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第28話 もう一人の学園一 ②

「で、秋月はどう思う?」


 待ち合わせのカフェで秋月と落ち合い、桐嶋くんに、()()()、と云う呼び方もあるね、と言われた事を話した。


「それは間違いなく私たちの活動を知ってるわね」


「だよな」


 と、すると何が目的なんだろうか……? 秋月の弱味を握って交際を迫るとか? いやいや、まさかな……あれだけのイケメンだったら正攻法で大体の女子は落とせるだろう。

 ……でも、無いとは言い切れない。


「もしかして、秋月の弱味を握って交際を迫るとか……」


 そんな事を考えていたら少し心配になってしまい、とりあえず話してみた。


「まさか、そんな事をする訳ないと思うけど……それだったらアンタに声掛ける必要も無いと思うけど」


 秋月の言う通り、彼女の弱味を握って交際を迫るとかなら俺は関係ないよな。


「心配してくれてるの? 私が桐嶋くんからアプローチとかしたら嫉妬しちゃうとか~?」


 秋月が面白がって揶揄からかってきた。


「べ、別に秋月が誰と付き合おうと俺には関係……ない……けどさ」


 図星を突かれ、俺は身体が熱くなり上手く反論できず、下を向いてしまう。


「へえ、いいんだ……桐嶋くんカッコ良いからアプローチされたら考えちゃうかな〜」


「い、いやダメだ! アイツはダメだ」


 秋月の冗談だと分かっていても何となく嫌だったので、思わず真面目に反応してしまった。


「じ、冗談よ。そんな必死にならなくても……それに桐嶋くんは好みじゃ無いわ」


「よかった……」


 冗談なのは分かっていた。でも、心臓に悪い冗談は止めて欲しい。でも、好みじゃ無いと言っていたのが少し嬉しくて、つい「よかった」と安堵の声を溢してしまった。


「心配してくれてありがとう。ダメって言われて、ちょっと嬉しかった……かな?」


 秋月が照れ臭そうにはにかんでいる姿はとても可愛かった。少しドキドキしてしまう自分が、秋月に対して少し情が移ってしまった事を実感してしまう。


 ――考え過ぎないようにしないとダメだな。


 自分にそう言い聞かせ、平常心を取り戻す努力をする。


「二人で考えたところで、どうにかなる訳でも無いし、桐嶋くんに直接聞くと俺達からバラしてしまう事になるし、結局のところ相手が動くまで待つしかないんじゃないかな?」


 深呼吸をして、脱線した話を元に戻す。


「まあ、それしか無いわよね。小説とイラストの話に直接触れてきたら考えましょうか」


「そうだな……悪い奴では無さそうだから、大丈夫だとは思うけど。というか……思いたい」


 結局、話し合いはしたものの、対応策は何もしないと言う結論になり、スッキリしないままお開きとなった。



~ その夜 ~



 帰宅後、夕食を終え自室に戻ってスマホを確認すると、Pixitに新着のダイレクトメッセージありの通知が届いていた。


『Ryoさんからメッセージが届いています』


 ――ッ! これって……


 送信者の“Ryo“という名前……疑いは確信に変わりつつあった。


 メッセージを確認した俺は、慌ててライムで秋月にメッセージを送信し、待つ事数分……彼女から送られてきたメッセージの内容は予想通りだった。


 やっぱり……


 あまり考えたくは無かったが早くも相手は動いてきた。


 明日の登校に不安を抱きつつ、眠りにつけぬ夜を過ごした。



◇ ◇ ◇ 



 昨晩はあまり眠れなかったが、始業式の翌日の本日からは通常通りの授業となる。


 午前中の授業が終わり昼休みになると、去年も見掛けた秋月に群がる男子生徒という光景に、改めて彼女の人気を目の当たりにする事になった。

 学園一の美少女と仲良くなりたい男子生徒がアピールしたり、質問したりと大変な騒ぎになっている。まさか本人も去年と同じ様に、男子生徒に囲まれる事になるとは思っていなかっただろう。


 しかし、今年は去年と少し様子が違っていた。それは男子生徒を女子生徒が囲む集団がもう一つある事だ。その中心にいるのが、イケメン男子の桐嶋くんだ。彼は囲まれるのに慣れた様子で、笑顔を作り無難に対応している。


「なんだか凄い事になってるな」


 一緒に昼食を食べていた誠士がその様子に驚いているようだ。


「まさか、またこの光景を見る事になるとは思わなかったよ」


 去年、入学したばかりの頃、こんな光景はラノベの中の話だと思っていて驚いたのを覚えている。


「そりゃあ去年入学の美形ナンバーワンが同じクラスに揃ってるからなあ。これじゃあ女子がアイツに全部持っていかれちまうな」


 同じく様子を伺っていた大介だったが、恨めしそうでいて羨ましそうにしている。



「冬人! 友火! 遊びに来たよ!」


 そんな浮かれたクラス内に響き渡る聞き覚えのある声で、俺と秋月の名前を呼ぶ声の主に目を向けると、そこには別のクラスになってしまった春陽が手を振りながら教室に入って来るところだった。

 

「あ、カワイイ。俺はショートカット派だから秋月より好みかも」

「誰? 可愛いけど別のクラス?」

「あ、あれ咲間じゃん。一年の時同じクラスだったよ。秋月と仲良かったから会いに来たのかな?」


 別のクラスの美少女の乱入で、再びクラス内の男子が騒ぎ出す。


「あ! 冬人みっけ!」


 春陽がクラス内に突然乱入し注目を浴びるも気にする様子も無く、俺を見つけた、と駆け寄ってくる。


「やっほー、冬人元気にしてた? 私がいなくて寂しくなかった?」


「いや、全然。昨日、会ったばかりだし」


「もう……冬人はつれないなぁ。そういう時は『お前がいなくて寂しかったよ』って言うもんでしょう?」


 そんな歯の浮くような気が利いた台詞を俺が言える訳がない。というか高校生が言う台詞じゃないよね。あ、桐嶋くんなら言ってもさまになるかもな。


「咲間、朴念仁の冬人にそんな台詞を期待しちゃダメだろ」


 大介の奴……何だよ朴念仁って。俺はそんなに堅物じゃないぞ。


柳楽やぎらくん、ぼくねんじんって何?」


「うーん、そうだな……恋愛事に関してうといにもほどがある人物……かな?」


「ああ! それは当たってるかも……」


 何故か春陽は納得してるようだ。


「だろ?」


「柳楽、上手いこと言うな」


「誠士も大介の言葉に納得してるんじゃないよ。しかも朴念仁の意味が違ってないか?」


 三人して俺が朴念仁だという意見で一致しているのは、納得がいかないので抗議してみる。


「神代、今回は柳楽の意見に賛成だ。珍しい事に間違ってないな」


「誠士……お前まで……。断固抗議する! 俺は朴念仁なんかじゃない!」


 三人一致した意見なので、抗議したところで多数決で負けが確定していた。


「そういえば友火は……あらら、今年も相変わらず大人気だね。これじゃあ近づけないね……」


 秋月にも会いたかったであろう彼女を囲む男女の集団を見て、春陽は少し寂しそうにしている。


「ところで、もう一つの女子の集団は何?」


 春陽が桐嶋くんを囲う集団を指差す。


「ああ、あれは何でも去年入学したイケメンナンバーワンの男子を囲む集団だよ」


「ああ、そういえば噂を去年聞いたような気がするかも。ふーん……確かにイケメンだね。でも、好みじゃないかな」


 秋月に続いても春陽も桐嶋くんは好みでは無いようだ。まあイケメンっていっても全ての女子の好みという訳でも無いだろうし。

 秋月より春陽が可愛いっていう男子もいるんだから、好みは人それぞれって事かな。

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