第一話 家の前で美少女を拾ったのだが
最初は暗めですが、徐々に明るくなる予定なので。
帰り道、俺が住んでいるアパートの前に一人の少女が立っていた。
背からして、高校生ぐらいだろうか。俯いた顔は長い黒髪に隠れて見えない。
家出してきたのだろうか。それとも、もっと複雑な家庭の事情があるのだろうか。
だが、そんなことは関係ないと、俺は少女の横を通り過ぎてアパートの階段を上っていく。
鞄から鍵を取り出してカチャリと捻った。その時、
「……すいません!」
少女が誰かに向かって話しかけているようだった。俺は気にせずドアを開けて中に入ろうとした。
「すいません!」
少女が再び誰かを呼んだ。少し気になって振り向くと、道路に立っている少女とバッチリ目があってしまった。
「え、俺?」
「そうです」
正面から少女の顔がはっきりと見える。美少女という言葉がこれほど似合う人間はいるのだろうかと思ってしまうぐらいに綺麗で、それでいて可愛らしい顔立ちをしていた。
しかし、そんな容姿を台無しにしてしまうぐらいに、少女は怯え、憔悴した顔をしていた。
「一つお願いがあるのですが、聞いてもらえませんか?」
「金なら持ってないぞ」
俺の言葉に少女は首を横に振った。
「一晩でいいんです、家に泊めてもらえないでしょうか?」
ほら、やっぱりだよ、家出少女。最近、ネットの掲示板で何回も目にしたことがあるやつだ。
この先の展開を俺は知っている。おそらく援助交際というやつだ。
「無理だ。家狭いし」
「大丈夫です、雨風を凌げるようなところでしたらどこでもいいんです」
少女が怯えた目をしながら、上目遣いで二階の俺を見る。
「雨風を凌ぐなら、駅でも漫画喫茶でもそこらにたくさんあるだろ」
我ながら冷たい言葉だとは分かっている。でも、ここでオッケーを出せば、絶対に面倒事に巻き込まれると思った。
「お金、ないんです……」
少女がポツリと呟いた。目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「とにかく、家出なら早く家に帰れば。親だって心配してるだろ」
俺が何気なく放った言葉。だが、それは軽く受け流されることはなかった。
「親はここにはいません……」
少女が少し俯いて、またポツリと言った。
「家は?」
「ないです……」
少女は既に泣いていた。
いたたまれないこの空気に耐えることが出来ず、俺は涙を流し続ける少女から目を逸らすと、逃げるように再びドアに手をかけた。
「待ってください、お願いします!」
少女が声を上げて俺を呼び止めた。もう一度少女の方を振り向くと、縋り付くような目がこちらをまっすぐに見つめ、そして、喉の先から絞り出すような声でこう言った。
「なんでもしますから!お願いです、一晩家に泊めてください……」
追記:3月4日に改稿しました。