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Cafe Shelly

Cafe Shelly 一攫千金の夢

作者: 日向ひなた

 私の日課。それは新聞を開いてあるところに目を通す。そしてそのたびに落胆のため息をつく。

「ふぅ、今回もはずれちゃったか」

 そして毎朝夫からこのセリフを聞く。

「そんなに簡単に当たれば苦労はしないよ。かぁさん、メシ」

 いつからだろう、こんな朝を迎えるようになったのは。たぶん長男の慎一が中学に入学するときがスタートだったから、もう十年くらいになるか。お金が必要だからと思って、気軽に手に入れる方法を見つけようとした。あの頃、レジ打ちのパートをやっていたけれどなかなかお金は貯まらない。そんなとき、パート仲間の一人が宝くじに当たったといううわさが流れた。突然パートを辞めたと思ったら、車も買い換えてハワイに旅行にも行っている。きっと宝くじに当たったに違いない、というのがみんなの見解。そのときからだったな、私が宝くじを買い始めたのは。

 今では週三回はナンバーズを買い、ジャンボ宝くじは欠かさず購入。一時期は毎日ナンバーズを買っていたが、夫からいい加減にしろと言われて、月・水・金だけ買うことにした。それでも夫はあきれ顔だけれど。結局この十年間で当たった一番高額なのは一万円だった。けれど私はあきらめないわ。

「さぁて、今日はどの数字にしようかしら」

 私なりに考えたナンバーズの数字分析手帳を広げ、今日の数字を考える。

「そういえば今日はジャンボ宝くじの発売日だったわ」

 家計は私がパートに出ているのと、子どもたちが巣立っていったおかげでそれなりに余裕はある。夫ももうすぐ定年退職。再就職先も目処は立っている。贅沢はできないけれど、まぁ普通の暮らしはできる。だからこそ、こうやって宝くじに夢を描いて毎日を過ごすことができる。

「おい、そういえばお前に郵便が来てたぞ」

 夫が出かける前、思い出したように私に封筒をポンと出した。昨日の夜、私は職場の懇親会で外に出ていた。子どもの世話をしなくていいので、夜もこうやって気楽に出ていくことができる。だから昨日の郵便物なんて目も通していなかった。

「え~、なんだろう?」

 パッと見たらどこからかのダイレクトメールに見える。今は後かたづけと洗濯物干しが頭にあるので、後から見ることにしよう。私は郵便を開封することなく、食卓の上にポンと置いたままにして目の前の仕事に意識を向けた。そして急いでパートに出る支度。

「あー忙しい、忙しいっっと」

 こうやってまた今日もいつもの一日がスタートした。


「春江さん、今日こそは当ててちょうだいね」

 仕事が終わり、いつもの宝くじ売り場へと足を運ぶ。もうここは顔なじみ。

「はい、ジャンボ宝くじ。三十枚でよかったわよね」

「ありがとう。今度こそ当たらないかなー。私が高額当選したら、ここから当たりくじが出ましたーって派手に宣伝できるわよね。そしたら売り上げもアップするかもよ」

「そう願うわ。春江さんが当たるのって、私たちの希望でもあるんだから。がんばってよ」

「ありがとう」

 いつもこんな感じの会話を交わす。最後に神社に行ってお参り。

「今度こそ当たりますように」

 ジャンボ宝くじの時にはお賽銭を必ず千円あげるようにしている。これでちょうど一万円使うことになる。それだけのお金、貯金すればいいのに。そう言う人も多い。でもそれじゃ夢がないじゃない。当たったらどうするか、それを考えるのが楽しいんだから。

 一億円当たったら、もちろん家を買い換えるわ。それに海外旅行も行くし、おいしいものも食べに行くの。そうなったら生活も変わるだろうなぁ。パートにも行かなくてすむし、着るものだって高級ブランドを買えるし。ホント、宝くじって楽しいわ。夢がひろがるもの。そんな生活、してみたいなぁ。

 毎日そんな感じで夢を見る日々が続いた。ナンバーズの方は相変わらず。一回二百円だから、毎日たばこを買うよりはいいわよ。うちの人もいい加減たばこやめてくれないかしら。ま、これでささやかな希望を持って毎日暮らせるのなら安いものよね。そうして迎えたジャンボ宝くじの抽選日。

「さてと…」

 私は今回購入した宝くじ三十枚を冷蔵庫に保管していた。前にそれで当たった人がいるというのを雑誌で読んだから。そういうジンクスは片っ端から試しているけれど、今回はどうかしら。一枚一枚、丁寧に番号を確認。しかし当たったのはいつもの末等だけ。

「あーあ、今回も夢で終わったか…」

 だからといって悲観はしない。また次があるもの。

「おい、そういえば前にこんなのが送ってきてたよな」

 そのとき夫がほこりにまみれた封筒を私の前に出した。

「あ、これってずいぶん前に送ってきたやつじゃない。すっかり忘れてたわ」

「忘れてたって、オレが昨日冷蔵庫の下を見なきゃずっとそのままだったぞ」

 我が家はそんなのが多い。今回もきっとテーブルの上に置いたままにして、そのあと何かの拍子に床に落ちて冷蔵庫の下にはまったんだろう。

「そういえば何の手紙だったのかしら?」

 はさみを持ってきて封筒を開ける。と、そこにはジャンボ宝くじが十枚入っていた。

「えーっ、これなに?」

 そこであらためて封筒を眺める。

「あ、これかぁ。すっかり忘れてたわ」

 封筒にはラジオ局の名前。そういえば前にラジオ番組の抽選に応募したんだった。ジャンボ宝くじが当たるという企画。応募したこと自体記憶になかった。

「ほう、宝くじだったのか。おまえにぴったりのプレゼントだな。どれ、当たってるか見てやろう」

 珍しく夫がそんなことを言い出した。

「どうせはずれに決まってるわよ。さて、片づけなきゃ」

 私は自分で買ったものしか信じない。こんなので当たったら、今までやってきた苦労がパーになりそうだから。そう思って席を立とうとした時、夫が妙な態度をとりだした。

「2…8…0…」

 番号を一つ一つ確かめているようだ。ホント、たかが十枚くらいすぐに確認できないのかしら。だが夫の様子が本当におかしい。

「2…8…0…」

 さっきから同じ番号ばかり口にしている。とうとうボケが始まったのかしら?

「おいっ、た、大変だっ!」

 夫は当選番号の表と手にした宝くじの一枚を私につきだした。

「何が大変なのよ。一等でも当たったの?」

「あたっ、あたった!」

 当たったって、まさか。そう思いながら、当選番号と手元の宝くじを見比べる。

「1…2…8…0…」

 番号を一つ一つ見るたびに、私の心臓が高鳴っていく。え、うそっ。もう一度見直す。間違いない。いや、でも。再度見直す。

「あたっ、あたっ、あたった…」

 その瞬間、私はその場に倒れ込んでしまった。


「あ…う…うぅん…」

「おい、気がついたか?」

「あれっ、私寝てたの? なんかすごい夢見ちゃった。宝くじの一等に当たったのよ。ホント、リアルな夢だったわぁ」

「ばかっ、夢じゃない!」

 そう言って夫が差し出したのは、宝くじの当選番号表と宝くじ。私はもう一度番号を見比べる。

「えーっ、ホントに当たったの! うそーっ!」

「そうだよ、当たったんだよ。一等一億五千万円。これで夢がかなったぞ!」

 夫は私に抱きついてきた。私も夫を抱きしめ返す。夢じゃない、本当に当たったんだ。今までの苦労がすべて報われた。そんな気がした。そう思うと涙があふれて止まらない。その日の夜は夫とささやかな祝杯をあげた。夫も大盤振る舞いで、ちびちびと飲んでいたブランデーを一気に空けてしまった。私も珍しく夫と飲み明かした。その次の日から、私たちの生活は一変してしまった。

「じゃ、これもらうわね」

 今まで欲しかった服、バッグ、装飾品。いつもはいいなぁと眺めていただけ。けれど今日は違う。欲しいまま、手当たり次第に買ってしまった。まだ当選金は手にしていない。けれど、もう手に入れたも同然だから。今まで貯めていた貯金を全部下ろして、思い切って買い物に出た。

 夫も今日は会社を休んだ。あと三年弱勤めれば定年退職。けれどもうその考えはないみたい。これだけのお金があれば、今から退職しても生活には困らない。ということで、早速今からの人生プランを練り直すんだと言っていた。私もいまさらパートに出る必要はない。働かなくても食べていけるだけのお金はあるんだから。

 さぁて、お昼はちょっとリッチなランチでも食べようかしら。そう思って飛び込んだのは、私たちの間ではあこがれの的だった高級フランス料理店。ランチで五千円なんて今までだったら考えられなかった。けれど今日は違う。私は昨日までの私とは違うんだから。これがお金持ちの生活なのね。気分はもうセレブ。こうして両手いっぱいに買い物した袋を下げて家路についた。

「ただいまー」

「おかえり。おい、やたらと買い物をしてきたな」

「いいじゃない、このくらい」

「そんなにいきなり無駄遣いするなよ。それよりも、これからのことを考えてみたんだけど」

 夫はそう言って一枚の紙を差し出した。そこには大きくこんなタイトルが。

『これからの人生計画』

「なによ、これ?」

 私はその計画とやらに目を通した。そこにはこれから三十年ほどの人生計画が書かれていた。この計画だと、私も夫も八十歳後半で死ぬことになっている。百歩譲ってそれはよしとしよう。で、今後三十年でどれだけのお金が必要で、毎年どの程度まで使うことができるのか。そのことがこと細かく書かれていた。

「一億五千万円を単純に三十年で使うとして、一年あたり五百万円。これは今の年収よりも少ない計算になる。これに年金を足したとしても、思ったよりも贅沢はできない計算になるぞ。そのためにも、この資金を増やす必要がある。そこでだ…」

 夫は別の紙を取り出した。

「これに投資してみようと思うんだが」

 それは投資信託のパンフレット。というか、インターネットから引っ張ってきたものをプリントアウトしたもののようだ。それが数種類もある。

「とりあえずリスクを分散させるために、何社かに投資をする。その利子でも十分暮らせる。どうだ、いい考えだろう?」

 私は夫のそういうところにうんざりしている。どうしてこの人は冒険とかできないのかしら。それに今の生活をそのまま送るつもりはさらさらない。どうせなら家も建て替えて、いい車に乗って、いい食事をして。お金持ちらしい生活を味わってみたいものだわ。そのことを夫に伝えると、急に怒り出した。

「だからお前はダメなんだよ! もっと現実を見ないと。これからの老後に大切なのは、安心して暮らしていけるだけの資金なんだから。お前がどう言おうと、私はこの案でいくからな」

「ちょっと待ってよ。そもそもこの宝くじは私が出した懸賞で当たったんでしょう。どうしてあなたが勝手に使うのよ」

「何を言っているんだ。これは我が家のものだ。お前一人のものじゃない!」

 こうして夫との戦争が勃発。この日は口も聞かず、夕食だって作らなかった。翌朝、夫は黙って朝食。そしていつもの時間に会社に出かけていった。私はパートを辞めるつもりだから、今日はそのことを告げに行こうと考えていた。それにしても夫のあの態度には頭にくるわ。私が当てたんだから、私の好きに使わせて欲しいものよね。あの人にはびた一文だってあげるつもりはないわ。所詮夫婦ってこんなものよね。


「で、結局どうしたのよ?」

 宝くじ当選のもめ事から二週間ほど経った。この日、私は唯一の親友と呼べる貴里子をお茶に誘った。もちろん私のおごりで。唯一の親友、と言っても頻繁に会っているわけではない。貴里子に会うのはたぶん三ヶ月ぶりくらいだ。そこで宝くじのことを愚痴った。

「最初はびた一文夫になんかやるもんか、って思ったけど。そこは百歩譲ったわ。折半ということで落ち着いたの。でも私が出した懸賞で当たったんだから、その分は優遇して欲しいって頼んだのよ。それで結局、私が八千万、夫が七千万。あとは自由に使うって事になったわ」

「まぁそれはいいけど。旦那さんとは仲直りしたの?」

「まさか。夫は最初は会社をすぐに辞めるつもりだったみたいだけど、今後の人生のあり方を考えたら定年まで勤めた方がいいって結論に達したの。そういう堅実すぎるところがイヤなのよねぇ。そんなに好きな仕事でもないくせに」

「春江さんは仕事はどうしたのよ?」

「そんなの、さっさと辞めちゃったわよ。今さら仕事を続けてる意味ないし」

 私の言葉に貴里子はあきれ顔。いいじゃない、私の人生なんだから。

「じゃぁ春江さんはお金は好きに使いまくっているの?」

「まさか、私だってバカじゃないわよ」

 と言いつつ、この二週間に使ったお金をざっと頭の中で計算してみた。おおよそ二百万円。ほとんどが衝動買い。けれど、これは今までがんばった自分へのご褒美よね。そう言い聞かせていた。そろそろやばいかなーとは思っているけど。でも、ふところに余裕があるとつい買っちゃうのよね。

「ふぅ、まぁいいけど。でもさ、一言いいかな?」

「ん、なに?」

「春江さん、なんだか前よりもつきあいにくくなったって感じがするの。どことなく私たちとは違う世界の人みたいで。服装とかもそうだけど、なんか…言いにくいけど…」

「何よ? いいわよ、言ってちょうだい」

「そう、それなのよ。なんだか上から目線で見られているような気がして」

「そんなことないわよ。私は今までと変わらないわよ」

「う~ん…」

 貴里子はうなったまま黙り込んでしまった。

「じゃぁ、今度ランチしない? この前おいしいお店を見つけたのよ。イタリアンなんだけど。もちろん私のおごりで」

 景気づけに私はそんな提案をした。

「春江さん、やっぱり変わっちゃったわ。ランチは遠慮しとく」

「えーっ、もう貴里子しか誘えるような人いないのにー」

「やっぱり気づいていないのね」

 貴里子の言いたいことがよくわからない。私が何に気づいていないというのかしら。貴里子の言葉はまだ続いた。

「春江さん、もう一つ忠告しておくわね。知り合いをランチとかお茶とかにホイホイ気軽に誘わない方がいいわよ。春江さんが誘うところって、私たちが行くレベルのところじゃないし。今も正直あまり落ち着かないのよね」

「落ち着かないって…じゃぁどういうところだったらいいの?」

「そうねぇ…春江さん、今からまだ時間はあるの?」

「えぇ、今は仕事してないし。夫は帰ってくるのは遅いから」

「よし、じゃぁ今度は私が連れて行ってあげる。行こうっ」

 貴里子はそう言うとすぐに立ち上がった。私は貴里子の後をあわてて追いかけていった。

「どこに行くのよ?」

「まぁついてきなさいって」

 貴里子はどんどん進んでいく。気がつくとある細い路地へと入っていった。そこはパステル色のタイルで舗装された通り。両側にはブロックの花壇が並んでいる。道幅は車一台がやっと通くらい。両側には雑貨屋やブティックなどが並んでいる。

「こんな通り、あったんだ」

 ずっとこの街に住んでいたのに、こんな通りがあるなんて知らなかった。いつもは表通りの店しか行かないからなぁ。

「ここよ、この二階」

 貴里子が指さしたところには確かに喫茶店があった。

「カフェ…シェリー?」

「うん。春江さん、ここのマスターと一度話をしてみて。そしてここのブレンドコーヒー、シェリー・ブレンドを飲んでみてよ。そうしたら何かに気づくかも」

「何かにって、何よ、それ?」

「ま、行ってみればわかるわよ」

 コーヒーを飲めって、そりゃ喫茶店なんだからコーヒーくらい飲むわよ。そう思いながら階段を一歩ずつ上がっていく。でもこの階段、もうちょっと緩やかにならないかしら。この歳になると階段がしんどいのよね。

カラン、コロン、カラン

 貴里子が扉を開けると、軽快なカウベルの音。同時に「いらっしゃいませ」の女性の声。ふぅん、なんだかこぢんまりとした店ね。でもなんかいいかも。洒落た装飾品とかはない。白とブラウンの色彩で、落ち着いた雰囲気はあるわね。そしてクッキーの甘いにおいがいいわ。

「マイさん、マスター、こんにちは」

「あ、貴里子さん。この前はおみやげありがとうございました」

 マイさんと呼ばれたかわいい女性が貴里子にそうお礼をした。

「おみやげって?」

「先月温泉に行ったのよ。そのときのおみやげをあげたの」

 へぇ、そんな仲なんだ。

「カウンターでいい?」

 貴里子は私をカウンター席へと誘導した。お店はホントに小さい。窓際に半円型のテーブルと四つの席。中央に丸テーブルと三つの席。カウンターには四つの席しかない。十人も入ればいっぱいじゃない。

「ね、貴里子、このお店とどういう関係?」

「どういう関係って、ただのお客でしかないわよ。ここのマイさん、かわいいでしょ。私ファンなのよ」

 貴里子の言うとおり、とてもかわいらしい娘さんだ。ウチの長男のお嫁さんにしたいくらい。

「貴里子さん、こんにちは」

 カウンターから低くて渋い声が聞こえた。声の主は中年の男性。

「マスター、今日は友達の春江さんを連れてきたの。ちょっと話を聞いてくれるかな?」

「えぇ、いいですよ」

 この人がマスターなんだ。でも私と話をさせるって、どういうこと?

「春江さん、ですか。初めまして。この店のマスターをやらせてもらっています。よかったらウチのオリジナルブレンドをお飲みになりませんか?」

「もちろん、シェリー・ブレンドを飲ませに来たんだから」

 貴里子は勝手に私の注文をとってるし。でも、なんだか貴里子が活き活きしているのがわかる。

「貴里子、なんか私抜きで勝手に話が進んでるけど…」

「いいのいいの、まかせといて。でね、マスター…」

 貴里子はマスターを近くに寄せた。そしてそっと小声で耳打ち。

「実は春江さん、宝くじので大金持ちになっちゃったのよ。でもね…」

 そこから先はさらに小声になって私には聞こえなかった。

「なるほど、わかりました」

 マスターはなにやら納得。貴里子、一体何を話したのよ? すると今度はマスターがさっきのかわいいウェイトレスのマイさんを呼んだ。

「マイ、こちらのお客さんにあのクッキーを出してくれないか」

「あのクッキーって?」

 私は貴里子に小声でそう尋ねた。しかし貴里子の返事は期待はずれ。

「さぁ、私もそれは知らないわ」

 今から何が始まるっていうの? それからほどなくして、マスター特製のオリジナルコーヒー、シェリー・ブレンドが運ばれてきた。

「これこれ、これを飲めば春江さんもきっと何かに気づくわよ」

 貴里子はニコニコしながら私にそうささやく。

「あ、ちょっと待ってください」

 マスターがマイさんに合図。するとクッキーが運ばれてきた。ちょっとブラウンがかったクッキーだ。

「こちらの特製クッキーとあわせてお召し上がりください」

「あれっ、いつものクッキーと違うのね」

 貴里子も初めて見るよう。

「じゃぁいただくわね」

 貴里子はクッキーをパクリと一かじり。つづいてコーヒーを口に含む。そのあと、何かを感じるようにじっと目をつぶった。その貴里子の表情、なんだか気持ち悪いくらいニヤリとしている。

「マスター、マイさん、これすごいわ! 今までよりも鮮明に見える!」

 パッと目を開けたかと思うと、突然そう叫んだ貴里子。鮮明に見えるって、一体どういうこと? この店に来て謎だらけだわ。

「見えたって、何が見えたのよ?」

「まぁまぁ、春江さんもクッキー食べてコーヒーを飲んでみなさいよ」

 なんなんだろう。とりあえず言われた通りクッキーを口にする。んっ、おいしいっ。甘いだけじゃなく、どことなく風味とコクがある。大人の味って感じ。続いてコーヒーを口に含ませる。口の中でじわっとクッキーが溶けていく。コーヒーの苦みとクッキーの甘みがちょうどいい感じで混ざり合う。そのとき、私の目の前にある映像が浮かんできた。あ、新婚の頃の私たちだ。

 まだ子どもがいない頃の、アツアツだった時。夫の給料も少なく、一生懸命節約して生活していた。けれど家の中は笑いと愛情に包まれている。一緒にいろんなことを語り合った。その映像が目に浮かんできた。

「ねっ、何が見えた?」

 貴里子のその声でハッと現実に戻った。

「ど、どうしてそんなことがわかるの?」

 私が今、昔のことを思い出していたこと。いや、あれは昔の事じゃない。情景は新婚当時だけれど、あんなことをやっていた記憶がない。なんだか頭の中がグチャグチャになってきたわ。

「不思議そうな顔してるわね。マスター、春江さんに説明してあげてよ」

「はい。実は先ほど飲んでいただいたシェリー・ブレンド、これには魔法がかかっているんです」

 魔法? 私はさっきよりもさらに不思議な顔つきになったのが自分でもわかった。

「このシェリー・ブレンドね、その人が望んでいるものの味がするの。でね、人によってはそれが映像として浮かんでくるんだって」

「はい、貴里子さんが言った通りです。さらに今回は特製クッキーを一緒に召し上がっていただきました。これにはマイの魔法をブレンドしたんです。それによって、ほとんどの方が自分の望んでいる姿を映像として映し出すことができるようになりましたよ」

 にわかには信じられない。でもそれが本当なら、私はさっき見た新婚当時のアツアツの状態を望んでいるってことになる。うそっ、今は夫のことなんて考えたくもないのに。

「まさか、あれがねぇ…」

 私はついそんな言葉を口にしてしまった。

「あれがって、春江さんはどんな光景が浮かんだの?」

 貴里子に問われたけれど、あまり口にしたくない。口にしたくないはずなんだけど、なぜだか口の方が勝手に動き始めた。

「新婚の頃の光景なのよ。私が毎朝仕事に行く夫を見送ったり、晩ご飯の支度をしていたら夫が帰ってきたり。そして二人でいろいろと将来のことを語り合ってるの。お金もなくて節約生活していたけれど。でも笑いと愛情には包まれていたな」

 言った自分が恥ずかしくなってきた。けれどマスターと貴里子の表情は違っていた。真剣に私の話を聞いてくれている。

「それって、昔はそうだったってこと?」

「ううん、実はそうじゃないの。まぁ夫の給料ってそんなには高くなかったけど。映像で見たほどお金には困っていなかったし。それに夫の帰りはいつも遅かったから、ご飯の支度をしているときに帰ってくるなんてことはなかったわ」

「なるほど、それは春江さんの願望ですね。大事なのは、お金とかじゃなく笑いと愛情に包まれた家庭。ここじゃないかと私は思うんですよ」

 マスターの言葉、私はすぐには受け入れられなかった。だからついこう反発。

「そんな、笑いと愛情に包まれた家庭なんて。今さら夫とそんな暮らしをしたいとは思っていませんよ。ホント、あの人ったらわからずやなんだから」

「あら、どうしてそう思うんですか?」

 マイさんが優しい口調で横から会話に加わった。

「どうしてって…私と価値観が違うんですよ、あの人は。私は今までずっとガマンしてきたんだから。だから宝くじに当たったら、自分のやりたことをやる。それが夢だったの。その夢がせっかく叶うというのに。どうしてそんな遠い将来のことまで考えなきゃいけないのよ」

「旦那さんはどんな使い方をしようと思っていたんですか?」

「夫はね、今後三十年の人生計画なんてのを考えているの。どうやったら手元にある資産を運用していけるか、だって。なんかつまんないのよね、そんなお金の使い方。あなたも女性だったらわかるでしょ。人生、一回くらい派手にパーッといきたいと思うでしょ」

 私は自分の考えに同意を求めた。そうよ、私の考え方は間違っていないはずだわ。

「そっか、せっかく叶った夢ですものね。自分の自由にしたいって思うのは無理ないですね」

 さすが、女の子はわかってくれるわね。貴里子の頭が固いのよ。私は心の中でにんまり。

「一つ質問してもいいですか? そうやって得るものってなんでしょうね?」

 マイさんのその質問で、私のにんまりは長くは続かなかった。得るもの? それは買ったものに決まっている。でも私の頭の中には、同時に失うものが横切ったからだ。私はすでに夫を失ったに等しい状況。あれっ、どうして夫を失っちゃったんだろう。

 それを皮切りに、パートの仲間、宝くじ売り場の売り子などいろんな人の顔が私の頭をさらに横切った。宝くじに当たってからまだ二週間ほどしか経っていないのに、私の周りからどんどん人が遠ざかっているじゃない。でも、新しい友達はできていない。かろうじて貴里子が残っているだけ。

「春江さん、どうしたの?」

 私が突然黙り込んでしまったので、貴里子が心配そうに私の顔をのぞき込んだ。

「う、うん、ちょっとね」

「春江さん、もう一度シェリー・ブレンドを飲んでみませんか?」

 マスターのがそんな提案をしてきた。どうしてだろう? そんな事を思いつつも、手は自然とコーヒーへ伸びていた。今度はコーヒーを先に口に含む。そのあとすぐにクッキーを一かじり。すると、今度はさっきとは違う味がした。苦い、とにかく苦い。さっきは甘かったはずなのに。

「いかがでしたか?」

「う、うぅん…」

 苦かった、なんて言えない。それにさっきとは違って、映像は見えてこなかった。

「あまりいい味はしなかったようですね」

「でも、でも私、そんなの望んでいませんっ」

 マスターの言葉に思わずそう叫んでしまった。

「そうなんです。春江さんは望んでいないんです。なのにそうなろうとしている。シェリー・ブレンドはそれを教えてくれているんです」

「でも、さっきマスターはこのコーヒーは自分が望んだものの味がするって言っていましたよね。私はこんな苦い味は望んでいません」

 私の反論にマスターはにっこり笑ってこう答えてくれた。

「このシェリー・ブレンドはウソはついていませんよ。春江さんが今思っていること、これを続けていくとどうなるのか。それを味として見せてくれたのです。苦かったということは、春江さんがやろうとしていることを続けていくと、苦い結果が待っているということになりますね」

 そんな、苦い結果って…。

「でも、でも…」

 マスターに反論しようと思っても、これ以上言葉がでない。

「春江さん、いろいろと考え直した方がいいわよ」

「貴里子、ほっといてよっ。私は私のやりたいことをやるの。もう帰るわっ」

 私はテーブルにお札を一枚置いて店を出て行った。出たところでふぅっとため息。どうしてこんなことになっちゃったんだろう。なんだか苦い。さっき飲んだコーヒーと同じ味がする。帰り道、歩きながらいろんなことが頭をよぎった。私、やっぱり間違っているのかしら。貴里子やマスターの言ったとおりなのかしら。次々と悪いことばかりが浮かんでくる。お金なんて持っていたって、こんな気持ちばかり味わっていたら苦しくて仕方ない。

 どこかで気晴らししようかな。お金ならあるんだし。街はもう夜のにぎわいを見せ始めた。どうせ夫は今日も遅いに決まってる。なのになぜか毎晩、ご飯は家で食べるのよね。宝くじに当たってもその習慣は変わらない。節約にはなるけど、もうそんなこと気にしなくていいんだから。世話をするこっちの身にもなって欲しいわ。今日は外で食べてきてってメールしよう。そしたらこのまま私も気晴らしに飲みに出かけられるから。そう思ってメールをしようとしたとき、逆にメールが届いた。

 誰よ、こんなときに。携帯を取り出して見ると、なんと夫からだ。

「今、こっちに来ているんだろう。よかったら一緒に食事でもして帰らないか」

 えっ、食事の誘い? どうして私が街に出ていることがわかったんだろう。まぁいい、せっかく夫から誘ってきたんだから断る理由もないし。OKの返事をメールで送信。すぐに待ち合わせの場所と時間が送られてきた。時間は午後七時、場所はデパートの前。

「時間つぶしにデパートにでも行くか」

 あと一時間以上あるのでぶらぶらすることにした。デパートに行くと、私は今まで立ち寄りもしなかったブランドもののコーナーに足を運んだ。ほんの数週間前までは、このコーナーは別世界の人が行くものだと思っていた。私が行くのはバーゲン品の名も知れぬメーカーのところばかりだっだ。それが今は一流品を身にまとえるようになったんだから。で、何も買わないつもりだったけれどさっきの喫茶店でのやりとりのモヤモヤが頭に残って、六万円のバッグを衝動買いしてしまった。

 そうこうしているうちに約束の時間。まだいまいち気乗りがしないけれど、夫のところへ行くことに。

「おっ、来たか」

「で、どこに連れて行ってくれるの?」

「おまえが行ったことないところだよ」

 そう言うと夫は黙ってどんどん進んでいく。行き先はよほどの高級料理店か、それとも料亭か。そんなことを期待しながら夫の後を追いかける。

「ついたぞ」

 えっ、うそっ。私は目が丸くなった。夫が連れてきたのは小さな居酒屋。とてもきれいとはいえない。どう見ても安月給のサラリーマンが訪れるところだ。

「らっしゃい、あっ、毎度どうも」

「こんばんは、今日はウチのやつを連れてきたよ」

 口ぶりからすると、夫はしょっちゅうこの店を利用しているようだ。

「なんでこんなところに…」

 私は不満をついもらしてしまった。

「まぁいいから、そこに座れ」

 店はカウンターしかない。さっき行ったカフェ・シェリーよりも狭い。

「ビール、飲むか?」

「えっ、うん」

「じゃ、オヤジさん、ビールと、あとお任せするから適当に。特に好き嫌いはないから」

「へいっ!」

 お店のオヤジさんはニコニコしながらそう答えた。年は夫とそんなに変わらないように見える。

「あらあら、いらっしゃい。今日は奥さんを連れてこられたのね。はい、お通し」

 奥から現れたのは、ここのおかみさんらしき人。かっぽう着を着て、いかにもってスタイルだ。

「旦那さんにはいつもごひいきにしてもらって。ホント、感謝しているんですよ」

 おかみさんはにこやかにそう言って、再び奥へ。

「ねぇ、どうしてこんなお店に私を連れてきたのよ?」

 夫に小声で質問。けれど夫は何も言わない。私はもう一つ質問。

「どうして私が街に出ているってわかったの?」

「ほら、ビールが来たぞ。乾杯するか」

 夫は何かをはぐらかすように私にビールを注いだ。

「乾杯っ」

 夫はグラスに注がれたビールを一気に飲み干す。仕方がないので私もビールに口をつける。けれど今ひとつ釈然としない。

「オヤジさん、あの話をウチのにしてもいいかな?」

「へぇっ、まぁお恥ずかしい話ですけど。かまいませんよ」

「あの話って?」

 どうやらこれからが本題のようだ。夫はどんな話をしてくれるんだろう?

「こちらのオヤジさん、六年前まではサラリーマンだったんだよ。ところが六年前にあることがあってね」

「あることって?」

「あはは、宝くじに当たったんですよ。はい、お刺身です」

 おかみさんが頬笑みながらお刺身を持ってきてくれた。

「宝くじって、いくら当たったんですか?」

「一千万円でした。まぁ一億円とか三億円よりは少ないですけどね。でも、私らにとってはとんでもない大金でしたよ。おかげでちょいと人生が狂いました」

「狂ったって…どうして?」

「貧乏人がいきなり大金を持つと、ろくでもない使い方をするんですね」

オヤジさんの言葉に私はドキリとした。

「実はな、おまえが宝くじに執着しだしてからこのオヤジさんのことがずっと頭にあったんだ。そして今回のことだろう。だからぜひこのオヤジさんの話を聞いて欲しくてな」

 夫はそう言うとビールを一気に飲み干した。オヤジさんの話は続く。

「たかが一千万円で、一生安泰になった気持ちになってですね。会社を辞めて前からやりたかった店を持つことにしたんですよ」

「それがこのお店?」

 にしてはちょっとみすぼらしい。どう見てもそんなに新しいお店には見えない。

「いえ、もっといい店だったんですけど。料理は趣味でずっとやってたし、調理師の免許もとってこれでいけると思ったんです。でも、商売なんてやったことのない人間でしたから。勢いのいいのは最初だけ。結局借金を作ってマイナス生活に陥りました。気持ちだけが大きくなっていたんですね。足元を見ずに、ガンガンやった結果がこれですから。お恥ずかしい話です」

 だから夫は堅実に行こうと言ったのか。

「あらぁ、でも悪いことばかりじゃなかったですよ。おかげでこの人、謙虚ってのがわかって。そしたら周りの方が助けてくれて。もう一度小さい店からやり直すって言ったら、居抜きでこのお店を紹介してもらえたんです」

「まぁ、いろんな勉強をさせられましたよ。お金って怖いですね。本当に大切なことを忘れてしまう、変な魔力がありますよ」

 私は夫の顔を見た。夫は何食わぬ顔で刺身を口に放り込んでいる。夫が私に伝えたいことはわかった。

「あなた…」

「ん、なんだ?」

「私、間違ってたわ」

「いや、お前は間違っていないよ。お前にはお前の考えがあるんだろうから。ただ、お前がそれで後悔しなければの話だけどな」

 それからはおやじさんの料理に舌鼓を打って楽しんだ。このお店の一番のおすすめ、肉じゃがのコロッケはおかみさんの手作り。その作り方を習って、私達は満足して家路についた。帰り道、あの疑問が頭にわいてきたので夫に質問。

「ねぇ、どうして私が街にいるって知っていたの?」

「あ、あれか…実はな、貴里子さんから連絡があったんだ」

「貴里子が?」

「あぁ、お前のこと心配していたぞ。それとカフェ・シェリーのマスターもな」

「えっ、カフェ・シェリーを知っているの?」

「あぁ、たまに行くことがある。あそこのマスターにはいつも勇気をもらっている。おかげで今の自分があるんだよ」

 知らなかった。まさか夫まであの喫茶店に縁があっただなんて。

 今日のことをちょっと反省。家に帰って、布団に入って今日の出来事を思い出してみた。お金があれば何でも手に入ったような気になる。けれど、お金があることで失うものも多いんだな。私がすでに失ったものもある。失いかけたものもある。今まで気づかなかったけれど、夫の愛情。これを今日感じることができた。このままいけば、宝くじに当たったことで夫との縁も切れるところだったに違いない。といっても、夫が言うようにあまりにも堅実的なお金の使い方もつまらないな。これからどうしようかな…。そんなことを考えていたら、いつの間にか眠りについてしまった。

 翌日、何事もなかったかのように夫は普通通りに会社へ出かけていった。さて、今日は何をしよう。ここでふとカフェ・シェリーが頭に浮かんだ。昨日のこともあるし、ちょっと行きづらいけど…でも思い切って行ってみよう。そして、昨日のことを謝らなきゃ。

 家の片づけを手早くすませ、私は早速カフェ・シェリーへと出かけた。そして今、カフェ・シェリーの前にいる。階段を上がろうと思ったのだが、なぜか足が止まってしまった。

 やっぱり帰ろうかな。昨日の今日じゃ、なんだか顔を出しづらいし。迷っていたら、突然後ろから肩をたたかれた。

「春江、何やってんだ?」

 そこにいたのは夫。

「あ、あなたこそどうして?」

「昨日、カフェ・シェリーの話をしたろう。だからここに来たくなってな」

「で、でも、お仕事は?」

「まぁ窓際のオレの仕事なんて、やってもやらなくてもいいようなものだからな。それよりも、今は自分がやりたいことを探す方が大事だ。なにしろお金はあるんだからな」

 夫はそう言うとにっこりと私にほほえんだ。なんだ、夫も私と同じじゃない。堅実に行こうって言うから、もっとつまらない人生を送ろうとしていたとばかり思っていたのに。

「だからシェリー・ブレンドに自分の思いを見せてもらおうと思ってね。さ、行くぞ」

 先に階段を上がっていく夫の後に続いて、私も階段を上っていく。さっきまで重かった足取りが急に軽くなった。うん、なんだかんだ言ってもこの人でよかった。

「こんにちはー」

「いらっしゃい。あれっ、昨日の…春江さん」

「あぁ、ウチのやつがなんかご迷惑をかけたみたいで」

 夫とマスターのやりとりを見ていると、夫はホントここの常連さんなんだなってのがわかった。二人とも笑いながら話をしている。

「昨日は大変申し訳ありませんでした」

 私の口から自然とその言葉が出てくる。

「いえ、何も気にすることはないですよ。でも、まさかこちらがご主人さんだったとは。いやぁ、びっくりですよ。何か不思議な縁があるものですね」

 マスターはにこやかにそう言ってくれた。その笑顔を見て私はホッと安心。

「マスター、シェリー・ブレンドを二つ頼むよ。今日は前々から話をしていた自分のやりたいことを見つける、これを決定しようと思ってね」

「かしこまりました」

 そう言ってマスターはコーヒーの準備に取りかかる。私たちは窓際の席に座る。ここはなんだかいい香りがする。なんだか落ち着くな。そして運ばれてきたシェリー・ブレンド。

「じゃ、我が家の未来のために。乾杯」

「うふふ、コーヒーで乾杯なんてなんだか変だけど。いただきます」

 コーヒーを口に含み目をつぶると、昨日貴里子と来たときに初めて見たあの光景がよみがえってきた。でも一つだけ違うところがある。昨日見たのは新婚の私たち。でも今度は、今の私たちがそこにいる。うん、これが欲しかったんだ。目を開けると夫もコーヒーの味をしっかりと確かめているようだ。

「ね、どんな味がしたの?」

 夫に尋ねてみる。

「うん、そうだな…」

 そこから、私たち二人の新しい物語がスタートした。


<一攫千金の夢 完>

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