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第14話 イラスト教室へようこそ(前編)

 朝から秋月の様子が変だ。俺の顔を見てはニヤニヤしたり微妙に避けられてる気がする。


 ああいったコソコソした行動をしている人間は何かを企んでいるケースが多い。と思うがいったい何なんだ?



〜 放課後 〜



 下校の時刻を迎えたが秋月からのアクションは無く、当の彼女はさっさと帰ってしまった。肩透かしを食らった上に警戒してた自分がアホらしい。それとも自意識過剰だったか? 彼女の行動に特別な意味は無かったのかもしれないな。最近は彼女の事を気にし過ぎているような気がする。





 今日の放課後は週一で通っているイラスト教室の日だ。駅から少し離れた雑居ビルに教室はある。古びた建物の階段を登り教室のドアを開ければ、そこは紙とインクの匂いと創作意欲に溢れた仲間達が集う憩いの場所だ……ったはずだ。


「なぜ、お前がここにいる?」


 教室のドアを開けると教室のイスに座っている秋月がいた。


「今日は体験入学できました(ドヤァ)」


 秋月は俺の驚いた顔を見て、してやったりとドヤ顔だ。今日の朝から学校でニヤニヤしていたのは、これを狙っていたからだったのか……俺の驚いた顔を予定通り見れて彼女はさぞ満足であったろう。


「朝からコソコソしてたのはこういう事だったんだな」


「何の事か分かりませーん」


 しらばっくれてる秋月を見ると、こいつ意外と子供だなって思う。


「で、お前も絵を描くのか?」


 秋月が絵を描いてるとは聞いた事が無い。


「違うわよ。アンタ言ってたでしょ? 小説とかシナリオ書いてる人もいるって」


 確かにそう言ったがアレはレアケースだったりするのだが……それを真に受けて体験入学を申し込んだんだな。


「まあ、確かにいるとは言ったな」


「だから、私の新しく書き始めた小説を読んでもらって評価してもらったり、アドバイスを貰おうと思って来たの。やっぱり人に読んでもらって率直な意見を聞かないと駄目な事が分かったわ。客観的に自分の小説を評価するのは難しいというか、私には無理」


 俺は小説を書いた事は無いが言いたい事は分かる。小説はイラスト以上に読む人を選ぶだろう事は想像に難くない。


「いよいよ新しい小説を書き始めたんだな。“めざし“には、まだ投稿してないよな?」


「ええ、少し書き溜めてから投稿するつもりよ。毎日投稿しないと“めざし“では埋もれちゃって読者の目に留まる事すら難しいみたい。毎日投稿が基本だって誰かが言ってたわ」


 小説の投稿数も半端ない数だろうから埋もれてしまうのは仕方が無いが、執筆する人達も色々と苦労しているようだ。


「ねえねえ! この超可愛い子は冬人くんの彼女?」


 教室の女性の生徒さんが秋月を指差しながら声を掛けてきた。


「こんにちは、かっちーさん。言っときますけど、ただのクライスメイトですからね」


 かっちーさんは年上の明るいお姉さんで、BLをこよなく愛する、教室のムードメーカーだ。


「じゃあ……もしかして冬人くんを追っかけて、この教室まで来たとか? なんて健気な!」


 あ、この人全然聞いてないや。キラキラした目で秋月に話し掛けている。


「友火ちゃんっていうんだ? 冬人くんのどこを気に入ったの? 冬人くんはね普段ボーッとしてるけど、凄く良い子なんだ。絵も上手いしね。教室では人気者なんだよー」


「え、えと、彼女でも無いし追っかけてきた訳でも……ないんですけど……」


「えー? でも、冬人くんが教室に通ってるから体験入学で来たんだよね?」


「ええ、まあ……」


 かっちーさんの一方的なトークに、歯切れの悪い反論しかできず借りてきた猫のように大人しくなる秋月。


「ほら、冬人くん! こんな可愛い子が追っ掛けて来たんだから、ちゃんと責任取りなさいよ!」


 かっちーさんの中では秋月が俺を追って体験入学に来たのは確定事項の様だ。それにしても責任って何だよ。


「あ、あの……」


 当の秋月は何かを言おうとしているが、かっちーさんの勢いに困惑気味だ。


「かっちー、口より手ぇ動かしましょう」


 教室のオーナーで講師でもある森山先生に注意されるかっちーさん。お喋りより絵を描けって事だな。


「はーい、ちゃんとやりまーす」


 ちゃんとやります、と言いつつもかっちーさんは脱線しがちな人だから、長くは続かないだろう。


 無駄話が多いかっちーさんだが絵はかなり上手い。BL作家さんには絵が上手い人が多いのは気のせいではないだろう。


「秋月さんは小説を書いてはるんですね。ワイに、その小説を読ませてくれへんかね?」


 森山先生は京都出身で、こうやって京都弁っていうの? で話し掛けてくる。


「あ、はい、ノートPCを持って来たので、それで読んで頂いても大丈夫ですか?」


 どうやら秋月は、教室の為にわざわざノートPCを持参してきたようだ。


「ワイは、今から秋月さんの小説を読むから、質問のある人は声掛けてや〜」


 ようやく解放された秋月はキョロキョロと周囲を見回している。


「かっちーさんに、すっかり捕まっちゃったな。あの人は話し好きなだけで悪い人じゃないから」


 俺はお疲れ、と秋月に声を掛けた。


「うん、それは分かってる。いきなりだったから勢いにビックリしただけ。――それと! 私はアンタを追っ掛けて教室に来た訳じゃないから、か、勘違いしないでよね!」


 秋月は顔を赤くしながら全力で否定してきた。


「あー、はいはい、分かってますよ」


 俺は適当に相槌をうちながら教室を見回した。紙に描いてる人、パソコンを持ち込んで描いてる人、みんな真剣に創作活動にいそしんでいる。その中に一際若い女の子の生徒さんが目に留まった。


 教室の片隅のテーブルにセーラー服姿の少女がいた。俺はその姿に目を奪われた。

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