第63話 神の雫
しばらく静寂が辺りを包んでいたが、唐突に衝撃音が響いた。
『ガン!』
「!! 串刺しになっても死なないのか?!」
衝撃音は続き、ついには鉄の壁は崩壊する。
『ドガン!!』
鉄の壁には穴が開き、
そこから中にいる串刺しになり血だらけでこちらを見ているオーク。
その目は赤く光っていて、恐ろしいまでの威圧を感じていた。
「ワレハ、シナヌ……、オマエヲ、コロス、マデハ……」
鉄の壁に開いた穴に手をかけ、力を入れようとしたとき
俺は全力で、反撃した。
「俺は死なねぇよ! 【パイルドライバー】!」
血だらけのオークの足元から鉄の杭が、オークの体を貫く。
「ガッ!!」
腹から入った杭は、オークの脳天を貫き絶命させる。
「……【キャンセル】」
俺はすべての魔法を解除すると、鉄の杭や鉄の壁が消えると同時に
オークの巨体は、地面に崩れ落ちた。
「…このオークで最後ですわね」
グレースさんが、絵美さんに確認をとる。
「ええ、それと、国境の兵士たちの治療もあらかた終わりました」
「絵美さん、オークたちの死体はどうするんですか?」
「それは、兵士さんたちに任せましょう」
俺たちは、シャルたちの元へ行きそこにいた国境の兵士に話を聞いた。
「…それでは、西の森から攻めてきたと?」
兵士は、俺たちの質問に答えてくれた。
「そうです。この西にある森の深い場所には、魔物の国が在ると噂されています。
確かめたものはいませんが、このオークたちは確かに西の森から来ました。
ただ、数が30と少なかったために報告が遅れたようです。
しかし、これで騎士団が動くでしょうから西の森も平和になりますよ」
魔物の国……
本当にあるかは知らないが、オークが言葉を発したということは
ある程度知能が高い魔物がいるということ。
魔物の国が在るっていうのは、本当かもしれないな…
「でも、本当に助かりました。
とくに治療をしてくれた彼女たちには、お礼を言っておいてください」
そういうと兵士は、他の兵士たちの元へ戻っていった。
俺たちは、感謝の言葉を贈られるシャルたちを連れゴーレムバスに戻った。
「それじゃあ、出発するよ~」
俺の掛け声と同時に、ゴーレムバスを動かし出発する。
迷宮都市へ向かう車内では、再び雑談が始まっている。
「一条さん、オークの始末を
国境の兵士さんたちが引き受けてくれてよかったですね」
絵美さんが、安堵の表情をしている。
「ええ、でもあのオークはどうするんですかね?」
「あら、オークの肉は高く売れるのよ」
グレースさんが、軽く答えてくれる。
「…オークって、食べられたんですか?」
「あなた、冒険者をしているのでしょう?
なのに、オークの肉が高値で取引されていることを知らないなんて…」
グレースさんは、呆れ顔だ。
でも、俺の住んでいる町の周辺にはオークなんて出なかったからな…
あの町で食べる魔物肉と言えば、猪系のボアだったよな~
「グレースさん、オークの肉って美味しいですか?」
「エリーさん、その質問はこれから行く迷宮都市『ガルチャ』で
確認するといいですわよ。
迷宮都市には、オークの肉をはじめとした魔物肉を扱うお店がたくさんございますの。
中でも『ルーバン』というお店の魔物肉の料理が絶品と、
貴族の間では評判らしいですわ」
エリーとユニ、大きく開けた口を閉じなさい。女の子なんですよ?
それにアミとクロエも涎が出てるぞ?
顔色がよくない絵美さんに、俺は声をかける。
「絵美さん、もしかして酔いましたか?」
「え? ああ、いえ。勝さんのことが心配で……」
そういえば、俺たち絵美さんの依頼で迷宮都市へ向かっているんだったな。
車内の雑談で、すっかり忘れるところだった。
「ところで絵美さん、一つ聞いていいですか?」
「え? ええ、どうぞ…」
俺は、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。
「俺はずっと『勇者たち』の魔王討伐の理由が知りたかったんですが、
この間、絵美さんから教えてもらい
ようやく『勇者たち』が迷宮都市へ向かった理由がわかりましたよ」
絵美さんが、真剣に俺の言葉に耳を傾けている。
「『勇者たち』が迷宮都市に向かった理由って、
『エリクサー』を入手するためだったんですね?」
「! どうしてそれを…」
絵美さんが驚いてる…
「『エリクサー』ですって?!」
グレースさんも『エリクサー』は知っていたか…
「あの、恭也様。 『エリクサー』とは……」
俺が説明しようかと思ったら、グレースさんが説明を始めた。
「『エリクサー』別名『神の雫』。
それを飲めば、どんな病気や呪いもたちどころに治り、
傷口にかければ、手足を失おうとも再生する。
言い換えれば、死なない限り
『エリクサー』で治せないものはない、とまで言わせた代物ですわ」
シャルたちは驚きを隠せないでいた。
「先生、そんなものが存在するんですね…」
エリーは、特に驚いていた。
「でも、この『エリクサー』は迷宮でしか手に入れることができないんだよ」
絵美さんも、覚悟したのか話し始める。
「私たち『勇者』が魔王討伐に失敗して、王様のお孫さんの呪いが解けないことに
一番苦しんでいたのがリーダーだった生徒会長。
でも、王城の書庫で希望を見つけたの。
それが迷宮で手に入る『エリクサー』だったのよ。
私たち『勇者』は全員で集まって会議をしたわ、
でも会議することもなく全員一致で、迷宮都市で『エリクサー』を入手する。
そう決まったんだけど、問題は王様の許可が出るかどうか……」
「でも、あっさりと許可が出た…」
「ええ、始めは訝しんでいたけど貴族たちの態度で納得したわ。
そして、あの掲示板の張り紙を出して
私たちは迷宮都市へ旅立った…」
「でも、ずいぶん時間がかかりましたね。
あの張り紙から、何年もたっているでしょう…」
絵美さんは、俺の言葉に悔しそうな顔をして
「それは私たちの力不足が原因だもの、迷宮都市をなめていたわ。
でも何とか迷宮で見つけたのよ『エリクサー』を、でも……」
今度は俺が、悔しそうな顔をする番か…
「『デビルロード』ですか……」
「そう、そいつが目撃された場所こそ『エリクサー』を見つけた場所」
絵美さんと俺は、黙ってしまったがグレースさんが
「よくはわかりませんが、その『デビルロード』とやら
わたくしたちで、討伐はできなくとも封印してしまいましょう」
「……え?」
絵美さんの間の抜けた声が聞こえた。
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