第58話 勇者からの依頼 1
「あの、大野絵美さんでしたか?
『異世界人』のみんなを助けてくれって、
どういうことか最初から説明してくれますか?」
俺を訪ねてきた、大野勝君の婚約者の絵美さん。
いきなり『異世界人』を助けてほしいというが、どういうことなのか説明を求めた。
「えっと、最初からというのは…」
俺は絵美さんを鑑定して、称号にあるものを見つける。
「絵美さん、持っていますよね? 『勇者』の称号を。
だから、王様から何を頼まれたのかとか、魔王のこととかから聞かせてくれますか?」
絵美さんは、少し考えてから
「この部屋には私と恭也さん、それと…」
部屋の隅で座ってこちらの話を聞いていたジェシカさんを、絵美さんは見る。
「あ、私はジェシカと言います。
この町の冒険者ギルドの受付を、長年やらせてもらってます。
情報の秘匿は、承知していますから気にせずお話しください」
「えっと、大丈夫ですか?」
絵美さんが俺を見て確認するが、
「ジェシカさんなら大丈夫ですよ。信頼に値すると断言できますから」
「ならば、少し簡潔にお話しします。
まず、私たち18人の勇者は王様から
8人の魔王のうちの1人の討伐をお願いされました」
「ちょっと待って、魔王って8人もいるんですか?」
その答えは、絵美さんではなくジェシカさんが答えてくれた。
「そうよ恭也さん、今この世界には魔王は8人いるわよ。
でも、8人全員北の魔大陸に閉じ込められているはずだけど…」
「はい、私たちは魔大陸へ渡り魔王と対峙し敗れました。
敗れた後は、魔王によって魔道具でこの国のお城の庭へワザと飛ばされました。
私たちは、魔王に情けをかけられたのです。
魔王との敗北で王様の願いはかなえられず、私たちは再戦を誓いました」
気になることがあったので、会話を止める。
「ちょっと待って、王様の願いって何?」
絵美さんはちょっと困った顔になった。
「これこそ他言無用でお願いしたいんだけど…」
俺はジェシカさんと顔を見合わせて、絵美さんに了承の頷きをする。
「そもそも、勇者召喚も魔王討伐もこの王様の願いから始まるの。
その願いは、王様の何人かいるお孫さんの1人が魔王によって呪いをかけられたの。
それは、魔王が作った魔道具の1つ。
それによって呪いをかけられたお孫さんは、今もベッドから起き上がれないそうよ」
「それって死の病のようなものなのか?」
「王様の説明では、違うみたいよ。
波みたいなものがあって、体調が悪くなる時は強烈な苦しみや熱が続くらしく
体調がいい時でも苦しみや熱はないけど、手足にしびれがあって動けないみたい。
いろんな医師や教会関係者に見せたけど、治せる人はいなかったそうよ」
「それで、討伐なのね…
呪いの類は仕掛けた本人が、死ぬか解除するしかないのよね」
「魔王と戦う前に、勇者のリーダーが話をしたけど
魔王は呪いを解除する意思はないそうよ。それで戦うしかなかったんだけど…」
「見事、返り討ちにあったってことか…」
「それで、私たちは王様に報告後謁見の間から退場しようとしたときに
その場にいた貴族たちから罵声をあびせられたのよ。
『魔王討伐に失敗するような勇者など死罪にするべきだ』ってね」
俺とジェシカさんはその場にいるような感覚で眉間にしわを寄せていた。
「そこからは私たちも我慢の限界でね、
今まで貴族たちされていたことで鬱憤もたまっていたから
もう謁見の間は、収拾がつかないほどの罵声や奇声が飛び交っていたわ」
「奇声?」
「ええ、貴族の馬鹿を殴り飛ばした勇者がいたの。
その貴族の奇声よ、勇者と貴族の間に騎士の人たちが入って
ようやく睨みあいだけになったけどね…」
ジェシカさんが、貴族が殴り飛ばされたって話でいい笑顔になってる。
「それで、貴族の連中が不敬罪だなんだと言って
勇者たちを捕まえて死罪にしろってうるさくなったんで、私たちは遠征に出たの。
恭也さんは知っているでしょ、ギルドの掲示板に出てた張り紙。
実はあの張り紙は、王様からの恩情なのよ。
王様は、勇者や異世界人を大切に扱ってくれる。何故かはわからないけど
貴族よりも私たちを優先してくれた結果、
勇者や異世界人に、遠征許可を出してくれたのよ」
「へえ、今の王様っていい人なのね~」
ジェシカさんが、感心している。
俺もオークションの時に会ったことがあるから、いい人なのはわかるかな…
「それで、私たちは他の異世界人の人たちとともに
南のべルスベン王国にある迷宮都市ガルチャへ向かったの。
私たち勇者の修行と、他の異世界人たちの格上げにね」
「確かべルスベン王国は、迷宮都市が国の中心になっていたわね」
「ええ、迷宮都市で栄えた国ね。
で、私たちは今までの貯えで土地と建物を購入して住居を得て
迷宮へ挑んでいったわ」
隣のジェシカさんを見ると、目がキラキラ輝いていた。
迷宮にあこがれがあるのかな?
「迷宮には、10人まででパーティーを組んで挑むのよ。
それ以上だと、迷宮自体に入ることができないの。不思議な感覚だった。
で、私たちはパーティー戦力を分析して10人づつに分けて迷宮に挑んだの。
その時一緒だった1人が勝さん」
絵美さんは少し恥ずかしそうに続ける。
「私は勝さんにいろいろ助けてもらってたの。
私の戦闘スタイルは剣と槍を使うものだったから、魔法使いの勝さんは
絶好のパートナーなのよ。
私たちはすぐに意気投合して、いろんな話をして…付き合って…それで…」
「はいはい、のろけ話はいいから何があったかを話して」
ジェシカさんが、少しうんざりと話を修正した。
「…すみません。
え~と、それで私たちは迷宮に挑みながら強くなっていったの。
ところが、先月の初めごろから迷宮に入る冒険者の未帰還者が増えていったのよ。
迷宮の罠や魔物にやられてしまったのかな?
と調べていたら、今月の初めにあることが分かったの。
迷宮のどこかの階層で『デビルロード』が目撃されたって…」
ジェシカさんが椅子を倒して、勢いよく立ち上がる。
「デ、『デビルロード』ですって……?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。




