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“ハイエナ”のデスクに調査報告が次々とプリントアウトされていく。
その気になれば“ハイエナ”はこの区画内で起こった事の全てを調べあげる事が出来る。
誰が、今朝何を喰って何を残したまで。
…あくまでも『その気になれば』の話だが。
調査報告にざっと目を通し、つまらなそうに鼻をならす。
そのまま俺の方へ調査報告をよこした。
「つまらない話ですよ、何か裏があるのかと思えば…」
渡された報告書を読み進める。
そいつはただのチンピラで
どこかの組織の後ろ盾があるわけでもなく
まとまったクレジットを手っ取り早く手に入れる
それだけの為に
“子猫”を…
「…お前にはつまらないかもしれないがな」
とりあえず狙う的は判った。
「解りませんねぇ“オーガ”」
「なにがだ?」
「貴方と“子猫”どれだけの関わりだというんです?」
心底、理解し難いといった感じだ。
「血縁でも無い、恋人という訳でも無い、単なる仕事仲間の一人でしかない…他の仕事仲間の為に貴方がそこまでした事は無いでしょう?……貴方にとって“子猫”とは何だったのです?」
何だった?と“ハイエナ”は言う
過去形で…
「……そうだな…“子猫”は…」
“子猫”は
「……俺の晴れた空だ」
「…これはこれは!“怪物オーガ”が詩人の魂を持っていたとは」
“ハイエナ”は名前通りの下劣な笑い声を上げた。
「…で?その後はどうするんです?」
「その後?」
「貴方はそのつまらない男を片付ける、で?その後ですよ」
「…その後か」
その後、俺は
「…地上に出る」
「ハ!面白いですな、第六階層すら誰も行った事が無いのに?“子猫”を背負って?」
そこまで義理は無いでしょう、と“ハイエナ”は言う。
俺は奴を正面に見据えた
「…お前は知っているだろう?上へ昇る道を……お前はここの生まれじゃあない、それくらいは俺にも解る」
「…おやバレましたか」
「お前は何処から来た?」
「第四階層から」
「な…!?」
「人間の住む最上階層、それが第四です、ちなみに第三は資材置場、第二から上は放射能汚染でね…誰も直に空を見た者はいません」
俺は報告書を手に立ち上がった。
「…抱いてもいない女にそこまでしますかねぇ?」
「“ハイエナ”…お前は糞野郎だ」
奴が腹を抱えて笑い
俺は奴に背を向ける。
「“オーガ”!」
“ハイエナ”が俺に向かって鍵を投げつけた。
「第四倉庫、知ってますね?」
誰も入った事の無い“ハイエナ”所有の第四倉庫の鍵…
「中に第三階層までいけるエレベーターがあります。そこから先は自力でどうぞ……それから大昔の簡易冷凍睡眠装置があります、古くてまともには使えないでしょうが“子猫”を運ぶには充分」
「お前…」
「…なにしろ遠いですからねぇ地上は、背負って行ったら“子猫”が腐りますよ?」
「……やっぱり糞野郎だお前は」
部屋を出て
まずは簡易冷凍睡眠装置とやらを取りに行こう。
チンピラの始末はその後だ…