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あれから半年が過ぎた。
その間俺は二回ほど仕事をこなした。
仕事量が少ないと感じるかもしれないが、倹しく暮らせば充分な稼ぎだし…
なにより精神衛生上、“ハイエナ”の顔を拝むのは極力減らすに限る。
俺とは逆に“子猫”は頻繁に仕事を請け、掃除屋の腕を上げていた。
時折、俺の部屋に上がり込んでくる。
そういう時は大抵、酒に酔いひとの部屋を荒らし大声で笑い、
……最後には泣きだす。
掃除屋は嫌な仕事だ、まとまったクレジットを稼げる代わりに、まるで坂道を裸で転がった様に心が擦り切れる。
擦り傷だらけの“子猫”を抱き寄せ、赤子をあやす様に頭を撫でながら……
……泣き止み眠りにつくまで昔話なんかをしてやる。
仕事で何があったのかは訊かない。
俺がしてきた事と似たり寄ったりだ、訊くまでも無い。
俺の様に不細工な面と人工筋肉の塊なら『そんなのは屁でもない』ふりも楽だが
華奢な“子猫”の身体にはそれに見合った小柄な魂が入っている。
「…ね、“オーガ”」
「…なんだ?」
「ありがとね」
「…寝ろ」
「…抱こうとは思わないの?」
「…弱みに付け込む趣味は無いな」
「…ね、“オーガ”」
「なんだ?」
「…空って見た事ある?」
「…空?」
「空は青いんだって…見てみたいな」
第七階層は地下最下層だ。
第六階層に上がった者の話は聞いた事が無い。
「…いつか見れるかもな」
「ホント!?」
「……もう寝ろ」
“子猫”の心の擦り傷を、俺が肩代わりしてほんの少し擦りむいて。
泣き疲れ話し疲れた“子猫”を寝かしつけた…