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ダーク・ブルー  作者: 星乃 蓮
T w i l i g h t
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C h a p t e r 1 - (2)

 コロニー・ギドの中央ターミナルはフロア4の港湾街に面したところに位置している。コロニーの第二の中心部ともいえるような場所で、労働者輸送用のシャトルだけじゃなく、区画ひとつ向こうには旅客向けに整備されたターミナルもある。

 まあ、そういうのがあることをシャトルのなかで揺られているときにちらと見えただけで、実際にそこがどういった場所なのかは行ったことがないから、ほとんど何も知らないのだが。それに行くような機会なぞ訪れることもないだろうしな、とレイは嘆息する。

 ちょうどいまいる階層のひとつ上のフロアで、歩いて行こうとすると面倒だが、タイミングのいいことに今回は港湾区画直行のシティラインモノレールの車両がステーションに止まっているのが目に付いた。この電車を逃せば、次に来るのは40分後だけしかなく、つまりは仕事に遅れるどころか出社すら危うくなる。

 また全力疾走で汗だくのまま仕事をするのは御免であった。

 小走りでステーションの階段を駆け上がり、タッチの差でなんとか乗り込むことに成功する。停車してからちょうど2分30秒、ぴしゃりと時間きっかりに閉まったドアの反対側には間に合わなかったのであろう自身と同じ作業服に身を包んだ人影がちらほらと見えた。そのなかの見知った顔をいくつか見つけて、ご愁傷様と心の中で祈っておく。

 どうせ行かなかったとしても罰金くらいしかないんだ、今日一日は運が悪かったとでも言って遊興区にでも足を運ぶだろう。クビにならなきゃそれで万々歳だという気持ちはよくわかる。

 なかには大胆な行動をとろうとした者もいたようで、反対側の路線───たしか工業区画へと繋がっている方では車両の非常点検用の手すりに何とかしがみついている姿や、惜しくも掴み損ねてホーム下のなにもない平べったい床に身体を打ち付けていたりする。

 車両のなかに空いている席はなく、それどころか立っているのですらやっとのほどであった。だいたい誰もが似たような恰好をしていたり、あるいは文字通りの青い作業服をラフに着崩しているか。

「おお、今回はずいぶんと早い出発で。あのサボり魔のレイ・ジャクスンがこんな時間にいるとはな、今日は配給切符のサービスはないぞ」

「ダッチス、オレがそう何回も仕事ほったらかして遊び惚けているような言い方はやめろ。こう見えてもマジメに働いてるんだからな」

「おー、そうだな。仕事中にこっそり姿くらましてパブに顔出していようが、飲んだくれてようが、終業点呼にゃあしっかりと素知らぬ顔で突っ立てても働くうちに入るんならな」

 ふらふらと、そこまで揺られていない車両のなかで、ダッチスは右に左にと小さく身体を揺らしている。頬は真っ赤に染まっていて、ついでに吐き出す息にはたっぷりとアルコールの匂いが染み付いている。片手で天井から伸びるつり革を、もう片方で器用にプラスチックカップのなかで波紋を揺らしている琥珀色の液体をぐびりと飲み込んだダッチスが、ずいと顔を近づけて言う。

「んで、なんで早くいるかってのを聞いてるんだよ。ごまかそうったってそうはいかねぇからな」

「別に、誤魔化しなんかしねえさ。稼ぎの話しがあるんなら、そもそもこれに乗ってすらいねえからよ」

「じゃあ、なおさらだ。あのクソったれの仕事場に時間通り出社するような勤労意欲なんざ持ち合わせていねぇだろうお前がだぞ、朝イチのモノレールにいるなんぞ信じられないね」

 まあ、オレもそうだから言えないけどなとダッチスがげらげらと笑いながらさらに酒を煽る。ずいぶんと飲んでいるだろうにも関わらず一滴たりともこぼさないでいるのはさすがと言うべきか。

「まったく、今回の仕事場所は覚えているだろ、ダッチス」

「あったりまえだ。E-302だろ、そんで、それがどうしたってんだよ」

「オレ達の雇い先であるエクスカベータ・マテリアルズはろくすっぽコントラクターの整備ひとつできやしないのに加えて、オンボロときた。さっさと早いうちから程度のいい奴にツバでも付けとかにゃ、ノルマすらこなせずにオシマイよ」

 火星近傍に存在する資源採掘衛星の採掘権利を有する鉱業企業は星の数ほどあれど、そのほとんどはエクスカベータ・マテリアルズをトップに据え置いた企業連合体(アライアンス)が総衛星数の40パーセントを占めている。

 広げた手のなかに転がっている金になる木が多ければ多い程、オレたちのような末端作業員に用意される備品は、それこそ作業の根幹にかかわるようなマイニング・コントラクターですらマトモなものが来ることは滅多にない、そこまで金をかける必要性がないということだ。

 が、しかし。これはあくまでエクスカベータ社にとっての都合がいいだけに他ならなく、雇われているオレ達には全くもって関係のない話し───いや、そのせいで仕事に支障が出ているのだから厄介ごとでしかない。

 ため息を交えつつもレイはそう理由を話し終えた。

 事実、調子のいい機体に乗り込むには誰よりも早くに手を付けておくしかないのだ。もちろん、事前に予約だとか個人貸与とかはエクスカベータ社のことを考えればあり得ないことだと容易に想像がつく。

「なぁるほどね、ふだんサボってばっかりだからと侮っちゃいたんだが、分かってんじゃねえかよ。まったく、オレが一番先に新しいのに乗ろうって思ってたんだが、予定が狂っちまったじゃねえかよ」

「新しい場所に配属されるんだ。E-302がどういうとこかは分かっちゃいないが、こういうところには昔っから気を使ってるんでね。ま、オレの次にいい奴でいいなら乗ればいいさ。なんなら教えてやるよ」

「はっ、お前になにか教わるなんざおっかなくてできないね。なに吹っ掛けられるか分かったもんじゃない」と酒臭い息を吹きかけながらバックスが言う。

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