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第六話 夢

 盛大な二度寝を終えた俺が起きた頃には、太陽は真南の方角に昇っていた。


 体を起こして伸びをする。昼飯を食べるためにキッチンへ向かった。


「ん……?」


 一枚しか使わないはずのパン皿が、何故か二枚水切りカゴの中にあった。


「なんで別々の皿に乗せたんだろう」


 不思議に思いながらも、俺はやかんに水を入れ、火にかけた。その時、昨日のカップ麺の容器が視界に入った。


「俺、二個も食べたっけ……」


 普段は一個しか食べないカップ麺の容器が、またしても二個あった。もしかしたら、昨日は二個食べたい気分だったのかもしれない。


 俺は奥から取り出したカップ焼きそばを開けると、やかんからお湯を注いだ。半開きになったカップ麺の蓋を閉じると、冷蔵庫に貼ったタイマーをセットして、しばらく待つ。


 ピピピピッとタイマーが三分を知らせた。焼きそばを湯切りして、箸と一緒にリビングの丸机まで持っていく。


 リビングに最近着ていなかったTシャツと短パンが、綺麗に畳まれて置いてあった。しかも、普段とは異なる畳み方だった。


「なんで、こんな服なんか出してるんだ?」


 再び湧き上がる疑問の種に少し首を捻りながらも、俺は粉末ソースを混ぜて焼きそばを口に運んだ。いつもと変わらないソースの味がした。


 もそもそと食べ終えて容器を片付けると、スマホを開いて連絡を確認した。しかし、両親のメールはおろか、友達からのくだらないやりとりすらも全く無い。


「暇だな……」


 することもない俺はベッドに寝転がると、目的もなくスマホのニュースを流し読みした。そのうちやってきた睡魔に抵抗する理由も見つからず、スマホを持ったまま三度目の眠りに落ちた。






「起きてください……!」


 同い年ぐらいの少女の声が頭に響いた。どうやら、俺は夢の中でも寝ているようだ。


「雪陽さん、起きてください!」


 少女が俺の名前を呼ぶ。何故だろう、聞き覚えのある声のような気がする。


「もしかして、干渉の影響で……」


 突然、少女が訳のわからない事を言いだした。夢の中で寝てても仕方ないし、そろそろ起きるか。


 眠気ねむけまなこでうっすらと瞼を持ち上げる。すると、長い黒髪を垂らした女の子の顔が間近にあった。


「雪陽さん!」


 少女の顔を視認した途端、少女が俺の体を抱き寄せた。夢の中では、こんな可愛い子が彼女なのかよ。思わず現実の俺が嫉妬しそうだ。


「もう一度会えて、嬉しいです!」


 少女が嬉し泣きをして、優しく俺を抱きしめる。状況はよく掴めていないが、この子と俺は奇跡の再開を果たしたらしい。


「俺も、会えて嬉しいよ」


 ひとまず、ここは話を合わせておこう。せめて、夢の中では好き勝手しようじゃないか。


「雪陽さんもそう思ってくれて、すごく幸せです……」


 俺を抱きしめていた少女がゆっくりと体を離し、俺の正面に座る。初対面のはずなのに、見覚えがあるような気がする。


「本当は二度と会えないのに……」


 少女が俺を見つめながら、大きな黒い瞳に涙を溢れさせた。もしかしたら、時空を超えるぐらいの超ミラクルな展開なのかもしれない。


「雪陽さんは、私の事を覚えていますか?」


 少女が上目遣いで不安そうに問いかける。ここで名前でも呼んで、少女を笑顔にさせてあげたいのだが、残念なことに、初対面の少女の名前を俺が知る由もない。


「ごめん、どうやら俺は君の事を……」


 記憶をなくした悲劇の主人公風にカッコつけて言おうとした。その時、言葉を遮って、ふと頭に一つの名前が浮かんだ。


「フィリア」


 無意識に少女の名が口から出てくる。あれほど濃く頭の中を覆っていた靄が、一瞬にして晴れていった。


「フィリア!」

「きゃっ、雪陽さん!?」


 俺は目の前に座るフィリアをギュッと抱きしめた。フィリアは驚いて体を硬くしたが、すぐに力を抜いて俺の背中に腕を回した。


「これ、夢じゃないよな?」

「もちろん、現実ですよ」

「今以上に、夢じゃなくてよかったと思ったことはないよ」


 抱きしめていたフィリアを優しく離す。今思えば、パン皿も、カップ麺の容器も、畳まれた服も、全てフィリアがここにいた証拠だった。


「えーと……その、昼飯は食べたか?」

「しっかり、食べました。それよりも、雪陽さんに伝えなければいけないことが色々ありまして」


 フィリアがベッドの上に背筋を伸ばして正座して、神妙な面持ちでこちらを見つめる。


「どこから話すべきか、自分でも整理がついていないんですけど……」

「じゃあ、さっき、俺の腕の中で消えたことについて聞いていいか?」

「わかりました」


 フィリアは視線をベッドに落としたり、天井を見上げたりと、どこか決心のつかない様子だったが、少しして覚悟を決めたようで、俺をまっすぐ見ると告げた。


「私は――――」 

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