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第十二話 切り裂き

「……幾つかフィリアに訊きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう」

「どうやって木を切ったの?」

「やっぱり、そこ訊きますよね……」

「もし、隣に寝ている女の子が切り裂き魔だったら嫌だからな」

「ん、そんな言い方する人には教えてあげません!」

「じゃあ、俺は安全確保のために机で寝ることにするよ」

「ちょっと雪陽さん、それは待ってください!」


 ベッドから出ようとする俺の腕を、フィリアが掛け布団の中から掴んだ。


「雪陽さんって実は意地悪だったりしますよね……」

「何か言ったか?」

「なんでもないです」


 フィリアには背中を向けているため顔は見えないが、おそらく、むすっとした表情をしていることだろう。


「雪陽さんは、私が何を司る天使だったかご存知でしょうか?」

「いや。今まで一回も言ってくれてないし」

「私が言ってなかったのが悪いみたいに……私は友情や恋愛といった「縁」を司る天使だったんです」

「それって、神世界の中でも結構偉い方なんじゃないの?」

「水や風など自然を司る方々に比べると下ですが、神世界全体で見れば、比較的上位に位置していたと思います」


 相変わらず背を向け続ける俺にフィリアが説明してくれる。意地悪したいから逆側を向いているわけではない。単に向き合って寝るのが恥ずかしいからだ。


「それで、縁を司ることと、さっきの超常現象になんの関係が?」

「私たちの仕事は人々の縁を結ぶこと、そして断ち切ることでした」

「つまり、カップルを成立させるのも、解消させるのも、フィリアの裁量次第だったってこと?」

「もちろん、全てを管理していたわけではありませんが、雪春さんが言ったことは概ね合っています」


 それってかなり怖いことではないだろうか。下手すりゃ自然を操るよりも、ずっとたちが悪い。


「それらの能力は本来、あのゲートを開いた瞬間に全て消えてなくなるはずでした。しかし、神様のミスかなのか、わざとなのか、私の右手の指先に触れた物体を切断する、または結合するという能力が残っていたんです」


 縁を結ぶ、断ち切るといった能力が、そのまま物理的なものとして残ったのだろう。


「それって、いつ気付いたの?」

「草原で雪陽さんにハグしてもらった時です。生えている草に何気なく触ったらスッパリ切れたので、あらま、と思いました」

「あらま、じゃねーよ! とにかく、俺の腕を掴む右手を離せ!」

「力は自分自身でコントロールできるようになったので、安心してください!」


 割と本気で逃げようとする俺の腕を、フィリアが両手でがっちりと掴んだ。


「つまり、基本的には普通の指と変わらないってこと?」

「そうです」

「無意識下では?」

「それは、わかりません。もしかしたら発動しているかも……」

「これから、寝る時に俺に触れるの禁止な」

「ええーっ!? まだ、なにもしてないじゃないですか!」

「何か起こる前に気づけてよかったよ」


 んんー、と唸るフィリアだったが、何かに気がついたようで「あっ」と声を漏らした。


「左手ならば、何も問題ないじゃないですか」

「ん、まあ、そうなるな」

「それなら、場所を交代しましょう」


 そう言うと、フィリアはベッドから出て、左側にスペースを作った。


「雪陽さんは、左にずれてください」

「わざわざよくね? フィリアが右手で俺に触れなきゃいいだけの話だし」

「実は私真っ暗な所苦手で。神世界はいつも明るかったので、暗い所って慣れてないんです」


 子供かよ……


 仕方なく俺はのっそのっそとベッド上を移動して、右側にフィリアのスペースを作った。


「雪陽さんのそういうところ、私は嫌いじゃないですよ」

「どうも」

「……手、繋いでいいですか」

「そのために移動したんだろ」


 すると、掛け布団の中でフィリアの左手がもぞもぞと動き、俺の手を見つけて優しく握った。


 まさか、初日からこんな展開になるとはな……


 中々寝付けそうにない夜になることを覚悟して、俺は瞼を閉じた。




「ふぁんふぇ、おふぇふぁひひふぉんふぉふうひふぇふふぉ?」

「日本語で喋ってください」

「ごくん……なんで、俺たち日本語通じてるの?」

「日本語で喋ってるからです」

「いや、そうじゃなくて、なんでこの世界の人たちが日本語わかるの、って話」


 翌朝、俺たちは役場に隣接している食堂(昨夜は既に閉まっていた)で、朝食を食べていた。そこで遅まきながら気づいたのだ。


「雪陽さんが「一週間待ってくれ」なんて言って私を待たせた間、私もそれなりに頑張った、ってことです」

「というと?」

「一週間、私は日本より文化レベルが少々劣っていて、なおかつ日本語に酷似している言語を使用している世界を必死に探したんです」

「で、見つけたのがこの世界、と」

「ちなみに、日本語はこの世界ではガイア語と呼ばれています」


 もしかしたら、ガイアというのはこの国の名前なのかもしれない。


「ガイア語って日本語とどれくらい一緒なんだ?」

「一般的な単語はこちらにも存在しますが、歴史的な固有名詞、例えば織田信長とか、最近できた現代語、リア充とかそういうのはないです」

「じゃあ、日常会話は問題ないってことだな」

「雪陽さんがよっぽどネット中毒でない限りは、まず大丈夫です」

「いや、俺「草不可避」とか使わないから」


 朝はそれぞれ自宅で朝食を取る人が多いと思っていたのだが、食堂はかなり混んでおり、喧噪も大きくなってきた。


「食べ終わったし、一旦役場の方に戻ろう」

「そうしましょうか」


 俺たちはフードコートと同じく、お盆を返却口に運ぶと、役場の三階の宿泊室に戻った。


「今日はどうしましょう」

「まず、大きな流れとして、この町に住むのか、旅をするのかのどちらかだよな」

「ジェロックさんいい人でしたし、この町でもいいんじゃないでしょうか」


 確かに、市政に関わる人の人徳は大事ではあると思うが、だからといって、この町が治安のいい安全な町とは言えない。


「とりあえず、今日は町を見て回らないか? 一応俺たち観光客ってことになってるし」

「それはつまり、今日一日雪春さんと二人きりでデートということですね?」

「俺たち基本二人で行動するんだから、特別デートってわけでもないだろ」

「……もしかして雪陽さん、照れてるんですか?」


 フィリアが俺の顔を覗き込んでくる。慌てて顔を逸らしたが、遅かった。


「ちょっと赤くなってます! やっぱり照れてたんですね!」

「ああーっもう! とにかく行く準備をしろ!」


 恥ずかしさのあまり、ベッドに潜り込みたくなる衝動を感じながら、俺はスーツケースに荷物を詰め込むのだった。

追記:3月22日に一部修正しました。

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