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分厚い扉を開け、薄暗い部屋に足を踏みいれた。
「コートをそこにかけてから入って下さいよ」
奥から聞こえる声に思わず鼻を鳴らす。
それくらいは弁えているつもりだ。
「ケーブルは踏まない様にお願いしますよ」
…まただ、こいつはひとを見た目そのままに扱いやがる。
「…ここに来るのは久しぶりですね、どうしました“オーガ”貴方がクレジットに困るとも思えませんけど?」
幾つもあるモニターの前に陣取り両の手で別々のキーボードを叩きながら“ハイエナ”は言った。
「…忙しいのは解るが、まずこっちを向いたらどうだ?」
「これは失礼」
そう言うとくるりと椅子を回しながら、パチリと指を鳴らす。
センサーが反応して部屋が明るくなった。
革張りの椅子にカカシの様な男が踏ん反り返っている。
この男は“ハイエナ”
女にも間違えられそうな童顔に真ん丸なミラーグラスをかけて、耳まで裂けている様な嫌な笑いを始終浮かべている。
「…まぁお座り下さい」
やっと気が付いた様に席をすすめる。
…わざとだ。
この男は来客をいつも値踏みする。
薦められないうちにソファーに座る様な奴が、後々どうなったのかは…まぁ言わないでおこう。
自分自身は慇懃無礼なくせに他人の礼儀に容赦しない。
それが“ハイエナ”だった。
困った事に、この男が俺達の掃除仕事を仲介している。
「…何か仕事は無いか?安いものでいい」
俺は座ると早々に切り出した。
「金欠ですか?珍しい」
「俺じゃ無ぇ、仕事仲間がだ…新人だからな」
「あぁ、左様で…うっかり使い過ぎますからねぇ新人は」
訳知り顔で相槌を打つ。
口許をニヤつかせながら。
そのくせミラーグラスの奥、こちらから見えない眼はきっと笑ってないのだろう。
キーボードを片手で叩きデータを覗き込む。
「あぁ、新人は…“子猫”ですね?かわいいコだ、世話も焼きたくなる、解ります」
「仕事を見繕っているかと思えば…さっさとしろ」
このカカシ野郎とは一生ソリが合わなそうだ…