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ロリエルフ(食用)



「おねーちゃ。あたしね、お腹すいたの。」


 ふと目を覚ませば目の前に女児。ぼんやりと思考を開始する。そうだ、この子は昨日チンピラさんに託された子だ。たしか結局あの後もずっと起きなかったので寝室のベッドに放り込んだはずだ。そして私は居間のソファに寝た。薄緑色の肩ぐらいまでの髪と同色の瞳、白い肌に長い耳。エルフだ。これがかの界隈で有名なロリエルフか。かわいい。


「寝なおさないで!おねーちゃ!おきて!」


 のそりと身を起こして再度女児に目線を合わす。右手をお腹に充てて左手の人差し指をくわえている。全身であたしお腹が空いてますスタイルを決めてる。涙目上目使いをちらっちらっしてるのが非常にあざとい。しかもこの子朝風呂したみたいで髪が少し湿ってる。凄い。この子にとっては目覚めたら知らない部屋で一階に知らない人がいる状況の筈なのに、一切取り乱さず冷静に知らない人の家で朝風呂して朝ご飯強請ってくる。感服した。


「おはよう、ございます」

「おはよ!おねーちゃ!!」


 にこにこと笑顔満開、といった様子でダイニングテーブルまでとっとこ着いてくる。うん。無邪気で可愛く見える。でも事前情報をチンピラさんから教わったし寝言で主任(?)の悪口を延々言ってたので騙されない。朝起きたら幼女っぽく振る舞って朝食を強請ってくるぞ、とチンピラさんが教えてくれた予想通りの展開である。そしたら窓から放り投げろとまで言われてるが私は非力なので無理そうだ。まあいいか、と石版通販を呼び出す。せっかくの初めてのお客さんだ。ご注文は何にしますかと問うと元気いっぱいにホットケーキ!と返ってきた。別に猫被らなくてもいいのにと苦笑いを隠しながら2人分のホットケーキを出した。







「でね!結局地下訓練場から出禁喰らったのよ酷くない!?たかが8人教会に送っただけじゃない!別にわざとじゃないのにあの胸部平原女め!初心者なんだから魔法制御できないのが当たり前なのに狭量だと思わない!?何なのよ何なのよ!!その自爆魔法をなんとかするまで戻ってくるなってポイって捨てられたのよ!?ただの不幸な事故なのに温情無しなの鬼畜だわー!鬼畜集団だわマギカの奴ら!ねぇーシアー奴らに天誅しにいこうよー石投げにいこーよー根も葉もない噂流しに行こうよー」


 めっちゃ喋るこの子。やっぱり猫被ってていいのにと苦笑いが留まるところを知らない。チンピラさんから預かった経緯を伝えるとあっさり素を出したのだ。ばりぼりクッキーを限界まで頬張りながら喋り続けてる。発言の意味さえ考えなければ微笑ましい図なので割と聞き流しながら眺めてる。ちなみにこのクッキーも強請られた。


「パ二カさん、紅茶のおかわりは要りますか?」

「頂くわ。ねぇシア、別に敬語使わなくていいのよ?あとさん付けじゃなくて様付を許すわ」

「砂糖は一つでいいですか?パ二カさん」

「おぅっふ、儚げな見た目に反してクールだわ」


 シャイで人見知りな私が割とスムーズに会話できてる事に内心驚いていた。たぶんこのパ二カさんの人柄によるものだろう。一切の遠慮無く思ったままの言葉をポンポンぶつけてくるので、ついこちらも反射で思ったままの言葉を返してしまう。談笑、とはこういうものなのだろう。頬が緩むのを感じる。前の世界ではあまりこういう経験はない。話の合間にぼろぼろこぼれたクッキーの滓を拭いてあげる。

 無事クッキーを殲滅したパ二カさんは、借りるわね、とおもむろにスキル図鑑を読み始めた。自由である。暇になった私はその場で天魔法の練習を始める。ふわっと空中に現れるハンドボールくらいの大きさの水晶。数は頑張って最大3個。昨日色々調べた結果、この淡く光る水晶はただの光る水晶でしかない。何かに当たると爆発するという事もなく、木に当てるとゴッという音と多少の打撃痕を残して地面に落ちた後消える。完全にただの投擲。しかも遅いのだ。今のところただ綺麗で室内でも安全なメルヘンかつガーリィな魔法だ。ふよふよと室内を徘徊させる。


「て、何よそれ!!えっ!?氷じゃないよね?何魔法なん!?」

「天らしいです」

「はあー!?何そのチート属性な響き!!頭捻じれるほど羨ましいんですけど!でも!残念だったわね!特別はあんただけなんて勘違いしちゃだめ!あたしだって『魔導』っていうチート持ってんだから!!!ふっふーん!」

「私も『魔導』持ってますよ」

「こんの!チートにゃろう!!!!!!」


 女児が飛びかかってきた。華麗に避けたらパ二カさんはボフッとソファに弾かれたあと空中大回転を経て床に落ちた。その後微動だにしない。心配になって様子を窺ってみたら気絶していた。何でこの人こんなにコミカルなんだろう。私の家に静寂が舞い戻ったのでそのまま魔法練習を続けた。








 街の広場は今日も大盛況だった。芝生にシートを敷いてパンを食べてる人や噴水で水浴びしているマーメイドっぽい人がいたりと、昨日と打って変わって今日はどことなくのんびりとした雰囲気だ。忙しそうにしてるのは生徒会の人たちだけのようで、バタバタと掲示板に紙を張り付けている。ここへは別にダンジョンに潜りに来たのではなくパ二カさんに連れられて来たのだ。お昼ご飯を奢ってくれるらしい。チンピラさんの話では全然ポイント無いと聞いてるので不思議に思いながらパ二カさんの顔を窺う。ウインクされた。動きがどことなく昭和である。


 ちょっとだけ離れて着いてきて、と言われたのでとことこ歩くパ二カさんをそっと尾行していたら謎の串焼き屋台に着いた。


「おにいちゃ。あたしね、お腹すいたの」


 右手をお腹に充てて左手の人差し指をくわえている。全身であたしお腹が空いてますスタイルを決めて、涙目上目使いをちらっちらっしてる。これどっかで見た。あ、今朝同じの見てた。串焼きを売ってる男性はそれを見て顔を顰めた後溜め息を吐く。


「お前どんだけ精神図太いんだよ…。昨日なんか二時間おきに来やがって…」

「あたしね、泣いちゃう」

「よせよせよせ!分かったから!クソっ…ほら見ろ!お前の本性まだ知らねえ奴が俺に白い眼むけてきやがる!!やるから!多めにやるから頼むからもう来んな!!」


 店員さんかわいそう。半泣きである。交渉の結果串焼きを手に入れたパ二カさんが会心のドヤ顔を浮かべながらてってこ帰ってきた。中身はどうあれ姿は女児。衆目の良心を利用する実に効果的な交渉であった。多大な罪悪感を感じながらも食べた串焼きはとても美味しかった。そしてパ二カさん。暴走状態である。一店舗で満足しない。


「おねいちゃ。お腹すいたの。しんじゃう」

「アンタさっき隣の店で肉食ってたじゃないの!!!!!!!」

「ふぇ………」


 という流れで数店舗巡り屋台という屋台から食べ物を巻き上げてく。大変気まずい思いをしながら着いていくと店の人に泣きつかれたりした。このロリをどうにかしてくれ、と。私も注意したいところだがにっこにこと満面の笑みで食べ物をくれるパ二カさんがなんだか嬉しそうで注意がし辛い。ロリエルフずるい。噴水のヘリに座ってもぐもぐ色んなものを食べて大変幸せな気持ちになったがこの幸せは他人の不幸から作られている。複雑な気持ちで大判焼きを食べていたらこちらに向かって黒服の男性が駆けてきた。


「見つけたぞクソチビがぁ!!!!!!!!」

「ぴぃっ!!!!」


 チンピラさん登場である。ちなみにこの悲鳴は私だ。チンピラさんの顔が怖い。


「どうしたのよ邪神みたいな顔して。種族邪神だっけ?」

「誰が邪神じゃボケナスが!!!お前食堂で何してんだよ!!一度も入ってねぇ食堂で何で俺まで出禁になってんだ!ホントに何したんだよ腐れドチビ!!俺もう泣くぞ!!」

「うっさいわね!!!いきなり来て訳わかんないこと喚かないでよ!!!!ヤバい薬売るだけじゃ飽き足らず使い始めたんじゃないの!?お縄についてよ!!」

「売ってねーよ!!!どうせ売るならロリエルフ(食用)としてテメェを屋台に売りさばいて小銭儲けたるわロリババア!!!!!!」



 突然始まる罵り合い。そういえば仲が悪いって言ってた。というかチンピラさんがいつも被害を受けているような印象である。加熱する舌戦。私は空気を読んで次の大判焼きに取り掛かる。徐々に野次馬が集まってきたので私はそっと気配遮断を使用した。私は影。大判焼きを食べ続けるただの影。事態に気づいた生徒会ブースから書記の人がやってきたが、またチン兄妹か、と呟いて帰って行った。えっ、止めないの!?兄妹?


「名が体を表し過ぎなのよチン・ピラー!!!!!!!」

「ブーメラン刺さってんぞチン・チクリン!!!!!!」



 パ二カさんはパ二カさんじゃなく、チンチクリンさんだったようだ。私はアムネシアでよかったと胸を撫で下ろした。




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