第26話 クラス分けの結果
秋月と話し合い、ある程度心の整理が付いた俺と秋月は、クラス分けのプリントを配布している場所にやって来た。
クラス分けを掲示板に掲示している学校もあるようだが、うちの学校では一人一人にクラス分けが記載してあるプリントを配る形式になっている。
「うわ、凄い人だな」
学年毎に配布場所を分けてるといっても、ひと学年に数百人いるのでクラス分けのプリントを求めた学生でごった返していた。
漫画でよくある購買にパンを買いに来た学生が群がってるような感じだ。
「プリントは俺が貰ってくるから秋月はそこで待っててくれ」
「うん、分かった」
あんなゴチャゴチャしている場所へ二人で行っても仕方がないので、秋月に待ってて貰い自分一人で行く事にする。
「ええ! どうして私だけ別のクラスなの⁉︎」
学生の群にプリントを取りに行こうと覚悟を決めた矢先、聞き覚えのある一際大きな声が耳に飛び込んできた。
声が聞こえた方向に目を向けると、見慣れたショートカットの女子生徒……あれは春陽のようだが何か憤っているように見える。
「春陽、どうした? なんか怒ってるように聞こえたけど?」
俺は春陽に駆け寄り、事情を聞く。
「ふゆひとぉ……きいてよぉ……」
春陽は怒っているというより、今にも泣き出しそうな雰囲気だ。
「春陽! どうしたの⁉︎ 何かあったの⁉︎」
秋月も慌てて春陽に駆け寄り、心配そうに声を掛けてきた。
「ああ……友火もきいてよぉ……私だけ別のクラスになっちゃったんだ……」
「ええ⁉︎ ちょっとプリント見せて」
春陽が持っていたクラス分けのプリントを見てみると……秋月それに大介や誠士は同じクラスだが、確かに春陽だけ別のクラスだ。
正直何と言ってもいいか分からないが、学校で決めた事なの変えようが無いのが事実だ。
「春陽……別のクラスになっちゃて残念だけど、転校する訳でもないし、そんなのに悲観する事も無いぞ」
実際にクラスは違っても同じ学校だし。
「うん、隣のクラスみたいだし、いつでも会えるから大丈夫。クラスは違っても私たちはずっと友達だよ!」
「ともかぁ……ありがとう……」
秋月と春陽は百合百合しく二人して抱き合っている。女の子同士だと簡単に抱き合えて良いよな。男同士だと……大介や誠士と抱き合う姿を想像したが……うん、無いわ。
やっぱり美少女二人は尊い。イラスト化したい衝動に駆られるが、描いたら二人に何言われるか分からないから止めておこう。
「春陽、いつでも遊べるんだから、そんなに落ち込むなよ」
「うん、大丈夫。隣のクラスだし、毎日お昼休みとか遊びに行くから!」
おい! 毎日来るつもりか?
「いやいや、毎日来なくていいから。新しいクラスの友達も大事にしろよ?」
「冬人は私と別のクラスになって寂しくないの? 私は寂しいよ」
さっきまで少し泣いていたせいか、春陽が潤んだ瞳で俺の顔を覗き込んで来る。くりっとしたタレ目の美少女の彼女に見つめられると、思わず意識してしまう。
普段意識していないが春陽も紛ごう事なき美少女だ。彼女のそんな言葉にドキッとしてしまう。
「もちろん寂しいけど、俺と春陽は中学の頃から仲良くしていたし、クラスが違っても友達だぞ。安心しろ」
「友達か……うん、そうだね! 今は友達だけどいつかは……」
春陽が何かよく分からない事を言っているが、少し元気になってよかった。
「あ、そろそろ始業式が始まる時間だ。二人とも体育館に行こう」
「あ、本当だ。もうこんな時間なんだ。春陽行こう!」
こうして三人で体育館に向かった。
◇
始業式も終わり、進級した俺たちは新しいクラスでホームルームがある為、教室に移動し、貼り出された席順通りに席に着く。
「よう! 冬人! また同じクラスだな。一緒になれて良かったよ」
大介が俺を見つけて駆け寄ってきた。
「そうだな、誠士も一緒だし、新しいクラスでも取り敢えずボッチは回避できたし安心したよ」
俺は特にボッチになりたい訳では無いので、一年生の時の友達がいれば安心して新二年生をスタート出来る。
「そういや咲間は別のクラスになっちゃって残念だな。冬人も寂しいだろ?」
「別のクラスになったのは残念だけど、別に寂しいって事は無いよ。転校した訳でも無いしな」
学年が変わると、今まで仲良くしてきた友達が離れ離れになる事が多いから、ナーバスになってる学生も多いようだ。
新しいクラスに馴染めるかを心配するんだと思う。馴染めなければボッチまっしぐらだからな。
「また秋月とも同じクラスになれたし、今度こそお近づきになるぞぉ!」
秋月と同じクラスになれた大介がご機嫌だ。
「おっと、話した矢先に本人ご登場だぞ」
大介が視線を教室のドアに向けたのに釣られて、俺もドアを見ると始業式の後、別行動だった秋月が教室に入ってきた。彼女が教室に入って途端、教室が色めき立った。
学園一の美少女の登場に、初めて同じクラスになった男子生徒が、「おお、やっぱスゲえ可愛い」、「同じクラスのなれてラッキーだわ」、「この一年が楽しみだ!」と浮き足立つ。
そういえば一年の最初の頃は、こんな感じだった気がする。一年生の後半には教室に入って来たくらいでは、こんなにザワつくことは無くなったが。
「あ、いた! 始業式の後、さっさと行っちゃうから探しちゃったじゃない」
秋月が教室に入るなり、一直線に俺の机までやって来て声を掛けてくる。「お、おい地味なアイツは誰だよ?」、「秋月に声を掛けられて羨ましい!」、「一年生の時に同じクラスだった奴?」等、色々と男子生徒のヒソヒソ話が聞こえて来る。
新学年早々、秋月のおかげで目立ってしまった。
「別に一緒に教室に行くって約束した訳じゃないだろ」
「そうだけど、一人で新しいクラスに行くのは少し不安だったんだから」
秋月でも新しい環境には不安になるんだな。
「あら、柳楽くんもまた同じクラスなのね。よろしくね」
秋月が俺の隣で空気になっていた、大介に気付き話し掛ける。
「あ、秋月さん! ま、また同じクラスになれて嬉しいっす!」
大介は緊張しているようで、上擦っている。女好きだが反応がウブなので面白い。
「クラスメイトで同い年なんだから、呼び捨てでいいからね」
「は、はい! えーと……友火さんと呼ばせて貰います!」
こうして旧クラスメイトと親交を温め、秋月は自分の席に向かい着席した、と同時に彼女に群がる男子生徒。「一緒になれて光栄です!」、「さっきの冴えない男誰ですか?」等、質問責めに合っている。聞き捨てならない言葉も聞こえてきたが。
「はあ、二年になっても友火さんは凄い人気だな。だが俺はもう友達になった! お前らはまだ友達には早い!」
秋月の取り巻きの男子生徒を見て、大介が訳の分からない事を言っている。さっき話しただけで、彼女ともう仲の良い友達気分のようだ。
ふと、俺も秋月の方を見てみると、秋月と目が合う。彼女は男子生徒に囲まれて、笑顔で接しているが戸惑っているようで、「アンタなんとかしてよ!」と目で訴えてるような気がした。
だが俺にはどうする事もできないので、「少し経てば収まるから我慢しろ」と念じてみた。通じたかどうかは分からないが。




