第34話 めざしのトップランカー ④
今回はこの小説で初めて三人称で書きました。
何かおかしいとか、変だなと思われたら感想等頂けると助かります。
歩夢の書籍化されたWeb小説が、店頭に並んで売られている様子を見に行こうとの桐嶋の提案で、一行は秋葉原でも大型のオタク御用達の店舗にやってきた。
「えーと……ラノベは何階かな……?」
冬人は店舗の入り口に貼ってあるインフォメーションを眺めながら呟いた。
コミックうまのあなは大型の店舗で、ビルが丸一棟コミックや同人誌、CDやDVDなどの販売フロアになっている。
「二階と三階みたいだね」
冬人と一緒にインフォメーションを眺めていた桐嶋が、七階まであるフロアマップからラノベ売り場を見つけたようだ。
「ねえ? この下は何の売り場なの?」
秋月が店に入ってすぐ、目の前にある地下階に向かう階段を指差し冬人に尋ねてきた。
「うん……? この下の階は俺たち高校生は立ち入り禁止のフロアだ。階段の横に貼ってあるポスターとか見れば分かるよ」
冬人は地下階に向かう階段の横に貼ってある、肌色が多めのイラストが描かれたポスターを指差しながら答えた。
「わ、分かったわ……な、なるほど……エ、エッチな本が置いてあるのね……」
描かれた人物の九割が肌色のポスターを一瞥した秋月が、恥ずかしそうにポスターから目を背けるが、チラチラとポスターを見ながら階段下を覗き込んでいる。
「秋月さん、興味があるようだけど残念ながら僕たちは入れないですよ」
桐嶋は「18歳未満立ち入り禁止」のポップを指差しながら、地下の売り場に興味がありそうな様子の秋月に声を掛けた。
「べ、別に興味なんて無いわよ。ちょっと何があるか気になっただけよ」
「そういうのを興味があるって言うんですよ」
桐嶋が笑顔で秋月にツッコミを入れている。彼女は図星だったようで顔を赤くして黙ってしまった。
「友火さんはエッチなコミックとかに興味があるんですか?」
今度は歩夢に同じような質問をされている秋月。
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ。ぼくも興味ありますから」
「ち、ちょっと見てみたい……かな……? ほ、ほら、私可愛い女の子のイラストとか好きだし……ね」
秋月は歩夢が男性だという事を忘れ、女子トークのように本音で語っているようだ。
「でも……残念ながら見に行く事はできないけど、冬人の描いたイラストも負けず劣らず可愛いイラストばかりだからそれで十分ですよね」
「そ、そうね……アイツのイラストも凄い可愛いし、少しエッチなイラストも多いし……うん十分よね」
美少女二人? に褒められている事も知らず、店内の奥にさっさと行ってしまった冬人だった。
一行は店内の奥にある階段を上り、目的のラノベ売り場のフロアに到着した。
「わあ! 凄い! このフロア全部がラノベなの?」
圧倒的な品揃えに秋月は驚きを隠せないようだ。
「新刊コーナーはどこかな……あ、あっちか! 冬人こっちだよ」
歩夢が新刊コーナーを見つけ冬人の腕を引っ張り二人で先に行ってしまう。
「わあ! あった! ぼくの小説が平積みになってる!」
「歩夢、あまり大きな声だと原作者だってバレちゃうから、気を付けた方がいいぞ」
「あ、そうだね。さすがに顔バレはしたくないから気を付けるよ」
うっかり大きな声を出してしまった歩夢だったが、新刊コーナーには冬人と二人しかいなかったので身バレせずに済んだようだ。
「このイラストレーターは知ってるけど、やっぱり上手いなあ。キャラクターが凄くいい。表紙の構図も最高だし、ラノベとして表紙買いしたくなるような魅力的な本になってるよ」
冬人が本のページをペラペラと捲りながら関心している。
「うん、やっぱり自分の書いたキャラクターがイラストになるのは感無量だね。でも冬人が描いてくれたキャラクターも負けず劣らず魅力的だよ。本当にありがとう!」
「い、いや元の小説のキャラクターが良かったからだよ」
まるで美少女のような歩夢に満面の笑顔でお礼を言われ、冬人は照れている。
冬人はずっと歩夢に腕を組まれている事に気付いているのか、いないのか、特に気にはしていない様子だ。
「ねえ、あの二人腕まで組んで楽しそうなんですけど」
そんな楽しそうな二人の様子を遠目に眺めていた秋月が、不機嫌さを隠さず誰にでもなくボソッと呟いた。
「本当ですねえ……凄く楽しそうだ。秋月さん、もしかしてヤキモチ焼いてます?」
秋月のふと漏らした呟きに桐嶋が反応し、彼女に問い掛ける。
「そ、そんな訳ないじゃない! 歩夢くんは男だし、私とアイツは別にそんなんじゃないし……」
秋月は否定しているが、その言葉に力は無く段々と声が小さくなっていく。
「さっきも話したけど歩夢は男子に告白された事もあるし、万が一にも神代くん取られないように、秋月さんがシッカリ繋ぎ止めておかないとね」
桐嶋は笑顔でその言葉を秋月に投げ掛けた。しかし彼女は黙ったままで返事は無かった。
「秋月さん、僕たちも歩夢の本を見にいきましょう」
そう言って桐嶋は二人のいる新刊コーナーへ向かう。
「はあ……私、ヤキモチ焼いてるのかな……」
溜息と共に呟いた一言は誰にも聞かれる事は無かった。
新刊コーナーへ先に行ってしまった桐嶋に続き、秋月も三人の元へ早足で駆け寄る。
――そんな訳ないじゃない! 相手は男よ男。負ける訳ないじゃない。
「ちょっと、そこの二人! 男同士でなに腕組んでんのよ⁉︎ 離れなさい!」
秋月は新刊コーナーの二人に駆け寄り強引に二人を引き離す。
「ええ⁉︎ 俺たち腕組んでたよね……? 男同士で⁉︎ 全然意識してなかった……マジか……」
無意識に腕を組んでいても違和感を感じ無かった事に、冬人はショックを受けているようだった。
「ゴメンなさい……ぼくも全然気にならなくてつい……」
「い、いや……歩夢が謝る事はないから……」
「「…………」」
二人は気まずくなり沈黙してしまう。
「歩夢の本、凄く良いデキじゃないか」
そこに空気を読んだであろう桐嶋が、新刊コーナーに平積みにされた歩夢の本を一冊手に取り、話題を変えてくる。
「ほ、ほんとね、表紙のイラストのヒロインと主人公かな? 二人とも可愛いしカッコ良いわね」
秋月も気まずい雰囲気にしてしまった事を気にして、話題を変えようとしているのか、必死に本を褒めているようだ。
「それじゃあ、僕は一冊買っていこうかな」
桐嶋は本の購入宣言をした。
「めざしのweb版は読んだけど、挿絵も見たいし私も買って家でゆっくり読むわ」
桐嶋が歩夢の本を買うと言い出したのに続き、秋月も買って帰ると言い出す。
「もちろん俺も買うよ」
「え⁉︎ 冬人まで! 献本もあるし友達の三人にはプレゼントするから、買わなくても大丈夫だよ」
「僕はアユメンデスのファンだから買うんだよ。本を買って応援するのはファンとして当たり前の事だからね」
「そうよ、歩夢くんは気にしなくていいんだから。それにしても……桐嶋くんは変態だけど良い事言うわね」
「はは、秋月さん変態はヒドいな。傷付いちゃうよ」
桐嶋は変態と言われても笑って流している。
「あ、そうだ! 本にアユメンデスのサイン書いて貰おうかな。歩夢書いてくれる?」
冬人がサインを書いて貰おうと提案してくる。
「あ、それ良いアイデアね。歩夢くん頼める?」
「ええ! サインなんて書いた事ないよ? 練習もしてないし……」
「じゃあ、後でペンを買ってからカラオケボックスにでも入ろうか? そこでゆっくりしながらサインを考えるのがいいと思うよ? 神代くんがイラストにサイン書いてるから、デザインのアドバイスして貰えるんじゃないかな?」
桐嶋がカフェじゃゆっくり出来ないだろうと、カラオケボックスを提案してきた。
「冬人が良いならお願いしたいな……」
歩夢が上目遣いで冬人に懇願している。
「あ、ああ……そ、そういう事ならもちろん手伝うよ」
「ち、ちょっと! また二人で怪しい雰囲気になってるわよ」
二人の雰囲気を察した秋月が横槍を入れてくる。
「アンタもいちいちデレデレしてるんじゃないわよ。歩夢くんは男なんだからね! まったくもう……」
油断も隙も無いわね……三人に聞こえないくらい小さいな声でボソッと呟く秋月。
「な、なあ歩夢、ペンネームのアユメンデスって何か特別な意味があるの? 名前をもじってるとか」
「えーと……アユは歩夢の”あゆ“、メンは英語で男の意味の”メン“、デスはそのままで、”歩夢は男です”という意味の名前をもじったペンネームです」
「そ、そうなんだ……めざしの作家さんって、名前をもじるが好きなのかな? 秋月も本名をもじって変なペンネーム使ってるよな」
「変なペンネームで悪かったわね……」
「い、いや悪い意味で言ってるんじゃなくて……その……個性的だなって」
不機嫌そうな秋月に対して、歯切れの悪い返事の冬人。
「作家さんは名前でも印象深くして、作品を読んでもらおうという努力の結果だよ。まさにユニーク(個性的)だね」
桐嶋はヘイトを受け流す事に長けていようで、少しでも雰囲気が怪しくなると全て丸く収めてくれる。
「店によって特典が違うから他の店舗も回ってみようか? 他の店の陳列状況も見てみたいしね」
こうして桐嶋が先導して秋葉原を巡り、カラオケボックスでサインを練習し、めざしのトップランカーとの顔合わせはサイン入りの本を収穫に無事終了した。




