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第五話 事情

軽度の性的暴力描写が出てきます。抵抗があるという方は後書きにあらすじを載せておきますので、そちらを御覧下さい。

「少し、私の話をしてもいいですか?」

「いいよ」


 胸に顔をうずめたまま、フィリアは「ありがとう」と小さく呟いて、ぽつりぽつりとこの数日間のことを話してくれた。


「三日前、気がついたら公園に一人でいたんです。何があったか思い出そうとしても、自分の名前しか覚えてなくて……」


「お金も行くあてもなくて、実は三日前にも同じように、他人のお家に泊めてもらおうとしたんです」


「雪陽さんと同じくらいの歳の人にお願いしたら、すぐにいいよって言ってくれて。だから、家に上がったんです」


「そしたら、五分も経たない間に無理矢理キスされそうになりました」


「壁に体を押し付けられて、身動きが取れないようにされて……抵抗したら、服を脱がされそうになりました。本当に怖くて……」


「トイレに行かせてくださいって必死にお願いして、なんとか逃げてきたんです」


 フィリアが小さく嗚咽おえつを漏らした。


「それから、他の人を信じれなくなってしまって……その日は、人に見つからないようにと思って、人気ひとけのない橋の下で一夜を明かしました」


「次の日も、どうすることもできなくて。飲まず食わずで、空腹でどうにかなってしまいそうになりながら、夜を凌ぎました」


「でも、これ以上は倒れてしまうってなって、それで、すごく怖かったですが、昨日再び住宅街に足を運んだんです」


「そして、雪陽さんに出会いました」


 胸に顔をうずめたフィリアが顔を上げ、涙で潤んだ瞳でこちらを見つめた。


「こんな見知らぬ私を雪陽さんは拾ってくれて、ご飯もごちそうしてくれました」


「お風呂も使わせてもらって、ベッドまで占領してしまって、なのに嫌な顔せずに私に朝ご飯まで用意してくれて……」


「私が寝ている間に靴まできれいにしてくれて。そんな一つ一つのことが、私とっても嬉しくて」


「こんなに優しくしてもらったことなんて今までなかったから、気持ちを抑えることができなくて……」


「だから、迷惑だろうって、無理なお願いだって十分わかってるんですけど……それでも」


 フィリアは目尻に溜まった涙を両手で拭うと、俺を抱きしめた。


「まだ、雪陽さんの側にいたいです……!」


 フィリアからほのかな体温が伝わり、俺の体を抱きしめるその姿が、想いを必死に届けようとしている。


 普通に考えたら、得体の知れない少女を側に置いておくなんて、許可できるはずがなかった。無理にでも、俺を抱きしめるフィリアを引き剥がすべきだった。


 だが、自然と俺の腕はフィリアの体に回され、抱きしめ返していた。


「雪陽さん……!」


 フィリアが俺の名前を呼んだ、その瞬間。


 俺の腕の中にいだかれた少女の体が、突如としてまばゆく輝き出した。


「おい、フィリア!」


 光に包まれて、顔すら見ることができなくなったフィリアに呼びかける。しかし、返事がないどころか、フィリアの輪郭がどんどんと朧げになっていってしまう。


 このままフィリアが消えてしまいそうな気がして、俺は必死でフィリアを抱きしめた。


 そうして、どれほど経っただろうか。抱きしめ続けていた光が突如として消えた。眩さのあまりぎゅっと瞑っていた目をおそるおそる開ける。


 しかしながら、俺の腕は虚空を掻き抱くばかりで、そこには誰の姿もなかった。


「おい、どこにいったんだよ、フッ……ファ、フェ……あれ……」


 口先まで出かけた声が突然止まった。何故か、呼びかけるべきはずの名前が思い出せない。


「名前、名前……」


 必死に思い出そうとするが、思考にもやがかかったようになって、探ろうとしても何も掴めない。そして、その靄は次第に広がっていく。


「なんで、俺は玄関なんかに突っ立ってるんだ……?」


 靄の中に霞む記憶を懸命に手繰り寄せようとする。でも、記憶は俺の伸ばす手を簡単にすり抜けて、手の届かない所へと消えていってしまう。


「夕飯はカップラーメンだったのは確かだ。でも、昨日の夕方、俺はなにをしていた?」


 わからない。思い出せない。酸素を渇望して必死に藻掻いているのに、ゆっくりと、でも確実に海の底へと沈んでいくような、頭を真っ黒に染める恐怖が俺を襲う。


 不可解に玄関に立っている自分が怖くなって、俺はリビングへ急いで逃げた。そして、ベッドに寝転がると、頭を枕へとうずめた。気のせいか、心地よい匂いがした。


「夢でも見ていたのか……?」


 不可解な事の連続で疲れきった脳みそで、ぼんやりと結論づける。きっと、昨日は寝落ちして、とりとめのない夢でも見ていたんだろう。


 適当でも結論を出してしまえば、幾分かは気持ちが楽になった。それと同時に、どっと溢れ出す脳の疲労に抗えずに、俺は瞼を閉じて眠りに就いた。

雪陽にこの三日間の事を打ち明けたフィリア。その過去は辛いもので、その中で出会った雪陽にフィリアは「まだ、一緒にいたい」という気持ちを打ち明ける。その気持ちに応え、フィリアを抱きしめた雪陽だったが、その瞬間フィリアの体が眩く光り、雪陽の前から姿を消してしまう。突然の事に名前を呼ぼうとしたが、何故か名前が思い出せない。フィリアとの記憶が思い出せなくなってしまった雪陽。続きはどうなる!?


今回短かったため、今日中に次話を投稿します。

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