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馴染みの屋台に潜り込み、フードを取って剃り上げた頭を掻く。
「…いつものクズメシ」
屋台のオヤジが欠けた丼にゴソリと湯気の立つクズメシを盛る。
拉麺、米、麦、豆腐に練り物、肉の切れ端や野菜屑…
それらをごった煮にした代物。
オヤジがよそった丼に揚げ玉をかけて前に押し出す。
安上がりに済ますにはこれが一番だ。
ひとくち目を口に運んだその時、後ろから声をかけられた。
「“オーガ”ここにいたんだ」
“子猫”だ。
俺と同じ区画の、俺と同じ『掃除屋』。
掃除屋の仕事は区画内に入り込んだ害獣を狩ったり、面倒事を始末したり…
…まぁ…そんな仕事だ。
仕事の度に組む面子は変わるし、たった一度の仕事で御陀仏…そんな奴も多い。
“子猫”とはこの間仕事で知り合った。
「…美味しいの?ソレ」
猫科の遺伝子ゆかりの縦長の瞳で覗き込み、鼻をひくつかせる。
「オヤジ、もう一つ追加だ」
「えぇ!?…ぃいよぅ、お腹空いて無いし」
途端に“子猫”の腹が鳴る。
手持ちが無かったんだろう。
俺達の仕事は定期的にあるもんでもない。
一度にクレジットを稼げるが、次の仕事まで使い切らない工夫が必要だ。
「…奢ってやる、喰え」
気恥ずかしそうに赤らめた顔で俺を見て…
屈託の無い笑顔を見せた。
思わず口許が緩みそうになる。
しかめっ面をしてそっぽを向いた。
「へへ、ゴチになりまぁす!」
そう言って俺より先にクズメシを掻っ込み…
「!!あふぁふァチアチッ!」
「猫舌だろうが…ゆっくり喰え」
「ぇへへ」
俺は暫く無言でクズメシを口に運ぶ。
その間にも“子猫”は俺にとりとめもなく話しかけ、俺の仏頂面を覗き込む。無邪気な微笑みを浮かべて。
……何を期待してるんだ俺は?
“子猫”はこの前のが初仕事だったという。
対して俺は掃除屋を長く続けている。
新人の“子猫”が古株と仲良くしておこうと考える。
それだけの事だ。この微笑みに他の意味は…無い。
「けっこうイケるねコレ」
「タダならなんでもうまいモンだ」
「そゆコト言ってぇ、ホントに美味しいってば」
“子猫”が汗を拭きながらクズメシを掻き込んでいく。
よほど腹が減っていたんだろう。
「クレジットの無駄遣いはしない事だ」
「うん、失敗したよ次の仕事までこんなに長く間が空くなんてね」
それからまたとりとめもない話を始めた。
俺はいつもよりゆっくりと飯を喰う事で…
“子猫”の話を引き延ばし、勘違いしそうなその笑顔を横目で楽しむ事にした。