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槍の英雄


「ばっかじゃないの!?ばっかじゃないのばかじゃないの!?」


 連日我が家にエサを強請りに来るチ…パニカさんに罵られる。そのあまりの言い草にさすがにムッときてパ二カさんのホットケーキを数切れ奪う。パ二カさんは一瞬唖然としたが慈愛の籠ったやさしい目をしながら私の皿に数枚のホットケーキの切れ端を乗せてきた。違う。そうじゃない。私は食いしん坊じゃないしそもそもそのホットケーキは私のポイントで買ったものだ。その仕方ないなぁという目をやめてほしい。


 実はこのパ二カさん。我が家のお隣さんだったのだ。私の家はかなり高台に位置するのだが大通りまで降りる階段の途中にパ二カさんの家が存在する。我が家から徒歩1分の距離である。ゆえにここ数日必ず朝食を強請りに来るのだが、私は未だダンジョンに入らず修行の日々なのでポイントが減るばかり。なのでやんわり注意したらパ二カさんは聞くも涙語るも涙な事情をポツポツ教えてくれた。パ二カさんはあの『あなたの魔法属性調べ魔晶石』を買って膝を折った一人だった。もうこの時点で初期費用半分。チェッカーと魔法書と杖とローブ、それに日用品と替えの服で残り4万程度。焦ってダンジョンに入るが魔法が発動しないし怖いしで逃亡。ヤケ酒でポイント0である。たった一日で0になった。『調べ魔晶石』の部分を『様々な武器』に置き換えると私と境遇が似ていて、端的に言うと絆されてしまった。ゆえに朝食ぐらいならと提供する流れになったのである。パ二カさんはパ二カさんで餌付けに思うところがあったのか、積極的に私に攻略情報や知識を教えてくれるようになった。その結果私のゆるふわな考えが露呈してたまに罵られる、という顛末である。


 あの全裸男バッカスが率いる『攻略組』がダンジョンの第9階層までクリアした、という話をしていたパ二カさんに私は疑問をぶつけたのだ。ほどほどに生活できるくらいの稼ぎがあるなら別に下まで降りなくていいんじゃないの?と。そして先ほどの罵倒と相成った。



「シア。いや、もはやシアちゃんだわ。いい?良く聞いて。あなたがヤレヤレ系無気力主人公だとは思ってないわ。ただの無知なド天然だと思ってる。じゃあ教えるわよ?なぜ人はダンジョンを攻略するのか」


 すこく優しい声で説明されてる。遺憾である。


「本当は、そこにダンジョンがあるからとか、浪漫だからと言いたいわ。でもパ二カぐっと堪える。答えはシンプルよ?稼げるから。下に行くほどポイント稼げるのよ。わかってるわよシアちゃん。じゃあ何故必要以上に稼ぐのか。シアちゃん。まずは石版を呼び出して。そう。商品ジャンルの特殊を押すの」


 高額商品が沢山出てきた。スキルとかもある。知らなかった。


「シアちゃんは知らないと思ったわ。ふふ、良いぐぬぬ顔ね。シアちゃんらしさが出てる良いぐぬぬよ」


 良いぐぬぬって何だ。謎のテンションに入ったパ二カさんをスルーして商品リストを流し読みしてみる。大質量保存可能な『マジックバック』やどこでも展開可能な『異次元コテージ』等の有用な魔導具、本来先天的にしか手に入らない『鑑定』や『成長促進』などのスキル、伝説の武具等々。どれも必要ポイントがとんでもないが有用極まりない。欲しいのがいくつか出てきた。そして皆が狙ってるであろう商品をみつけた。『あなただけの固有スキルを与え魔晶石』これがもしかしてかの有名なチートスキルとかいうやつなのだろうと予想する。


「今良い目をしてるわ。シアちゃん。冒険者の目をしてる」


 今日のパ二カ先生とんでもなくうざい。






 朝食を食べて少しお話した後は街の外の草原へ。これがここ数日続く私とパ二カさんのルーチンになっている。パ二カさんは一時的にだが訓練場出禁になっていて訓練場所を探していた。私は人ごみが苦手なので割と混んでる訓練場を避けて草原に行く。となると自然に2人で草原に行きましょうかという事になる。私は魔法の強化と『身体強化』を手に入れるために水晶をふよふよ浮かせながら走ったり転がったりして、パ二カさんはたまに自分の『雷魔法』をくらって気絶したりしてる。

 パ二カさんは今でこそ気絶で済んでいるが初日はいきなり死んだのだ。眩い光と共に10メートル範囲の草花と自分を雷で焼き払った。黒コゲになって消えたパ二カさんをみて私は恐慌状態になってぼろぼろ泣いた。黒焦げ死体はショッキング過ぎた。数十分後ケロッとして街から歩いてきたパ二カさんは靴と靴下とパンツを失っていた。服は雷耐性の高いものらしいがその他は自分含め雷に焼かれたらしい。それ装備として意味はあるのかと2人で笑いあった。


「ぴーよぴよ。ぴぴぴぴぴーよぴよ」


 パ二カさんが集中してる時の鳴き声だ。2人とも魔導持ち。お互い魔力の感覚について話し合った結果ある程度自爆問題が解決したのだ。魔力操作を必要とするいわゆる詠唱魔法と魔導を必要とする原初魔法。この二つはプロセスもルールも全く違う。詠唱魔法はまず体内で魔力を魔法陣に変換し、詠唱によって魔法陣に魔力の使い方を書き込んで発動させる。一方原初魔法は体外に発露させた魔力を属性そのものに変化させ操作する。パ二カさんは魔法書で詠唱魔法のやり方を学んでしまったために体の中の魔力を全て雷にして自爆したのだ。もし私が詠唱魔法を使おうとしたら体の中に沢山の水晶が生まれて四肢爆散する可能性が高い。威力と発動速度、自由度に優れているがこの扱いにくさが原初魔法のデメリットと呼べる。


 そんなわけでコツを掴んでいた私がパ二カさんにイメージを懇切丁寧に教え込んだ。まず、体を引き千切るんだよ、と。そして丸めて固めて、かわいいペットにするんだよ、と。戦慄した表情で頭おかしいと言われたのが印象的だった。でもそれでコツを掴んだようで何度か杖の先に雷玉を纏うのに成功したのだから私を褒めてほしい。ちなみにパ二カさんの魔法イメージは空飛ぶヒヨコに自分の体を食べさせて太らせた後に丸めて固める、だった。そっちの方が猟奇的だと思う。


「ピヨ!!!!」


 魔女っ娘ステッキの先に雷玉が出来た。飛ばないけどひとまず成功と言えるだろう。でもステッキを持っていない方の手で横ピースするの何でだ。



 花畑にシートを敷いてお昼ご飯。見よう見真似で作ったサンドイッチっぽいものと卵焼き。ポイント節約のために自炊を始めた。そしてちゃっかりパ二カさんも座ってる。そしてお約束の如くお腹すいたの宣言。はぁ、と溜め息をはいてバッグから取り出した小皿に料理を半分盛りつける。念のために多めに作ってきたが正解だった。パ二カさんは色々な部活に入っているから一緒に過ごすのは昼過ぎまでだが、そのうち夕飯時も現れるのではないか。懐かれたのかなんなのか、何れにせよ最近育児をしている感覚である。ニッコニコ笑顔で悪くないわね!と言いながらサンドイッチを頬張る女児を見ると毒気を抜かれてしまうのであるが。


「あ~侯爵令嬢になりたいわぁ~。婚約破棄されて復讐したいの~」


 また訳の分からない事言い出した。ごろごろ寝転がった後ブリッジ状態になってパ二カ語を呟いてる。なぜ婚約を破棄されたいのかがサッパリ分からなくて首を傾げる。それは恋人に振られるという事だろう。侯爵令嬢というのはたしか貴族のお嬢様だ。お金持ちになりたいというのはまだ分かる。パ二カさんが侯爵令嬢。チクリン侯爵家だろうか。語呂が良すぎる。


『わたくしはチクリン侯爵家が第一子、チン・チクリンですわ!!』


「ぶふっ!」


 紅茶噴いた。パ二カさんはびくっとした後困惑したままハンカチを貸してくれた。ありがとう。ごめん。ちょっと待って。ツボ入った。







「とうとうこの日がやってきたわ。長い長い道程だった。いつもこの日を夢見てた。地獄の淵で後悔するといいわ骨野郎スケルトン。あなたは復讐に狂う2匹の鬼を作ってしまったのよ。行きましょうシア。怨敵を討ちに。」


「行きましょうパニカさん。殲滅しましょう。消し去りましょう。膝を折らせて命乞いさせましょう。必ず怨敵を討ち滅ぼす。きっと私たちは今日この日のために生まれてきたんです。」


 ダンジョン神殿の入り口を睨みながら気合をいれる。かつて私はスケルトンから逃げ出した。パ二カさんも逃げ出した。その経験は心に深い傷を残している。復讐を果たし、弱い心と決別せねばなるまい。ずっとずっと魔法の修行を続けてきた。ずっとと言いつつまだ一週間も経ってないがそこは置いておく。気合十分だ。燃え上がるパ二カさんにつられて中二台詞吐いてしまったが気にしない。顔が熱いが気にしない。私は時の狭間の観測者ではない。ただの一匹の復讐鬼。周囲の転移者達から複雑な視線が飛び交うが、もう私達は止まらないのだ。必ず生きて帰ってくる事を誓い颯爽と歩き出す。



 こつんこつんと足音が鳴る。石の煉瓦で作られた無限の通路。点々と灯る松明だけでは視界が良好とは言えない。どこまでも続くかのような深い闇が恐怖を誘う。進んだら帰ってこれないと錯覚させられ、一瞬足を止めるが頭を振って気持ちを切り替る。『索敵』で私達以外の気配を読むことに集中。パ二カさんは『聞き耳』スキルで聴覚を強化し音を探る。長いエルフ耳の裏に右手をあてて左手は腰においてる。体操のお兄さんが耳を澄ますポーズのままとことこ着いてくる。その姿がなんだか間抜けで気が抜けてしまう。表情は真剣なので突っ込みづらい。


「右の通路の先、多分一匹です」

「ん?どれどれ」


 パ二カさんが両手で耳を澄ます。


「……クククッ。いたわ。怨敵よ。奴らはカシャカシャ音が鳴る」


 舌なめずりしてるパ二カさんを連れて静かに近づく。一応『気配遮断』を使っているが効果があるのは私だけだ。複数で行動すると意味がないが念のためである。こそこそ作戦を練る。私が撹乱してパ二カさんが攻撃。完。私の魔法はただの遅い投擲なので殺傷力が低いが連射可能。パ二カさんの魔法はまだ飛ばないけれど威力が高い。ステッキの先に雷玉を作って直に押し付けるのだ。高威力のスタンガン、それがパニカさんの魔法。



 やがて視線の先に槍を肩にのせる一匹の黒いスケルトン。階段で段差がある高台からこちらを見下ろしてじっとしている。圧倒的な強者の風格。接敵を誤ったかと思ったがもう遅い。既に見つかってしまっている。深く息を吐いて覚悟を決める。


 「おいで」


 3つの水晶を召還してゆっくり距離を縮める。


 「ぴよ」


 後方でパニカさんのスタンガン。ステッキの先に丸い雷。ヂヂヂと音が鳴る。


 スケルトンは右腕のみで槍を回転させながら悠然と階段を降りてくる。達人、とはこういうものだろうか、素人目にも隙が無いように見える。初戦は激闘。まるで冒険小説のような展開じゃないか。物語の主人公はピンチになると奇跡が起きて勝利する。覚醒したり、他の仲間が駆け付けたり。そんな展開をついつい期待してしまい苦笑いする。これは現実リアルだ。せっかくの異世界だ、奮闘しよう。


 この強者に勝ったら勝利を誇ろう。負けたら経験を糧にしよう。そう、思っていた。強者が階段を転げ落ちてくるまでは。


「「………」」


 丁度足元に強者の頭があったのでえいやっと踏んだら簡単に粉々になった。


「解せない…」


 パニカさんの呟きが耳に残った。



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