそのターミナルから出た先も徹底的にこちら側とは切り離して作られている。()()()豊かな緑と水辺をたたえた自然的な街並みの舞台としてすべてをつくっているのだ。いわゆる上流階級のお偉いさん方々が言っている”人間的な暮らし”というものを提供しているといえよう。

 ごくまれに顔を出しては嫌味と蔑みを振りまくるだけして帰っていくエクスカベータ社の人間にもなかなかどうして使えるようなところがあるもんだと思う。

 だが、こうやって表側と裏側を分けてつくるとなれば当然、フロア3の総重量は比例して大きくなるし、それを支持するために下の階層になればなるほどフロアの天井は低くなり、窮屈としたものとなっていく。

 幸いなことに、自分が割り振られた階層はフロア3の直下だということもあってか、比較的ゆとりのある造りところで視覚的な窮屈さはないものの、アパートメントの部屋は窮屈で、街もそれほど広さにゆとりがあるとは言えないが。

「そういやよぉ、ジャック。聞いたか、E-302ににゃあ、まだ未発見の古代遺跡がわんさかあるって話しよ。んで、そこには大戦時に隠された莫大な遺産があるらしい」

 カップのなかにあった酒を飲み切ったようで、空になったカップの底にかすかにたまった残りも飲み切ろうと底を叩きながらバックスが言った。ぺこぺこと間の抜けた音がモノレールのモーターが発する鈍い唸り声に混じる。

「なんだ、またそのテの噂話しかよ。このまえもそんなことを言ってたようだが、結局あったのはレッチワークスが違法投棄したコントラクターのアフターパーツばっかりのガラクタ山だったオチだったじゃねえか」

「あー、まあなんだ、アレは運が悪かったんだって。7年前に主要鉱脈の採掘が終わったD-3に何か残ってるなんざ誰も思っちゃいなかっただろうが。それに、たしかに金銀財宝とまではいかなかったけどよ、ブルー・マーケットに裏ルートで流してそれなりの金になったのは間違いねえだろ」

 鼻息を荒くしながら言うダッチスに、レイはまあそうだなと頷き返す。

 一月ほどまえに採掘作業にいった資源衛星D-3にけっこうな金属反応があるってことで、当時のコントラクター仲間の間で話題になったのだ。その噂話しを持ち込んできたのが目の前にいるバックスであり、あの手この手で焚きつけたのだ。もちろん、雇い主の人間にはバレないようにうまい具合に隠しながら。

 大戦時の主力兵器のひとつであったゼルドナーアーマメントのジャンクがとれるかもしれないと散々に煽った挙句見つかったのは型落ち品のコントラクターのパーツで、そりゃあたしかにヒト型ってのは共通しているがそれだけだ。金にはなるが、その落胆はひどいものだった。

 結局、手分けしてパーツを各自で持ち帰って、ターミナルの職員にも一枚噛ませて廃品収集車に積み込んでブルー・マーケットのガレージに売りさばいたのだ。ひとり2000クレジットと、思っていたよりも金にはなった。

「それでだな、今回のはわりとマジな話しなんだわ。いつもならよ、300クレジットもくれてやればあれこれと好き勝手にしゃべり倒す情報屋なんだがよ、こればっかりは500も持っていきやがったんだ」

「なんだ、ついに情報屋にも足元見られるようになっただけだろう。情報通のバックスもとうとう焼きが回ったってか」

 くつくつと小さく笑い声をもらすレイにバックスはしかし、冷静に返した。

「そうだとしたらこのオレがこんな姿でここにいるわけないだろう。情報屋が言うには、どうも今回の件に軍が絡んでいるっつー話しで、嗅ぎ回ろうとするだけでも綱渡りなんだとよ」

「は、情報屋なんざネズミみてえなことやってんだから、いつだって綱渡りしかねえだろうが。どうせその情報屋も同じで、踏まなくてもいい怪物のしっぽでも踏みつけたんだろ、で、軍まで出張ってきたと」

「いや、オレも考えてたんだが、それはなさそうなんだ。その界隈じゃやり手だって有名なヤツでな、まだそんなくだらないことでヘマをやらかすタイプじゃないと思うんだ。それに、これに目を通してみろ」

 そういいながらジャケットの内側に取り付けた隠しポケットからくしゃくしゃに折り畳まれた紙───なにかの書類の一部をバックスは無言で突き付けてくる。

 ずいぶんと小汚い紙きれだが、左上に記されている発行元を確認するや否やそんなくだらないことはレイの中からはなくなっていた。コロニー・ギドの情報解析班がつい先日発行したばかりの資源衛星E-302の地質解析調査の結果であった。

 だが、ぱっと全体を見ただけでは、E-302が保有しているであろう埋蔵鉱物資源の割合と鉱脈予想図に過ぎない。少なくとも、これが何かしらの秘密作戦の計画書だとかはレイには思えなかった。たしかに、軍がたかがいち衛星の調査に乗り出していることに違和感を覚えるとは言えばそうだが、過去にもやっているためにないとは言い切れない。

「ただのE-302の調査報告書じゃないか。たしかに軍が出張ってくるなんて滅多にないからって言っても、さほど珍しいようなものでもないだろうに。これがその噂話しの証拠だなんて言わないでくれよ」

「期待しているとこ残念だが、そいつがそうだよ。まったく、たしかにきったねえ紙切れだからって最後まで読んでも損はねえんだぞ、レイ」

 レイからひったくるようにして報告書を手元に戻したバックスは、ここだ、と指で叩きながらその項目をレイに突き出した。

 バックスが指の先でとんとんと叩いているのは埋蔵鉱物の予想一覧の、そのなかほどに紛れ込んでいたケイ素にゲルマニウム、それからカーボンフラーレン。そのどれもがほかの鉱物の埋蔵予想量よりも頭ひとつ突出している。

 資源衛星としての埋蔵量だと額面通りに受け取るとするならば、将来有望の大資源衛星として名前を刻むことになるのだろう。エクスカベータ社がこの資源衛星に馬鹿にならないほどの巨額の大金を投じていたとしても、数年もあれば簡単にペイできるほどだ。

 だが、あくまでもそれはこれが本当ならば、という前置きがつくことになるが。

「どれも超がつくほどの高級鉱物だろう。だが、問題はそこじゃあない」

「ああ、そうだな。こうまではっきりとデータに出ているのなら分かるさ、オレもそこまで馬鹿じゃない」

 ここまで綺麗な整った数値まであるのだ。長いことコントラクター業をやってきたのだから、この数字の並びが示していることに察しが付かないはずがない。なるほど、軍のほうも隠蔽工作の一環としてなのか名称を記さないように鉱物資源としてカウントしたのだろう。

「───ノイトロンか」

「そういうことだ。な、ちったぁ信ぴょう性とやらが上がっただろう。こんな金になるようなこと、ふつうなら教えねえんだから、感謝しろよ」

「ああそうだな、ま、見つかったときにでも拝み倒してやるよ」

「いますぐにでもオレはいいんだがなぁ」


 ───次は、ノースサイドハーバー、ノースサイドハーバー。お出口は左側です。ターへルインダストリアルラインはお乗り換えです。

 軽口の応酬を続けていれば、もうそろそろで目的地につくところであった。

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