第32話 めざしのトップランカー ②
前話のタイトルと一部の話を変更しています。
書籍化もしているトップランカーという設定に変更しています。
今日は桐嶋くんの知り合いの作家さんと顔合わせの為に秋葉原までやって来た。
休日の電気街口改札付近があまりにも混雑しているので、少し離れた場所で桐嶋くんたちを秋月と二人で待っている。
「久しぶりに来たけどやっぱり秋葉原は人が凄いな」
「私は初めて秋葉原に来たけど何というか……熱気が凄いわね」
秋月とは地元の駅で待ち合わせをして一緒に秋葉原までやって来た。
初めて秋葉原に来たという彼女は、オタクグッズを求めて来る人と観光客の人混みと熱気に目を丸くして驚いているようだ。
そんなキョロキョロとしている秋月だが、オタクが多い街とはいえ桐嶋くんのような生身の女性に興味が無いなんて男性は少ないだろうから、やはりその優れた容姿の彼女は注目を浴びる事になる。
そんなオタク達から羨ましそうに「リア充爆発しろ!」などと物騒な事をブツブツ言われたり、「うちの嫁(二次元)の方がカワイイな」など色々とカオスになっている。
秋葉原に来たって感じがして少し面白くなってきた。
「オタクな趣味持ちなのに秋月は秋葉原は初めてなんだな」
「私はオタクじゃ無いわよ! ただ好きなだけよ」
――いや、そういうのをオタクと呼ぶのでは……?
「はいはい、好きなだけなんだよな。可愛いイラストとか異世界が」
「そうそう、好きだけどそれだけに傾倒してる訳じゃ無いからオタクじゃないの」
秋月にしてみると、オタクと呼ばれるのは本意では無いようなので触れないでおこう。
秋月とオタクについての定義を議論してるうちに待ち合わせ時間に近くなり、そろそろ来るかな? と改札方向に目を向けると、人混みの中でも一際目立つ長身のイケメンがこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
人混みから抜け出して来た彼の横には、小柄でショートカットの女性が一緒にいるように見える。
「やあ、二人とも待たせたね」
「いや、まだ時間前だから大丈夫だけど。それより……そちらの女性はどちら様? 彼女じゃないよね? この前は知り合いの作家さんは男性だって言ってた気がするけど……聞き間違いだった?」
確か先日話した時に桐嶋くんは確かに”彼“と呼んでいた。
「いや、間違ってはいないよ。彼は男性だからね」
「「えっ⁉︎」」
「いやいや、どう見ても女性でしょ?」
「うん、私から見ても女性にしか見えないわ」
俺と秋月は女性には見えないとの意見で一致した。
「じゃあ、本人に聞いてみようか」
桐嶋くんがそう切り出す。
「はじめまして。日向歩夢です。ぼくは男ですよ」
低目の身長に華奢で薄い胸板、ショートカットにクリッとした目、肩が大きく開いたインナー、鎖骨付近にはキャミソールかなんかの肩紐が見える。その上にパーカーを羽織り、ショートパンツから伸びた太ももは白く眩しく……極め付けは黒のニーハイソックス。そしてキレイな鎖骨……タイプは違えど同じショートカットの春陽に匹敵する美少女? だった。
「ちょっと、アンタ目つきがイヤらしいわよ」
男のはずなのにあまりの美少女っぷりに俺は彼? をガン見してしまっていたようだ。
これは桐嶋くんのドッキリなんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。
「本当に男性なの?」
さすがの秋月も信じられないといった様子だ。
「ちゃんと、おち◯ちん付いてますよ? 見ますか?」
「おち⁉︎ い、いえ結構です……」
あやうい単語を釣られて復唱しかけた秋月は、おち◯ちんを想像してしまったのか顔を真っ赤に染め俯いてしまった。
それにしても……その可愛い顔で、おち◯ちんとか言われると背徳的な感じがする。
いきなり初対面の女性に向かって「おち◯ちん見ますか?」言ってしまう辺り、さすが変態桐嶋くんの知り合いだなと思った。作家は変な人が多いのだろうか?
ただ、そこまで言われてしまっては男と認めるしかないだろう。
そっち系のオタクだったら「男の娘キター!」ってなりそうだ。
「ちょっと驚いたけど男性だって事は分かったよ。秋月も信じられないといだろうが認めるしかないだろ? アレを確認する訳にもいかないしさ」
「もう……アレとか言わないでよ……こっちが恥ずかしくなってくるじゃない」
秋月って凄いウブなんだなと改めて思う。確かに男性と二人きりで出掛けたのも、俺と水族館に行ったのが初めてだって言ってたし。男性に対して免疫がなさ過ぎる気がする。
でも、イケメン桐嶋くんに対しては普通の対応してるんだよな。いや……彼に対しては塩対応かな。女性に興味が無いって言ってるから警戒してないんだろう。
「ようやく納得してもらえたようだね。彼の自己紹介は済んだから二人を紹介するよ。神代くんと秋月さんだ」
「神代冬人です」
「秋月友火です」
俺たちの挨拶に彼はペコリと頭を下げた。
「ここで立ち話もなんだから、そこのカフェでゆっくり話さないかい?」
桐嶋くんは近くにあるオープンカフェを指差す。
「そうだな、ここじゃ落ち着いて話せないし移動しようか」
桐嶋くんに秋月と二人のビジュアルは非常に人目を惹く。今現在もすれ違う人たちがチラチラと横目で気にしながら通り過ぎていく。
それに美少女にしか見えない彼が加わった事で注目度は更に上がり、地味で目立たない容姿の俺は三人の中で浮いて見える事だろう。
だけど最近は学校でもいつもこういう状況だから慣れてきたみたいで、それほど気にならなくなってきた。
慣れって恐ろしい……とはいえ注目されているのは落ち着かないので、カフェでは店内の席で話す事にした。




