第5話 村の周りの情報
宿屋の食堂で夕食を済ませると、俺はすぐに部屋へと帰る。
食堂でお酒を飲むってこともできるようだが、あいにく俺は下戸だ。
お酒は20歳の成人式の帰り、友達と飲んで以来飲んでいない。
店に着いて、1杯のビールで俺はつぶれたらしい。
翌日に友達から聞いた話だ。
『飲めないなら、飲めないと言えよ。心配しただろ!』
と怒られたのは、いい思い出だな。
それはともかく、俺は部屋に戻るとベッドに座り『中級魔術書』に目を通す。
そこにはいろんな魔法が載っていたが、ほとんどが初級の上位魔法でしかない。
だがいくつか面白い魔法があった。
例えば、『治癒魔法』
本によると、この魔法を初級の本に載せていないのは治癒をするには魔力がある程度必要なことと、人体構造をある程度知っていないといけないから。と書かれている。
そのため、この中級の本には治癒魔法と同時に人体構造も載っていた。
地球である程度義務教育を受けた俺には簡単な内容だったな。
では、試してみるか…
俺はナイフをアイテムボックスから取り出すと、自分の指を切るために身構える。
「……わかっていても、怖いな。自分を傷つけるなんて…」
しかし、これは通過儀礼の1つだ。
これをしないと、いきなり他人に治癒魔法は使えないだろう。
俺は、人差し指の先にナイフの刃を充てると素早く滑らせた。
「いっ!」
ナイフを滑らせ切った人差し指から、血が出ている。
「い、痛い…少しの傷でも痛いものだな……【ヒール】」
初級治癒魔法を唱えると、淡い緑色の光が傷口で光り治していく。
「こんな風に治るのか…」
傷口が光っているときから、痛みはなくなり傷は始めからなかったように治った。
俺はこの現象に、魔法の万能性に感心した。
しかし、絶対ではないと改めて気を引き締めた。
「いくら治癒魔法が万能でも、どんな傷でも治るわけじゃないようだし…」
本にも過信するなと、注意書きが載っているほどだ。
あと、俺が興味をひかれたのだ『鍛冶魔法』だ。
『鍛冶魔法』は主にドワーフが使う魔法だ。
鍛冶をする際に使い、特殊金属や特殊素材を使いやすくして武器や防具に変えるものだ。
しかし、変えると言ってもこの魔法を使って変えるものではなく
あくまでも鍛冶作業の1部でしかない。
「この鍛冶魔法と、他の魔法を組み合わせれば俺にも鍛冶仕事ができそうだぞ」
俺は村での生活のことを考えながら、鍛冶魔法を覚えることにした。
「何かを育てるには、土魔法が役立ちそうだし。
他にも便利に生活できそうな魔法もあるし、これは楽しみになってきたな」
田舎生活に、一筋の光を見出しその日は床に就いた。
次の日の朝、目を覚ますとベッドから降りて着替えを済ませ
昨日、寝るまで読んでいた『中級魔術書』をアイテムボックスに入れると
ベッドのシーツを整えて【クリーン】の魔法を部屋全体にかけた。
「よし、きれいになったな」
部屋に鍵をして1階に降りると、食堂で朝食を食べて鍵を返して宿を後にした。
『ナルバ村』に行く乗合馬車は、中央広場にすでに用意されている。
「おはようございます」
俺は御者のおじさんに挨拶をすると、「ああ、おはよう」と返される。
どうもこんな風に挨拶を御者の人にするのはめずらしいようだ。
「お客さんかい?」
「ええ、『ナルバ村』までよろしくお願いします」
「おう、しかし『ナルバ村』に行く人なんて珍しいね」
「珍しいですか?」
「ああ、『ナルバ村』に行くなんて行商の人か里帰りの人しかいないからな」
俺は、少し村について御者のおじさんに聞いてみた。
「村ってそんなに辺鄙なところにあるんですか?」
「『ナルバ村』は隣の国との国境付近にある村でな、すぐ近くに砦が建っている。
で、砦の先に国境があるわけだ。住んでる人も50人ぐらいの村で、
村に唯一ある冒険者ギルドが、店や宿屋なんかも一緒にやっているほどだ」
「それはまた、寂しい村ですね…」
「最近じゃあ、隣の国と折り合いが悪くてな国境の監視が厳しくなって
隣の国に行こうなんて奴はいないな」
「…戦争ですかね?」
「いや、そこまでじゃあないみたいだけどな。でも、警戒はしといた方がいいぜ」
「わかりました、村に行ったらそのこと頭に入れておきます」
「おう、がんばりなよ」
御者のおじさんはそう言って、時間まで話し相手になってくれた。
9つの鐘の時間になり、俺が乗合馬車に乗ると2人先に乗っていた。
「おはようございます」
俺があいさつをすると、2人の乗客も挨拶をしてくれる。
先に乗っていたのは、1人は冒険者の男性。
武器の剣を鞘に納めたまま傍に置いて、荷物も隣に置き周りを警戒している。
おそらく護衛に雇われた人だろう。
もう1人は町娘って感じの女性。
想像するに、『ナルバ村』へ里帰りって感じか。
荷物をこれまた隣の席に置き外を眺めていた。
俺は荷物はすべてアイテムボックスの中なので、手ぶらで乗り込み席に座る。
2人は俺が荷物を持っていないことを不思議に思ったものの、
何も言わずに席に座っていた。
「それじゃあ、出発しますね」
御者のおじさんの声で、馬車は動き出し東門を出て『ナルバ村』へ向けて動き出した。
いよいよ『ナルバ村』だ、ドキドキが止まらないな…
村への道中は、実に平和だった。
盗賊や魔物が出てくることもなく、たまに砦に常駐していると思われる兵士の小隊が
街道を通って町へ行軍していた。
この砦の兵士たちの行軍が、盗賊や魔物が現れない理由なんだろうな~
ある意味、ありがたいことだ。
そして、3時間ほど馬車に揺られながら進んでいると御者のおじさんが声をかけてきた。
「お客さん、村が見えましたよ~」
俺はその声を聴いて、馬車の窓から前方を見ると
2メートルほどの壁に囲まれた村らしきものが見えてきた。
村への入り口には兵士が1人立っているが、何か暇そうだ。
それぐらいのんびりした村なのだろう。
読んでくれてありがとうございます。
次回もなるべく早く上げてまいります。