堕ちた妖精のトゥシューズ(短編化)
三歳のとき、ガラ・コンサートで見たリラの精に憧れた夏目紗奈は、母親に頼みこんでバレエを習いはじめる。彼女は最初からまじめながらも好奇心旺盛、隠れて上級者クラスの見学などをするちょっとだけ問題児ではあったもの、すぐに周囲の先輩たちに気に入られる。
また同い年ではあるが性格のまったく違う二人、無口で大人しい佐津早苗、お姉さん気質の夕空梓の二人とも仲良くなり、三人は同じクラスで切磋琢磨していく。
しなやかで見た踊りをすぐに自分のものにできる彼女は早苗や梓よりも早くバレエ団主宰、大味谷愛子に認められわずか五歳で地元で開催されるコンクールに初出場し『眠りの森の美女』フロリナ王女のVa.(ヴァリエーション)で銀賞を取る。その後も毎年コンクールに出場し銀賞や奨励賞を取り続けるが、金賞には一切手が届かない。そんな中、早苗、あずさの二人は急成長し、それぞれ十歳と十一歳で金賞を獲り、さらには海外のコンクールでも奨励賞を取るという快挙を成し遂げる。また彼女たちよりも後に入った後輩たちも次々とほかのコンクールで金賞を取っていき、紗奈は焦りを感じ始める。
レッスン後も残ったり、休日もレッスン場が開いている限り忍び込むなど極限まで自主練をする紗奈だが、それでも思うような結果を残せず、さらに悩むことになる。
その一方でU15公演(15歳以下のバレリーナだけの舞台)では主役や準主役の座を毎年のように射止め、ソリスト(単独での踊り手)としては有名になった紗奈。13歳のときのU15公演『くるみ割り人形』では"クララ"と"金平糖の精"、14歳のときのU15公演『ジゼル』では"天真爛漫な村娘"から"恋心によって発狂して自死する"ジゼルというかけ離れた役作りの難しさを知るが、それぞれの性格や表現を作り出すという楽しさを覚える。
14歳のU15公演の後に行われたコンクールではその公演で学びえた"天真爛漫"なときのジゼルを演じるが、直前に怪我をし、さらに体調を崩していたことで思うような"伸び"が出ず奨励賞にも届かなく、周りとの差が浮き彫りになった紗奈だが、母親が大切に持っていたフルートを手放してまで娘を応援しているのを知っていたからこそ、あきらめるわけにはいかないと自分に言い聞かせ、奮い立たせていた。
最後のU15公演の配役発表日の近く、いつものように遅くまでレッスン場に残っていた紗奈は、講師室で愛子が早苗に「"怪我をしたあの子"の代わりにあなたをU15で使う。もともとは"彼女"よりもあなたのほうが適任だと考えていたんだけれど、ちっちゃいときからのあの子の希望だったのよね」と言っているのを聞いてしまう。"怪我をしたあの子""彼女"というのが自分とのことだと思い込んだ紗奈は自分がもうU15の舞台にも立てないのかと絶望し、今までの焦ってきたものはなんだったんだろうという思いから、レッスンに通わなくなる。
紗奈の異変に気づいた周囲だが、早苗と梓の二人が動く。彼女たちは数週間後のある日、彼女の家に連絡なしで迎えに行き、彼女になぜレッスンに通わなくなったのか問い詰め、件の聞いたことを漏らす紗奈。
しかし、それを聞いた二人は笑う。
"怪我をしたあの子"も"小さいときからあこがれていた彼女"というのも梓のことであり、次のU15公演『眠れる森の美女』でもともと主役であるオーロラ姫を梓が踊る予定だったが、足に怪我をしたため長時間のVa.ができないこと、そもそもオーロラ姫という"柄"ではないことから外されただけで、すでにリラの精に決まっている紗奈には一切関係なかった話だという。
真相に呆気にとられた紗奈。
しかし、自分の限界に気づいている紗奈はこの公演を最後に舞台から降りることを決意し、愛子に無断でレッスンを休んだことに対する謝罪の言葉とともに、やめることを話す。愛子は「あなたにはもうちょっとのびのびと踊ってもらうべきだったわね」と引き留めようとしたが、紗奈は今までの感謝を述べたうえで断る。
無事に最後のU15公演も終了。あこがれのリラの精を複雑な気分になりながらも踊りきった紗奈は晴れ晴れとした表情で二人に別れを告げる。
それから十五年後。就職した写真会社に早苗と梓が出演する公演の撮影依頼が来ているのを知る。その依頼を読んだ彼女は一人の観客として公演を観にいき、二人と再会する。
大体の字数としては15~20万字 (ダイジェストバージョン)、45~80万字 (フルバージョン)かな (できれば100万字は行きたくない)。
Va.とか演目・専門用語が多いのでその分で水増しされそうだけれど、そうでなくても12年だしなぁ… (『転生ざまぁ』が7年?9年?で40万字なので……察してやってください