伝説のヒモ
「助けて! 」
この一本の電話から、俺の世界は一変した。
夏海は幼稚園からの腐れ縁でいつも口煩い母ちゃんのような存在だった。
裏を返せば面倒みがよく、俺が困っている時はいつも助けてくれる。
そんな夏海からの助けだった。
今すぐにでも行かねば!
そう思ったのも束の間、夏海の悲鳴を聞いた瞬間、目の前は焼け野原の大地になっていた。
魔物が飛び交い、魔獣が人を喰らう世界へ飛ばされた俺は訳もわからず彷徨った。
転々と街を訪れ仲間を作り、様々なモンスターと戦った。
時には師匠の死を傷み、時には宴をして馬鹿騒ぎした。
そして、そんな始まりから馬鹿げた物語がここで終わろうとしている。
ヘイトレッドステア最上階。
頭はバイコーン、体はバーサーカーの巨大な魔獣が俺らを見下ろしている。
俺は聖剣グランドキャニオンを堅く握りしめた。
「貴様が魔壊王ヘルギナンテか! 夏海をどこにやった!」
「夏海……気味が悪い」
「何を言ってる! お前が夏海を消したんだ! 夏海を返しやがれぇぇええ!」
俺はグランドキャニオンを振りかざした。
「爆炎滅消!!」
辺りの大気を一瞬にして取り込み、爆炎を纏った聖剣でヘルギナンテを一刀両断した。
「ぐぉぉぉおおお」
轟声とともにヘルギナンテはのけ反り返った。
しかし斬撃を食らったはずの部位からは血の一滴も出ない。
それどころか傷口は、たちまち白い光を放ちだし、瞬く間にヘルギナンテを包み込んだ。
「ど、どういうことだ?」
光は巨大な繭に変化し、アザレアのごとく咲き開いた。
そこには美麗な少女が優雅に鎮座していた。
「夏海!」
僕は全力で駆け寄った。
「来るな!」
途端、白い帯状のものがカッターのように突き出され、俺を弾き飛ばした。
「悠君。ごめんね。もう悠君とは一緒にいられないよ」
「ど、どうして?」
「悠君はいつも私を頼ってばかりいたよね。勉強も、お金も面倒事も。でも、もう悠君が変わらなくっちゃ駄目だよ」
夏海は言葉を紡ぐたびに、体に切り傷が出来、血を流した。
「その聖剣だって鎧だって師匠の御下がり。結局悠君は何も変わってない。だから、もう私を頼らないで。一人で生きて行ってね」
「夏海!」
夏海の全身が深紅に染まったとき、俺の眼の前は真っ暗になった。
夏海のいなくなった世界で、俺はまた夏海を探し続けるのだった。