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コルチ

「そういえば、その子の名前って何?」

遠くに小さく見える関所を目指して歩いていると、タントが聞いてきた。

「さあ。わからん。聞いてもわからないし」

「それじゃあ私の母国語でいう、かわいいって意味のプルクっていうのはどぅお、ね、プルク」

男の子は口を開けてタントを見ている。

「そんなペットじゃないんだから、しかもかわいいっていうのはかわいそうだ」

「ふーん。でもこの子とか少年とかって呼ぶの愛がない感じ。じゃあコルチっていうのはアリ?」

「コルチ? それにもなんか意味があるのか?」

「ふふふ、当ててみてよ」

そう言いながらタントは金髪のカツラをリュックから出して頭に被った。関所の門と白い塀や見張り塔が、さっきより大きく見えてくる。隣を見るとさっきまで黒の短髪だった男が、ギリギリ男っぽい金髪の女になった。タントはこの格好でここに来たのかと思うと少しゾっとした。

「それで、わかったあ?」

「は? ああ、いやわからん、友愛とかか?」

「残念。正解はワタシのパートナーだった人の名前でした」

「そ、そうか、いい名前だな」

タントの顔は笑っていたが、悲しそうな目をしていた。俺はこの目を見たことがある。あの夜に俺が袋で起きたことに気づいた祖父の目だった。沈黙に包まれる。こんな時俺は何を言えばいいのかわからない。三人の間に壁がある感じがした。タントは何でこんな話をしたのだろうか。この話の空気を変えようと俺は話題を考えた。

「あー。それでさっき言っていたフェニックスの尾って何?」

タントは鼻をすするって頭を振ってから前を向いた。もう目は普通になっていた。

「フェニックスの尾は手に取った者は無限に溢れる魔力に満ち溢れる。でも過剰な魔力に耐えられないとまず精神がやられて、白い光に包まれながら消滅する。だからホンデュミオンでは国宝として厳重に守られていたの。だけどあいつが出たのよ、忌まわしいあいつが」

「あいつ?」

「怪盗『ディース』。神出鬼没で狙ったものは何でも手に入れる。ディースが盗むときは必ず噂になる。誰が始まりかはわからないんだけどね。それでディースは普段より一層厳重な警備をくぐり抜けてフェニックスの尾を盗んだ。その夜ワタシも参加してたんだけど、兵の叫び声が聞こえて駆け付けた時にはもう尾はなくなっていたの」

タントは懐かしそうに話す。

「それで、なんでコルチがその盗まれた尾を持っているんだ」

「それがディースっていうのはすぐに宝を金に換えて市民にあげちゃうって話で、誰が持っていてもおかしくないのよ」

「ふーん、それじゃあコルチがディースっていうことはないのか」

「そうね。あっ、カバンを出す準備して、着いたから」

気が付くと関所の重厚なレンガ作りの門と、門の前に立っている兵士が見えた。兵士は槍と鎧を装備していて、顔は兜で見えない。

「そこの者たち。そこの線で止まって」

足もとに赤い線が引かれていた。塔の中から眼鏡をかけた女が出てきて近づいてきた。女はこちらを見ると顔が明るくなった。

「あら、タントじゃない、珍しーい」

「まあね、それでこの子が例の子っぽいの、アレ出してくれない?」

「うそ、この子がそうなの。わかった、ちょっと待っててね」

女は塔に走っていき、一枚の白い札のような紙を持って戻ってきた。そして女は屈んでコルチに紙を差し出した。

「これ、持ってくれない?」

コルチは恐る恐る紙に触れた。すると、白い紙は一瞬光ったかと思うと、紙は燃えた炭のように紅くなりすぐに紙の端に火が点いた。コルチは驚いた顔をして手を後ろに引いた。

「本物ね。それじゃ、よろしく頼むわよ」

眼鏡の女は兵に合図を出すと、兵は鉄の門を開けてくれた。

「さ、行くわよ」タントが言う。俺は兵に会釈をして関所を通り抜けた。しばらく歩いて後ろで門が閉まった音がすると、タントはガッツポーズしながら「よしっ、よしっ」と言っていた。

「さっきのは?」

「さっきの? ああ、白符ね、あの紙を持つとその人が持つ魔力の色や力がわかるのよ。さっきの炎がその証。あんなの見たことないわよ、いきなり火が点くなんて」

そういうものなのか。今まで魔術とかは知らない暮らしをしていたから、こういう話は聞いていて飽きない。魔術師は符か杖を使って魔術を使うらしい。

「あんたもやってみれば、何枚かもらったし」

タントは手袋をはめてから、さっきも見た白い紙を渡してきた。俺は紙を手に取って見つめる。何も変化しない。太陽にかざしてみるが、変化しない。隣でタントが手で口を覆ってた。笑いをこらえているようだった。

「おい、何も変わらないぞ」

「あはは、まあしかたないことよ、普通は訓練しないと魔力っていうのは身につかないんだから。せっかくだし、教えてあげようか」

「いいや。俺はそんなに興味ないし」

「ふーん。でもねぇ、相手が魔術を使ってきたら盾とか役にたたないわよ」

「え、そうなのか」

「やってみる? 少し痛いかもだけど」

「そうだな、ホンデュミオンの魔術師っていうところ見てみたいし」

「そう。んじゃ、そこに立って盾構えといて。コルチはこっちおいで」

タントはコルチを手招きして俺と距離をとる。俺は余裕そうにしているが、内心はそうでもなかった。

「いくよー」

タントが札のような紙を掲げて俺に投げた。すると、その札の周りが白く輝き、その輝きが集まり札はいつの間にか氷の塊になった。俺は迫る氷の塊を盾で防いだ、はずだった。俺は胸に重いパンチをくらったように後ろに吹っ飛ばされた。倒れたまま胸をさすると、冷たく氷の粒がついていた。

「だから言ったでしょー、盾は役にたたないって」

タントが遠から話しかける声がする。あの氷の塊が盾を貫通したのだろうが、盾には穴など開いておらず、氷の粒だけが俺の胸より多くついていた。

「ほら使いたくなったでしょ、使えるようになったらそんなの防げるんだけど」

タントが俺に近づきながら話しかけてくる。俺はある考えが頭の中にあった。

「もう一発頼む」

「え、何度やっても同じだって」

「次はコルチに打たせてみてほしい」

「え、あんたさっきのは手加減したからあんなので済んだのよ、コルチちゃんのは、そのたぶんやばいわよ」

「いいんだ、コルチの魔術を見たい」

「わかった、ワタシも見てみたいしね」

タントはまた俺から距離をとった。向こうでタントがコルチに教えてるように動いている。そして、コルチが俺の方を向いた、手には符を持っている。コルチは振りかぶり符を投げた。しかし、力が弱かったのか符はゆっくりと地面に落ちた。

「ごめーん。もう一回」

タントが落ちた符を取りにこちらに近づくと、落ちていた符から俺の背丈ほどある炎が上がり、炎の中から火でできた大きな真っ赤な鳥が俺の方に飛んできた。俺は予想していたより大きなものだったので動揺したが、火の鳥の横を間一髪ですり抜けた。振り返ると火の鳥は旋回して俺の方に向かってくる。

「ちょっとラカン伏せて!」

いつの間にか近くにいたタントが大きな声で言い、俺はその場にしゃがむと頭上に冷たいものが飛んだ、タントが符を投げていたのだ。符はすぐに氷の塊となり、火の鳥にぶつかった。しかし、火の鳥はびくともせずに、俺の方に向かってくる。

「とりあえず走って! ワタシが何とかするから」

俺は盾を置いて、火の鳥から逃げるように走った。背中にだんだんと熱が迫ってくる。コルチと初めて会った日が脳裏によぎる。

「おい、白符をくれ。考えがある」

タントは俺のしたいことをわかっているのかわからないが、走る俺の少し前に白符を投げた。俺は走りながら白符を拾う。白符は少し赤い色になっていた。俺は走りながら白符を火の鳥に投げた。すると、火の鳥の大きさが少し小さくなった気がした。やっぱりだ。白符が火の鳥の魔力を吸い取っている。俺は白符を投げ続けた。手持ちの白符が尽きたとき、火の鳥は俺の上半身ほどの大きさになった。火の鳥の速度は落ちたが、俺の走る速度も落ちてきた。

「タント! 残りの白符は」

「もうないわよ、それよりこっち来て!」

俺はタントの声がする方に走った。汗が目に入り目を閉じたが、声がした方に走る。

「飛べっ!」

タントがそう言うと同時に俺は前に倒れていた。もう、限界だった。息を切らしながら汗ばむ腕で目をこすってから目を開くと、倒れた俺の足元に氷山ができていた。

「よくやったわよーもう。白符使うなんてよく思いついたわね」

地面に手をつき立ち上がると、地面に白い粉で魔法陣のようなものが描かれていた。魔法陣から生える氷山の中心には黒く焦げた符があった。

「ほらー、コルチも心配してるわよ」

コルチが近くで俺を見つめていた。申し訳なさそうな顔をしていた。

「コルチさっきのすげーな、俺にも教えてよ」

俺はコルチに笑顔で言い氷山に抱き着いて、体から熱を移した。氷山の中心の符は、まだ熱いのだろうか。そう思いながら氷山が完全に溶けるまで俺は冷たさを楽しんでいた。

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