私もついでに召されるのか
「聞け!!転移者諸君!我が同法達よ!今日この日異世界転移という我々の悲願は達成された!しかしそれはただチケットを手に入れたに過ぎん!その先にある貴様らの真の願いを自覚せよ!声高らかに叫んでみせよ!」
『『『うおおおぉぉぉぉ!!!!!』』』
「聞け!!転移者諸君!貴様らの目が語っているぞ!俺tuee?いいだろう!異世界ハーレム?上等だ!強欲であれ!我らの進行を阻むものは全て力で捻じ伏せろ!今この時より我らは止まることを知らぬ悪鬼羅刹となろう!迷宮の化物共を蹂躙し!粉砕し!喰らい尽くして血肉に変えよ!命を欲望を糧に我らの行軍は何人たりとも止められぬ!しかし我らの動力は命だけか?欲望だけか?答えは貴様らの杯にある!!さぁ貴様ら答えを示す合言葉を高らかに歌い上げよ!!」
『『『『『乾・杯!!!!!!』』』』
なにあれ怖い。こそこそ草葉の陰から街の広場の様子をうかがっていたのだけど皆テンションが天元突破してる。近づけない。皆現代社会の檻の中でよっぽどストレスを溜めていたのだろう。夜のとばりが降りる頃、草原にいた人たちがいつの間にか街に入って来ていたのに気付いて情報収集目的含め誰かとお話しできないものかと夜の散歩に出てみたもののあまりの戦慄な光景に凍り付いてしまう。BBQしてる人や酒を飲み過ぎたのかぶっ倒れている人はまだ分かる。演説してる人、なぜ全裸なのか。あっ、ネクタイだけしてるから全裸じゃないのか。その周囲で叫びながら酒を飲んでる人たちも半裸が多い。確かに私も半日ほど全裸で過ごした。だが今はちゃんと服を着ているのだ。残念ながら仲間にはなれそうにないし混ざる勇気もない。こそこそ来た道を戻る。
この街は白くて四角い建物が積み重なるように作られている。建物と建物の間に高低差があるせいか至る所に細い階段があり迷いやすい。海外の写真で似たような街を見たような気がする。日が高い時は街全体が真っ白だったけれど、今は街灯の灯りが反射しているのかオレンジ色一色。至る所にある花が薄ぼんやりと光っていて綺麗。ファンタジー感があって楽しい。いや、いかん。光る花を見て綺麗などと思うメルヘンでガーリィな要素はいかん。私は止まることを知らぬ悪鬼羅刹。暴虐な死の行軍を続けるのだ。
頭を振って軽い洗脳を跳ね除ける。両腕で抱えている本と携帯電話並みに小さい石版が邪魔ですこし歩きにくい。この二つのアイテムは異世界で生きるために必要でなかなか高価だった。そして友達作りに最適だと思う。『スキル図鑑』と『スキルチェッカー』の二つ。この世界にはレベルやステータス等のお約束なものが無いかわりにスキルがある。チュートリアル島の期間限定サービスでスキルの成長率が数十倍アップ、という説明書きを思い出し強さの指針はそこにあるのではと思い至った。最初はぼんやりと石版通販で買っていくのかなと予想していたがQ&Aで間違いを正された。
Q スキルはどうやって覚えるんですか?
A 努力です。
Q スキルはどうやって強くするんですか?
A 努力です。
Q どんなスキルがありますか?
A 色々です。
もう神様めんどくさがってる。無駄な質問に気合入れ過ぎたんだよ。今度教会に甘いパンをお供えするからもうちょっと頑張ろうよ。ぶちぶち言いながら歩いていたら道に迷った。通路がぐねってるうえに建物と建物の屋上に橋が架かっていたり階段登ってるつもりでもいつの間にか階段降りてたりする何なのかと言いたい。偶然見つけた公園のベンチに座り込んで地図を見直す。ふと横に置いておいたスキルチェッカーを起動してみる。
名前:不明
種族:天人族
技能:気配遮断 1
索敵 1
スキルチェッカーと言いつつ名前と種族まで出るの何故だろう。もうこれステータスボードという名称でも過言じゃない。スキルは最初から二つ持っていた。こそこそしたり人を避けたりするのが昔から得意だったせいか適性が高いのだろうと思う。ちなみにこのアイテム、購入者専用というわけでは無く触れた人のスキルを調べることができる。つまりは、『あの、もう自分のスキルを調べてみました?あ、まだですか?これ使ってください。おぉ!沢山スキルもってますね!どんな効果なんでしょう。あ、そういえば偶然スキル図鑑を持っていたので一緒に調べてみましょうか』と見知らぬ人と仲良くすることができる。完璧である。これからおそらくモンスターと戦う日々が始まる。正直一人は怖い。ネットゲームじゃソロだったけれど現実でそれができるほど勇敢ではないのだ。三年間は死を回避できる、とは言っても痛みまでは防げないのではないか。…奮い立て私よ!迷宮に入らず生産の道もあろうが残念ながら私には物作りの才能はない。自分で自作した物を売って生活できるだけのお金を得るには時間と器用さと愛想の良さが必要なのだ。時間はあれど後者二つは無いと断言できる。やはり戦うのが手っ取り早い。稼がねば。
あまり考えないようにしていたこの天人族とかいう謎の種族。あまりファンタジーっぽくない。天使?なのだろうか。全裸仁王立ちの時から全身を見回していたけれど翼もなければ光輪もないまるっきりの人族だ。いつか息絶えた少年と犬を天に送るスキルでも生えるのだろうか。そのまま私も地上に帰れなくなるのではなかろうか。
もしかしたらこれが天使っぽい要素かな、と目星をつけてるのが今着ている服である。あの光の粒子となって消え去った白魔法使いといった感じの服。実はこれ全裸状態の時に『我に衣類を!』とふざけて叫んだら光の粒子が表れて出てきた。というか着てた。安っぽい魔女っ娘ものの変身シーンといった風情があり、いつか誰かに自慢したい。おそらくこの服は魔力で出来てる?的な?物のようだと納得した。広場の裸族達が脱いだ服は広範囲に散らばって落ちてたし。
さて、お家に帰ろう。全ては明日から。満点の星空の下てってこ歩く。この時の私はまだ知らなかった。明日の朝大いなる絶望に見舞われることを。
絶望した。地面に膝をついて項垂れる。庭に様々な武器が散らばっている。剣を振り上げれば後ろにコロコロ転がり斧を横薙ぎに振るえば大回転、槍で突けばつんのめって棒高跳びの如く宙を舞う。弓矢に至っては90℃横に飛ぶ。ボロボロである。非力すぎる。我こそは四天王最弱。ついでに言えば沢山の武器を無駄に買ったせいで石版通販のポイントもボロボロである。
転移当初 100・0000ポイント
現在 34・0500ポイント
がっつり減った。痛恨の極み。剣で転がった時点でムキになったのが敗因か。武器一本10万いくかいかないかくらいなの高すぎ問題。スキル図鑑は30万とかなり高価だったがあれは仕方ない必要経費だと思うがこれは完全に失敗した。このままではおまんま食い上げである。悲しい未来を想像して泣いた。
武器が駄目なら魔法はどうかと思い立つが魔法書は属性ごとに分かれていて、自分の属性以外は使えないものらしい。じゃあ私の属性は何なのか調べる方法はないものかと石版で探し、そして絶望であった。『あなたの魔法属性調べ魔晶石 50・0000ポイント』適当な名前すぎてイラッとした。魔法使い志望は初期費用の半分が持ってかれるやないかい。自分の属性分からないまま魔法書買っても無駄になるかもしれない、でもポイントないから属性わからない。戦わないとポイント得られない。武器まともに使えなくて戦えない。詰んだ。投了。ありがとうございました。先手、石版通販九段お得意の右四間飛車が猛威を振るい始終盤面を支配したまま110手目にて後手、半端ロリ七段の玉が逃げ切れず詰みとなりました。ありがとうございました。