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第10話 秋月友火の相談(後編)

「なあ? 秋月のペンネーム、“フレンドリー・ファイヤ“ってさ、名前の“友火“から取ってる?」


 俺は地雷を踏む覚悟でペンネームの由来を聞いた。


「あ、気付いた? ネット上では本名を明かせないから誰にも分かってもらえなかったけど、気付いてくれて嬉しい」


 アレ?  地雷を踏む覚悟で聞いたんだが喜ばれてるぞ。


「“友“が“フレンドリー“、“火“が“ファイヤ“直訳すると“友好的な炎“とか“親しみやすい炎“みたいな感じでカッコ良くない?」


 秋月は本当に中二病的な感性を持ち合わせている残念美少女のようだ。ドヤ顔で素晴らしさを語っているが本当の意味を理解しているのだろうか?


「なあ、“フレンドリー・ファイヤ“の本当の意味を知ってるのか?」


「本当の意味? どういう事?」


 あ、やっぱコイツ意味分かってないで使ってるな。


「“フレンドリーファイヤ“ってさ、“友軍誤射“って意味なんだけど。いわゆる、『味方に間違って攻撃しちゃった』サーセン、みたいな?」


「えっ⁉︎ し、知らなかった……私、もしかして凄い恥ずかしいペンネームで活動してるって事?」


 秋月は割と真面目にショックを受けている。彼女は成績も上位で優等生だが、何かしら抜けてるとこがあるようだ。そこが学校一の美少女と呼ばれながらも、親しみやすい原因のひとつなのかもしれないが。


「ほ、ほら、めざし作家さんは変なタイトルの小説で変わったペンネームで活動してる人も多いみたいだし、個性的でいいじゃないかな? ははは……」


 本気で落ち込んでいるようなので一応フォローしてみた。


「それって……やっぱりタイトルもペンネームも変な名前なんじゃない……」


 全然フォローになってなかった!


「ま、まあ今の秋月の作品とペンネームは合ってるし、次回作の時にでも変更すればいいんじゃないか?」


 やはり遅延信管の地雷だったようで、秋月にジワジワとダメージを与えていってるようだ。


「そ、そうね! ペンネームの事は今度、考えましょう! そ、そんな事より今日はアンタに小説の事で相談に来たのよ!」


 どうやらペンネームの事でかなり動揺してるらしい。


「相談って小説の事らしいけど、俺は小説は書かないから相談されても役に立つか分からないぞ」


 絵の事ならともかく執筆についてはど素人だ。執筆活動を続けている秋月にアドバイスできるとは思えない。そう考えていると秋月からは違った答えが返ってきた。


「アンタに相談したいのは小説の書き方とかのアドバイスじゃなくて、いち読者としての意見が聞きたいの。感想欄にダメな意見を書いてくる人はそうそう居ないから、率直な感想を聞かせて欲しいの。特にダメな所とか」


 ああ、そういう事か……なら俺でも役に立てるけど、率直な感想といわれても困る。ダメな所が多過ぎて正直に話したら秋月に与えるダメージが大きそうだ。


「ええっと……正直に言ってもいいんだよな? 怒らない?」


 俺は恐る恐る聞いてみた。


「うん、怒らないから言ってみて」


「本当に怒らない?」


「しつこいわね……絶対怒らないから」


 こういうパターンは結局怒るパターンだったりする。


「……分かった。正直に意見を言わせてもらおう」


 こうして俺は更なら地雷原に足を踏み入れる事になった。俺、生きて帰れるのかな?


「本当に怒らないんだよな?」


「くどい!」


 やっぱり怒られてしまった。


「それでは僭越ながら正直に感想を述べさせて頂きましょう……」


 秋月からゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえたような気がするが気のせいだった。


「キャラクターの性格付けや設定が良い。後はダメ。以上」


 俺は秋月の小説の良い所と悪い所を簡潔に答えた。


「え? それだけ? もうちょっと具体的に言ってくれないと分からないわよ!」


 ええ……なんか面倒くさい。なんか少し機嫌が悪くなってるし、本気でダメ出ししたら更に機嫌が悪くなりそう。でも、このままだと帰れなさそうなので答える事にした。


「分かったよ。具体的に答えるよ。いいか、秋月の小説のネタはパクリが多過ぎる。どっかで見聞きしたようなネタばかりだ。あれじゃあ、オリジナルティが無さ過ぎて読む必要が無い。パロディーなら良いけど、真面目にストーリーが展開してるしな」


「あれは……オマージュです……」


 黙って聞いていた秋月が口を開いた。まさかのオマージュ発言。だが俺は更に続ける。


「ストーリーもさ、何か聞いたことがあるんだよね」


「……オマージュです……」


 下を向き、段々と声が小さくなっていく秋月だが……急に顔を上げ反撃に出てきた。


「アンタのイラストだって見た事あるようなキャラクターが、たくさん投稿されてるじゃない!」


 秋月は自分の事を棚に上げて俺の創作についての批評を始めた。ほとんど八つ当たりだが。


「そりゃ、二次創作のイラストも描いてるんだから当たり前だろ」


「二次創作? 何それ?」


 二次創作を知らない秋月に懇切丁寧に教えてやった。


「率直な意見が聞きたいって言ってたのに、その意見をキチンと受け止めないなら俺は帰るからな」


 俺の批評をちゃんと聞かない秋月に対して突き放すように言った。


「ごめんなさい……ちゃんと聞きます。……だってダメ出しばかりじゃ悔しいんだもん」


 口を尖らせ、拗ねた様子の秋月も可愛かった。だからといって甘やかすつもりは無い。なぜなら創作とは厳しいものだから。とは言ったものの楽しくなければ創作は続ける事は難しいのでフォローする事にした。


「まあ、辛口な意見ばかり聞かされても面白くないよな。それは俺もイラストを投稿して批判されたりするから分かるよ。これから俺が良いと思う点と改善した方がいいと思う点を話すから、ちゃんと聞けよ」


「うん、分かった」


 突き放すように言い放ったのが、功を奏したようで素直になったな。


「まず、キャラクターはとても良い。俺が秋月の小説のファンアートを描いたのも、キャラクターの設定や会話の掛け合い等が良かったからだ。だから、そこは伸ばしていくべきだと思う。あとは、オリジナルの要素を入れていけば良いんじゃないかな?」


 秋月は、大人しく俺の言葉に耳を傾けて、うんうんと頷いている。


「うん、分かった。今、言われた事を意識して書いてみる。それからイラストを描いてくれてありがとう。イラストを掲載したら少しブックマークが増えたんだ。それが凄い嬉しかった。だからさ……面白い話が書けたら、また描いてもらえるかな?」


 急に、しおらしくなった秋月がお願いをしてきた。学園一の美少女に上目遣いでお願いされて断る事ができる男なんてそうはいないだろう。実際俺も喜んで! って返答しそうになったが心を鬼にして真面目に返答した。


「今、秋月が書いてる“異世界ハーレム“では、もうファンアートは描かない。でもこれから新しく別の作品を投稿して面白かったら描くよ。ファンアートは馴れ合いで描くような物でもないし、俺が描きたいと思える作品だったら喜んで描くよ」


 俺は正直な気持ちを話した。


「うん、分かった。面白い作品を作れるように頑張る。そして面白い小説を書いてファンアートを描いてもらう。うん良い目標ができた。また、何か相談するかもしれないからその時はよろしくね」


 げ、マジかよ。と思ったのが顔に出たらしく、それを察した秋月が満面の笑顔で、それはステキな笑顔で言い放った。


「だって……相談できるのは私の秘密を知ってる、アンタしかいないんだから」


 こうして、ようやく秋月からの相談を終えた。

 春陽に遭遇したり山本さんに茶化されたり、相談まで辿り着くまで長い道のりだった……疲れた。

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