第十七話 答え
昨日に続いて連投です。その代わり、文字数は少ないですが、。
「雪陽さんは、異性として私の事をどう思ってますか…………?」
目の前にいるフィリアが発した言葉。それは、返答次第ではフィリアとの関係が大きく揺らぎかねない、重大で単純な質問だった。
頭の隅に散り散りになっていた思考が一瞬にして集約される。俺がフィリアの事をどう思っているか、そんなの一つしかない。
「すいません、やっぱり今のは聞かなかったことにしてください……」
喉元まで出かかった俺の答えは、口から発せられる寸前でフィリア自身に遮られてしまった。
「……なあ、俺たちの今の関係って、一体なんなんだろうな」
「さあ。目的地のない旅を共にする他人、ですかね」
フィリアが少し笑う。しかし、表情とは裏腹に、漂わせた雰囲気は最初に出会った時のような、ひどく寂しいものだった。
「二度目のお風呂なので、もうのぼせてきちゃいました。先に上がりますね」
フィリアが湯船から出る。扉へと歩いていくフィリアの背中が、なんだかすごく遠ざかっていくように感じて、俺は咄嗟にその手を掴もうとした。だが、水面から出たところで俺の腕は止まってしまい、フィリアはそのまま風呂場を後にした。
フィリアと時間差でお風呂を出て、二階の部屋に戻ってきた。
部屋に入ると、既にフィリアは就寝用意を済ませていて、俺の支度を待っている様子だった。今日は俺がソファで、フィリアがベッドの日だった。
「なあ、フィリア。今日一緒にベッドで寝ていい?」
「えっ、ええっ!! どうしたんですか、雪陽さん!? もしかして、下でお酒でも飲んできたんですか?」
お風呂上がりでほんのり朱を差していたフィリアの頬が、さらに赤みを増した。
「飲んでない。たまにはいいだろ」
「いいだろ、って……でも、このベッドで二人で寝たら、狭くて体ぶつかっちゃいますよ?」
「別に大した問題じゃないし」
「でも……」
「あー……ごめん。やっぱりソファで寝るよ」
「あっ、待ってください! イヤってわけじゃないんです。でも、いきなりすぎて心の準備が……」
「なら、準備が出来るまで待つから」
「本当に今日は雪陽さん、どうしちゃったんですか……」
多少戸惑いの色を見せながらも、フィリアは深呼吸を何回かした後、ベッドの右側に体を寄せてくれた。ベッドに入ると、淡いセッケンの香りがした。
「寝てる途中で落ちても知りませんよ」
「それを言うなら、フィリアの方だろ。お前、昨日もソファから落ちてただろ」
「私の方が早く起きたのに、なんで雪陽さんが知ってるんですか!」
「やっぱり落ちてたんだ」
「あっ……もう、雪陽さんなんて知りません!」
フィリアが拗ねて、反対側を向いてしまった。ミスった。これでは話にならない。
「こっち向いてよ」
「雪陽さん、私の方見てます?」
「ああ。フィリアの顔が見たいし」
「もう、なんで今日はそんなに積極的なんですか……」
「わからん。俺が聞きたい」
きっかけは朝のシャインの発言だろう。でも、多分それだけじゃない。
月明かりの中、さっきよりもさらに頬を赤くして、フィリアがこちらに向き直った。十センチ先のフィリアと視線が何度も交錯する。
「フィリア」
「な、なんですか」
「俺たちって、他人なの?」
「えっ」
さまよったり俯いたりしていたフィリアの瞳が俺の目を捉えた。それでも、目を逸らすことなく続ける。
「さっきフィリアが「旅を共にする他人」って言ってたから」
「でも、私たちって、それ以外の言い方に当てはまらないといいますか……」
「でも、俺はフィリアと他人でいるのが嫌なんだ」
「えっ、それはどういう」
恥ずかしがるな、照れるな、俺……!!
「だから、俺は…………俺はっ」
「フィリアちゃーん、まだ起きてるー?」
浅い呼吸をして、「す」の音が口から発せられようとしたその瞬間、ドア越しにシャインの声が耳に届いた。
「すいません、ちょっと待っててください」
フィリアがベッドから出て、ドアの方へと手探りで歩いていった。シャインのやつ、なんでっ、なんで今このタイミングなんだよおぉっ!!!
これ以上ないチャンスを潰されてうなだれていると、フィリアがベッドに戻ってきた。
「……何だったの?」
「シャインちゃんの部屋に服を置き忘れてしまっていて、渡しに来てくれました」
「そっか」
「それで、さっきの続きは……」
「いや、なんでもない。寝るわ、おやすみ」
「えっ、あっ、おやすみなさい……」
今から仕切り直して言える訳ないだろ、くそっ……
俺は逃げるようにフィリアに背を向けると、多大なるもやもやを生じさせたまま、一夜を明かしたのだった。