第13話 三人の秘密
今回も春陽視点です。
「はあ……今日は冬人とちゃんと話せて良かった……」
冬人と一緒に帰宅した私は部屋に入るなり着替えもせずにベットに倒れ込み安堵の溜息を吐いた。
冬人の口から友火と付き合ってはいないと否定の言葉を直接聞けて、胸の支えが少し取れた気がする。でも……まだ気になる事がある。あの日、学校の廊下で二人の間に何が起こったのか、それが知りたい。あの日を境に二人は仲良くなった。
私はスマホを取り出しライムトークの友達リストからメッセージを送った。
『明日、学校終わったら、一緒に帰らない?』
〜 翌日 〜
翌朝、通学路を歩いていると見慣れた後ろ姿を見つけた。私のクラスメイトで親友の友火だ。
「友火、おはよう!」
私は駆け寄り声を掛けた。
「春陽、おはよう。今日も朝から元気ね」
「そういう友火は今日は歌ってなかったね」
「べ、別に毎日歌いながら登校してる訳じゃないから! もう、あの時は本当に恥ずかしかったんだから思い出させないでよね」
よく考えると友火が鼻歌を歌いながら登校した日は、彼女が終日ご機嫌で放課後に廊下での出来事があった。もしかしたら関係がある? 関係があるかもしれない。
「それで春陽、一緒に帰ろうって前日にメッセージで誘ってくるなんて珍しいわね」
「うん、今日はどうしても友火とお話ししたかったから、かな?」
「ふうん、よく分からないけど……どこに行くか決まってるの?」
「ううん、何にも決まってないよ。友火はどこか行きたいとこある? 私は友火とお喋りできればどこでもいいよ」
そう、私は友火に会って話しができれば良かったから何も考えていなかった。
「もう、誘っておいて何も考えて無いなんて。帰りまでに考えておくから春陽も考えてね」
「えへへ、ごめんね。私も考えておくね」
〜 放課後 〜
昨日は目が冴えてしまい、あまり眠れなかったせいで退屈な授業の中、眠気と格闘しながら何とかホームルームを終え放課後を迎えた。
「春陽、どこに行くか決めた?」
帰り支度を済ませた友火が眠気で思考停止している私に声を掛けてきた。
「ゴメン、考えて無かった」
授業中は眠らないようにするので精一杯でそれどころでは無かった。
「なんか凄い眠そうにしてるけど今日は真っ直ぐ帰る?」
「ううん、大丈夫。もう目が覚めた」
「それならいいけど。とりあえず駅前まで行きましょう。行けば色々あるし」
「うん、分かった。じゃあ行こっか」
◇
友火がオススメの場所がある、との事でそこに向かう事になった。
「ねえ、友火、どこに行くの?」
「春陽はビックリカメラに行った事ある?」
「ビックリカメラって家電量販店だっけ? 駅前にあるのは見た事あるけど入った事はないかな。友火は家電とか興味あったっけ?」
「私も最近、初めてビックリカメラに行ったんだけど、電気製品ばかりじゃ無くて色々あって面白かったの」
友火の話を聞きながら目的のビックリカメラに向かった。到着し店内に入ると平日だというのに人で溢れていた。
「わあ、凄い人。今日、平日だよね?」
私は平日だというのにこの混み様を見て、どこから来たんだろうと疑問に思う。
「アイツが言うには大量買いする観光客向けの品揃えにして、観光客を呼び込んでるとかどうとか、そんな事言ってたかな」
そんな友火の説明の中で引っ掛かる言葉があった。
「アイツ?」
胸がザワつく。
「あ、えと、アイツって神代くんの事」
慌てて言い直す友火。
「冬人とここに来た事あるんだ?」
私は友火に問い質した。
「うん、ここはアイツが買い物するっていうから、連れて来てもらったの」
胸がチクリと痛む。やっぱり二人は私の知らないところで仲良くしていた。
「そうなんだ……」
その後、店内を色々と見て回ったが私は上の空だった。
「春陽? やっぱり帰る? 調子悪そうだよ」
友火が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「あ、ゴメン寝不足でボーっとしてた。でも、大丈夫だから。どこかで少し休憩しない?」
「じゃあ……上のフロアにカフェがあるからそこに行きましょう」
私たちは七階のカフェでドリンクを注文し席に座りひと息ついた。
「もう……明日も会えるんだから今日無理して来なくてもよかったのに」
学校で毎日会えるのだから友火の云う事は尤もだ。でも、ハッキリさせたい事があったからわざわざ前日に一緒に変える約束までした。
「ねえ、友火」
私は決断した。昨日、冬人は二人は付き合っていないと言っていた。でも、私の胸のモヤモヤは消えない。
「友火と冬人は付き合ってるの?」
――ブッ!
友火が飲みかけのドリンクを吹き出した。
「友火! 大丈夫⁉︎」
「ケホッケホッ! だ、大丈夫よ。い、一体なんの事よ?」
昨日の冬人と全く同じ反応だった。
「言葉の通りだよ。二人は恋人同士なのかな? って」
私は友火に、冬人と同じ質問をした。
「そんな訳ないじゃない。私とアイツが付き合ってるって、どう考えたらそうなるのよ?」
友火も冬人と同じ事を言ってて、少し笑ってしまった。
「ここにも二人で来たみたいだし、反省堂で見掛けた時も凄い仲が良さそうに見えたから……」
実際、あの時の二人は誰が見ても恋人同士にしか見えなかった。
「そ、そんな風に見えてたのね……あ、あの時はアイツが素直にならないから、つい……」
友火の声が段々と小さくなっていく。
「それじゃあ、二人が付き合って無いって事で信じていいかな」
「ないない、付き合ってるなんて絶対無いから」
友火は絶対に有り得ないと全力で否定している。
「うん、分かった。信じる。……それじゃあ教えてくれないかな? あの日、学校の廊下で何があったのか。あの日を境に友火と冬人は仲良くなったように私は思うんだ」
二人が付き合っていないと分かった今、残った最大の知りたかった事だ。
私は友火の目を見た。そして友火も真剣な眼差しで私を見つめ返した。
数秒の沈黙の後、友火が口を開いた。
「分かった。親友の春陽には教える。でも……笑わないでね」
「え? うん、笑わないよ」
笑わないでって、どういう事だろう?
「私は趣味で小説を書いて小説投稿サイトに小説を投稿しているの」
友火が小説を書いているなんて始めて知った。想像もしなかった趣味に少し驚いた。
「それで、私が書いている小説にファンアートを描いてくれた読者がいたんだけ……あ、ファンアートってイラストの事ね。で、それが偶然アイツだったって訳」
最初はお互いがクラスメイトだとは知らなかったが、冬人が落としたイラストの下描きで、お互いにクラスメイトだと分かった、というのが廊下での事の顛末だった。
友火が小説の趣味の事をクラスメイトには隠しておきたかったから、ああいった行動をしてしまったと友火は語った。
「プッ! あははは!」
どんな話なのかと緊張して聞いていたが、まさかの真実に気が抜けてしまった。凄く悩んでいたのが、何だかバカみたいに思えてきて思わず笑ってしまった。
「もう、笑わないでって言ったのに!」
「ごめん、まさかの内容で思わず笑っちゃった。今度、友火の書いた小説読ませてね」
「ぜーーーったいイヤ! 恥ずかしい」
「でも、冬人は読んだんでしょう?」
「アイツには酷評されたわ。キャラクター以外は全部ダメって」
「大丈夫、今度は私がちゃんと批評してあげるから」
友火は次の作品を書き始めているから、ある程度書けたら見せると渋々承諾してくれた。
今回は思い切って聞いてよかった。これで友火と冬人の二人だけだった秘密が、三人の秘密になった事が本当に嬉しい。
だって……私は友火も、そして……冬人も大好きだから。




